本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『企業法務ニューズレター(2020/3/3号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

1. はじめに

※本記事は、2020年3月2日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大は、事業活動や人々の活動に様々な影響を及ぼします。このような状況下、取引先との契約関係や、労務関係等、企業法務の観点から検討すべき点は多岐にわたります※1。そこで、以下では、新型コロナウイルス感染症の拡大により生じ得る主な法務問題について概説します。

 

※1. 新型コロナウイルスと中国業務における法律問題については、野村高志=東城聡『新型コロナウイルスに関する法務問題Q&A―労務問題、取引契約(不可抗力)、業務運営、優遇・支援策―(西村あさひ法律事務所中国ニューズレター2020年2月19日号)』をご参照ください。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大で事業活動に様々な法務問題が…
新型コロナウイルス感染症の拡大で生じ得る「法務問題」とは?

2. 契約上の義務の不履行

(1)不可抗力条項

 

納期に売買の目的物を引き渡すことができなかったり、受託業務を契約通り実施できない場合、債務者は履行遅滞や履行不能による債務不履行責任を負います。しかし、債務不履行が天変地異など当事者のコントロールの及ばない事由によるものである場合、不可抗力による免責が認められるのではないかが問題になります。

 

何が「不可抗力」とされているかは、契約書によって様々であり、不可抗力の効果(債務者の免責範囲や解除権の有無等)も様々ですので、それぞれの契約書ごとに内容を検討する必要があります。実務上、「天変地異、戦争、暴動…その他…」といくつか不可抗力事由を列記した上で、キャッチオールを設ける条項がよく見られますが、「感染症」が明確には例示列挙された事由にあたらないときに新型コロナウイルス感染症による影響は不可抗力事由にあたるか、例示列挙されていたとして、感染症に起因する原料の調達不能等の二次的影響は不可抗力事由に含まれるのかなど、不可抗力条項の解釈として、個々の事案に適用があるのかどうか難しい判断となる場面も多くあります。最終的に両当事者の損害を最小化するために何ができるか相互に解決策を模索し、協議で解決することとなるとしても、協議に臨むにあたり、自社の契約上のポジションを把握しておくことは重要です。

 

(2)民法上の権利関係の整理

 

契約書の不可抗力や契約違反に関する条項の適用がない場合、日本法を準拠法とする契約であれば民法の適用を考えることになり、債務者に帰責事由があれば※2、債権者は契約の解除(民法541条-543条)や損害賠償請求(同法415条)を行うことができます。当該債務者に帰責事由があるのか、どの範囲の損害まで法的に請求可能と判断されるか等は、個別事案ごとに論点になります。

 

この点、2020年4月1日から施行される改正民法の下では、債務者の帰責事由の有無を問わず債務不履行に基づく契約解除が認められるようになります(改正民法541条以下参照)。また、履行不能について当事者双方に帰責事由がない場合、危険負担が問題となりますが、その効果も、反対給付債務の消滅(民法536条1項)から、反対給付の履行拒絶に改められます(改正民法536条1項)。

 

新法と旧法のいずれが適用されるかによって法的効果に違いが生じ得ますので、改正民法の経過措置規定の適用関係も踏まえて契約関係を確認することが必要です。

 

※2. 金銭債務については、帰責事由の不存在や不可抗力は免責事由とはなりません(民法419条3項)。なお、政府の「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(平成29年9月12日〔変更〕)では、金銭債務の支払猶予等について、「国は、新型インフルエンザ等緊急事態において、経済の秩序が混乱するおそれがある場合には、その対応策を速やかに検討する」とされています(新型インフルエンザ等対策特別措置法58条参照)。

3. 受領遅滞

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、受入体制が整わない、予定していたイベントが中止された等により、債権者が債務の履行を受けられないこともあります。判例は、一般的には債権者であることのみを理由に受領義務や協力義務が認められるものではない(つまり、受領できなくても債務不履行にはならない)との立場をとっていると評価されていますが、契約その他の債権の発生原因や、信義則に基づいて個別に受領義務や協力義務が認められる場合はあり得ます※3。また、下請法上の問題については、下記4をご参照ください。

 

受領遅滞の効果について、現行民法では、「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う」とのみ定められており(413条)、具体的な定めはありません。改正民法では現行法下での判例や一般的な解釈に従い、受領遅滞の効果(目的物保存義務の軽減、増加費用の債権者負担、受領遅滞中の履行不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなすこと等)が明文化されています。

 

※3. 硫黄鉱石売買契約において、信義則上、買主の引取義務を肯定した最判昭和46・12・16民集25巻9号1472頁参照。

4. 下請取引における留意点

新型コロナウイルス感染症は企業のサプライチェーンにも影響を与えます。2020年2月14日には、経済産業省から、(1)「親事業者においては、今回の新型コロナウイルス感染症の発生に伴って、下請事業者に対し、①通常支払われる対価より低い対価による下請代金の設定、②適正なコスト負担を伴わない短納期発注や部品の調達業務の委託など、負担を押しつけることがないよう、十分に留意すること」、(2)「親事業者においては、今回の新型コロナウイルス感染症により影響を受けた下請事業者が、事業活動を維持し、又は今後再開させる場合に、できる限り従来の取引関係を継続し、あるいは優先的に発注を行うよう配慮すること」が要請されました※4

 

独占禁止法の優越的地位の濫用規制(独占禁止法2条9項5号、19条)を補完するものとして、下請法は、親事業者の受領拒否、支払遅延、下請代金の減額、返品、買いたたき等の禁止行為を定めているところ(下請法4条)、東日本大震災時には、公正取引委員会により、災害発生時における、受領拒否や返品など取引上の問題に対する、独占禁止法及び下請法における考え方※5がとりまとめられました。上記要請文では、新型コロナウイルス感染症に関連する事象との関係でも、その問題に対する基本的な考え方は同様であるとされています。

 

例えば、新型コロナウイルス感染症の影響により下請事業者のコストが通常の発注に比べて大幅に増加するため、下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず、下請事業者と十分に協議することなく、通常の発注をした場合の単価と同一の単価に一方的に据え置くことは、買いたたきとして下請法上問題となるおそれがありますし(問11)、部品AとBで商品Cを製造している場合に、部品Aが手に入らなくなったことを受けて下請事業者に発注していた部品Bの受領を拒否することも、下請事業者に責任がない場合には下請法違反になると考えられます(問9)。親事業者も事業場の閉鎖等で受領能力がない場合もあり得ますが、その場合も、代替的な事業場での受領の可能性も含め、親事業者は可能な限り受領する手段を講ずる必要があると考えられます。

 

但し、客観的にみて当初定めた納期に受領することが不可能であると認められる場合に、両者間で十分協議の上、相当期間納期を延ばすこととなったときは、そのような事情は十分考慮されますので、親事業者としては、このような特別な事情や経緯について、事後的にも分かるような記録を残しておくことが望ましいとされます(問4)。

 

※4. 「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する配慮について」(経済産業省20200213中第7号)

 

※5. 「東日本大震災に関連するQ&A」(www.jftc.go.jp/soudan/shinsaikanren/23jishinqa.html)

5. イベント等の中止

2020年2月25日に政府が決定した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」※6では、地域や企業に対して、イベント等を主催する際には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討することが要請され、同月26日には、改めて政府から、多数人が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等について、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応をとることが要請されました※7

 

このような状況下、多くのイベント等が中止又は延期されています。これに伴う契約関係の処理はそれぞれの契約、約款等の定めに従うことになりますが、消費者=事業者間の契約では、消費契約法の適用にも気を付ける必要があります※8

 

※6. 「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599698.pdf)

 

※7. 新型コロナウイルス感染症対策本部(第14回)(www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202002/26corona.html)

 

※8. 既に支払われた参加費やチケット代の取扱いについて、詳しくは、矢嶋雅子=森田多恵子『キャンセル時の返金と消費者契約法(西村あさひ法律事務所企業法務ニューズレター2020年2月25日号)』をご参照ください。

6. 労務関係

(1)テレワーク等

 

企業では、在宅勤務や時差出勤が広がっています。在宅勤務は、情報通信技術を利用して行う事業場外勤務(テレワーク)の一つですが、テレワークを行う労働者にも、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等は適用されます。

 

テレワークを行う場合の課題の一つに、労働時間の適正な把握があります。通常の労働時間制度に基づきテレワークを行う場合、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」※9に基づき、適切に労働時間管理を行う必要があります。所定労働時間又は業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法38条の2)を採用する場合には、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であることが必要です※10

 

また、労働者が使用者と離れた場所で勤務するため、相対的に使用者の管理の程度が弱くなるおそれがあること等から、長時間労働を招くおそれがあることも指摘されています。テレワークによる長時間労働の抑制の手段としては、①役職者等から時間外、休日又は深夜におけるメール送付の自粛を命じること、②深夜・休日のアクセス制限、③テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止や許可制、④長時間労働を行う労働者への注意喚起等が挙げられます※11

 

今回の新型コロナウイルス対策として、急遽大半の従業員が在宅勤務となった企業も多いと思われます。始業・終業の時間、事業場外みなし労働時間制の導入、テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止や許可制、賃金体系、情報通信機器・作業用品等の負担、テレワークを行う労働者の社内教育・研修等、就業規則で定めておくべき事項は多くあります。一度自社のテレワークに係る制度・ルールを見直すことが望ましいと考えられます。

 

※9. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

 

※10. その具体的な要件について、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」5頁以下参照。

 

※11. 「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」9頁以下。

 

(2)労働者の休業手当

 

労働者の休業には、労働者が新型コロナウイルスに感染したり、その疑いがある場合だけでなく、新型コロナウイルスの影響で事業そのものを休止せざるを得ず、休業する場合もあります。使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする、いわゆる安全配慮義務(労働契約法5条)を負っていますので、事業場・職場での感染拡大を防止するべく、新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者に対して休業を命ずるなどの対応も検討する必要があると思われます。

 

労働基準法26条は、使用者が、使用者の責めに帰すべき事由により労働者を休業させたときは、休業期間中、当該労働者の平均賃金の6割以上の手当を支給しなければならないとしています。同条の「使用者の責に帰すべき事由」の意義について、不可抗力は除かれますが、「不可抗力」というためには、①その原因が事業の外部より発生した事故であること及び②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても、なお避けることができない事故であることの2つの要件を満たす必要があると解されています。また、判例は、同条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項前段に定める「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むと解しています※12

 

厚生労働省が公表した「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(令和2年3月2日時点版)」では、新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取扱いについては、労使で十分話し合い、労使が協力して労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えることを要請しつつ、休業手当の要否について見解を示しています。

 

これによると、新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限(感染症法18条)により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当せず、休業手当を支払う必要はないと考えられます(3-問2)。就業制限がない場合、「帰国者・接触者相談センター」での相談の結果を踏まえても、職務の継続が可能である労働者を、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります(3-問3)。年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものであるため、新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いはできません(3-問6)。なお、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱うことになります(3-問4)。

 

※12. 最判昭和62・7・17民集41巻5号1283頁。例えば、親会社の経営難による資金・資材の入手困難による休業(昭和23・6・11基収1998号)や業務を受注できなかったことによる休業(東京地判平成11・5・21労判776号85頁)が挙げられます。他方、厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(令和2年3月2日時点版)」3-問5では、「例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。」とされています。

7. 株主総会

大規模なイベントの自粛が求められる中、会社法上、株式会社は毎事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を招集しなければならないとされており(会社法296条1項)、3月に定時株主総会を予定している12月決算会社も多くあります。

 

(1)来場者数の抑制

 

患者・感染者との接触を減らし、感染症を予防する観点からは、招集通知や自社ウェブサイト等で、株主総会当日に会場に来場することに代えて、事前の議決権行使(書面投票、電子投票。会社法298条1項3号・4号)を行うことを促す、あるいは呼びかけることが考えられます。また、対応が可能な場合には、インターネット等を利用したハイブリッド型バーチャル株主総会の活用も検討することが考えられます。経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(2020年2月26日)※13では、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することが可能な参加型と、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる出席型のそれぞれについて、法的・実務的論点及び具体的取扱いが解説されています。インターネットを用いて会場に来なかった株主に対する情報開示の充実を図るという観点からは、自社ホームページなどで、質疑応答の要旨を掲載する、オンデマンド方式での動画配信を行う等の取り組みを行うことも考えられます。

 

※13. https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html

 

(2)会場での対応等

 

会場での感染を防止するための措置としては、スタッフがマスクを着用する、株主にもマスク着用を呼びかける、会場入り口付近など複数箇所に消毒液を設置し、株主にも消毒液の噴霧について協力を求める、①~③により受付付近の混雑が見込まれるため、来場時間の分散(早めの来場)を呼びかける、受付において出席株主の体調確認や検温を行う、体調不良が窺われる株主には、入場を控えるよう要請するといった対応が考えられます。

 

顕著な症状が見られる株主の入場を拒否し、又は退場を命じることができるのかどうかは論点になります。新型コロナウイルスの感染拡大防止が社会的な問題となっている今日においては、発熱や咳き込むなどの症状が顕著に見られる株主に、当該株主が実際に新型コロナウイルスに感染しているかどうかを確認しなくとも、他の株主への感染防止や、他の株主が感染の恐怖を感じず平穏に議事に参加できるようにする観点から、入場を控えるよう要請し、要請に応じない場合は入場を拒み、又は退場を命じることも、議長の秩序維持権限(会社法315条)の行使として認められるのではないかと考えられます。但し、この場合、退場を命じる前に、要請に従わなければ退場させる旨の警告を発しておくことが無難であると考えられます※14。また、株主の出席を拒否するのではなく別室等に誘導することにより他の株主から隔離した上で株主総会に参加させることが可能かどうかについても検討を要します。

 

※14. 大阪株式懇談会編『会社法実務問答集Ⅰ(上)』227-229頁[前田雅弘]参照。

 

(3)開催日時の変更

 

予定の日時に株主総会を開催することができない事態に至った場合、招集の撤回や開催日時の変更、基準日の再設定を検討することになるため、それぞれの場合に必要な法的手続について確認しておく必要があります。

 

新たな開催日の目途が立っていない場合には、招集手続を撤回し、目途が立った段階で招集手続をやり直すことになります。招集の撤回は、招集手続に準じ、取締役会で決議した上で、株主に書面をもって通知すべきであり、当初の招集日より前に当該通知が株主に到達することが望ましいものの、時間的余裕がない場合でも、広告やウェブサイト上の告知等により可能な限り株主への周知を図る必要があると考えられています。変更後の日程が決まっている場合には、開催日時を変更することになります。日時の変更も、取締役会決議を経て、株主に変更前の開催日かつ変更後の開催日の2週間前までに通知が到達していることが原則的な方法と考えられます。

 

新型コロナウイルス感染症の影響により当初予定した時期に株主総会を開催できない場合における、定時株主総会の開催については、法務省から解釈が示されました※15。すなわち、定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも、通常、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられ、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられるとされています。

 

また、会社法上、基準日株主が行使することができる権利は、当該基準日から3ヵ月以内に行使するものに限られるため(会社法124条2項)、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定められた定時株主総会の議決権の基準日から3ヵ月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があること(会社法124条3項本文)、特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは、定款で定めた剰余金の配当の基準日に株主に対する配当はせず、その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め、剰余金の配当をすることもできるが、剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には、当該基準日の2週間前までに公告する必要があること(会社法124条3項本文)についても明確にされています。

 

※15. 「定時株主総会の開催について」http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

8. おわりに

以上で述べた事項以外にも、企業としては、決算への影響の確認※16、BCP(事業継続計画)やリスクマネジメント計画の見直しの検討等、なすべきことは多くあります。「いつも通り」とはいかない状況下では、多くの法的論点が生じます。このような時こそ、企業法務担当者としては、正確な情報把握と冷静な法的分析を行うことが重要になるといえるでしょう。

 

※16. なお、金融商品取引法に基づく開示書類(有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書)について、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められている旨のお知らせが金融庁から出されています(https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html)。また、証券取引所からも、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱いが公表されています(https://www.jpx.co.jp/news/1023/20200210-01.html)

 

 

森田 多恵子
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

ニューヨーク州弁護士

 

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  森田 多恵子

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