子が親の「老人ホームの入居金」を負担…贈与税は課税される?

高齢化が進み、親の面倒をみる子どもが増えています。老人ホームの費用を負担する、というケースもあるでしょう。このとき、気を付けなければいけないのが贈与税です。今回は、子どもが親の老人ホームの入居金を負担した場合、贈与税は課税されるかどうか、考えていきます。※本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。

老人ホーム入居金は「通常の日常生活に必要な費用」?

両親が老人ホームに入るので、わたし(=子ども)が入居一時金を負担しようと思うのですが、これは子どもから親に対する生前贈与になり、課税されますか?

 

このような心配の声を聞くことがあります。

 

このように、子から親への贈与だけでなく、夫から妻、妻から夫、これも贈与にあたるのではないか、という声もあります。

 

結論からいうと、「社会通念上を必要であると認められる範囲内の負担であればこれは贈与税が課税されない」とされています。非常に漠然とした言い方なのですが、国税庁のホームページ内に「贈与税が課税されない場合一覧」というページがあるので、そちらをチェックしてみましょう。そこには下記のように書かれています。

 

No.4405 贈与税がかからない場合

[平成31年4月1日現在法令等]
贈与税は、原則として贈与を受けたすべての財産に対してかかりますが、その財産の性質や贈与の目的などからみて、次に掲げる財産については贈与税がかからないことになっています。

(中略)

2.ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。

なお、贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。

 

つまり老人ホームの一時金が、社会通念上、「通常の日常生活に必要な費用」と認められるのであれば、贈与税はかからないといえるのです。

 

子どもが親を支援…贈与にあたる?
子どもが親を支援…贈与にあたる?

老人ホームの入居金で争った、2つの事例

では、「通常の日常生活に必要な費用」とは、どのような範囲のことをいうのでしょうか。これについては有名な裁判が2つあります。まずひとつめが、国税不服審判所で争い、平成22年11月19日に裁決となった事例です。

 

平22.11.19裁決

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人G(以下「請求人G」という。)及び同J(以下「請求人J」といい、請求人Gと併せて「請求人ら」という。)が、被相続人の配偶者が介護付有料老人ホームへ入居する際に被相続人が支払った入居金は、被相続人からの配偶者に対する相続開始前3年以内の贈与であるとして相続税の課税価格に加算して申告した後、当該入居金の支払は、被相続人の配偶者に対する生活保持義務の履行であるから、贈与に当たらないとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該入居金の支払は贈与には当たらないが、本件入居金の一部が被相続人の配偶者に対する金銭債権であるとして相続税の更正処分をしたのに対し、請求人らが、同処分の取消しを求めた事案である。

[裁決]
被相続人が配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金は、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要はない

 

こちらの裁決は、ひと言でいうと、老人ホームの入居一時金は、通常の日常生活に必要な費用に該当する、つまり贈与税は課税しませんと判断されました。どのようなポイントがあったか、筆者なりに下記の通りまとめてみました。

 

[POINT]
・入居一時金945万円
・部屋の広さ15㎡
・入居時の妻は要介護4の認定を受けていた
・入居時、妻は自宅と80万円の預金しか持っていなかった
・施設は、通常の老人ホームの機能しかない施設であった

 

この5つのポイントを総合的に判断すると、入居一時金945万円は、扶養義務者間、つまり夫婦間で通常の日常生活に必要な費用の範囲だったというわけです。

 

もうひとつが、国税不服審判所で争い、平成23年6月10日に裁決となった事例です。

 

平成23年6月10日裁決

(1) 事案の概要


本件は、被相続人の妻である審査請求人(以下「請求人」という。)が申告した相続税について、原処分庁が、請求人及び被相続人が有料老人ホームに入居するに当たり、入居契約上請求人が支払うべき入居金の一部を被相続人が負担したことは、被相続人からの請求人に対するみなし贈与に該当するとして、当該負担額を相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算して更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、入居金は終身利用権の対価であり、終身利用権は一身専属権であるから相続税の課税対象にはならない等として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

[裁決]
被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金は、贈与税の非課税財産に該当しないから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要があるとした。

 

こちらの事案では、社会通念上、適正な範囲と認められませんでした。こちらもどのようなポイントがあったか、筆者なりに下記の通りまとめてみました。

 

[POINT]
・入居一時金1億3370万円
・入居時から問題が発覚するまで、妻に介護は必要ない状態だった
・施設にはフィットネスクラブ、プール、エステなどの豪華な設備があった

 

このように、社会通念上、適正な範囲と認められたケースと、認められなかったケースの2つがあります。筆者が注目するのは、適正範囲と認められたケースです。税務調査で一度は「贈与税、追加で課税しますよ」とされています。その判断に不服のある納税者が訴えるという流れではありましたが、介護が必要で預金がないとしても贈与税の課税対象になると現場は判断した、ということです。

 

インターネットを見ていると、老人ホームの入居費用の相場は、350万~500万円くらいだそうです。これくらいであれば問題にはならないでしょう。しかし平成22年の事例では945万円で問題になっているので、これくらいの金額だと、夫が妻のために払うときはもちろん、子どもが親のために払ってあげるときは、注意が必要でしょう。

 

 

【動画/筆者が「親の老人ホーム入居金を負担する場合の贈与税」について詳しく解説

 

橘慶太

円満相続税理士法人

円満相続税理士法人 代表 税理士

中学・高校とバンド活動に明け暮れる。大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人山田&パートナーズに正社員として入社する。

税理士法人山田&パートナーズでは相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算300件以上。また、三井住友銀行・静岡銀行・ゆうちょ銀行を中心に、全国の銀行で年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。

税理士の使命は、難解な法律や税金をできる限りわかりやすく伝えることだと考えている。平成29年1月に表参道相続専門税理士事務所を設立し、平成30年より法人化に伴い、円満相続税理士法人に商号を変更した。

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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