特定の第三者に株式を割り当てる「第三者割当増資」
「第三者割当増資」とは、第三者を限定して新しく株を発行して買ってもらうことで資金を集める、資金調達の一つの手法です。一般的に増資をすると、会社に対する支配権などが変更になる可能性があります。そこで第三者割当増資では、まったく関係のない第三者ではなく、ライアントや取引先、付き合いがある金融機関、会社の役員など、会社の縁故者であることが多く、縁故割当増資ともいいます。
上場会社が増資する場合、株式を公開していることから、不特定多数の投資家向けに新しい株式を発行して、「公募増資」という形で増資を行います。一方、中小企業は一般的には非公開会社であるため、「公募増資」ではなく「第三者割当増資」を多く活用しています。
またM&Aで第三者割当増資を活用されるケースもあります。買手会社を第三者と指定し新しい株式を発行して増資を受けます。なお、買手会社の持ち株が過半数を超えた場合、経営権が買手会社に渡ることになります。
実際に第三者割当増資をした時のシミュレーションをみてみましょう。
■既存株主の持ち株
資本金:2,000万円
株価:10万円
発行済株式数:200株
■新しい株主の持ち株
増資資金:1,000万円
株価:10万円
株式数:100株
■第三者割当増資後の株式構成
資本金:3,000万円
発行済株式数:300株
株主構成:既存株主66.7%、新しい株主33.3%
第三者割当増資後も既存株主が経営権を所有します。
■既存株主の持ち株
資本金:2,000万円
株価:10万円
発行済株式数:200株
■新しい株主の持ち株
増資資金:3,000万円
株価:10万円
株式数:300株
■第三者割当増資後の株式構成
資本金:5,000万円
発行済株式数:500株
株主構成:既存株主33.3%、新しい株主66.7%
第三者割当増資後に、新しい株主の持ち株が2/3を超えるので、経営権は新しい株主に移ります。
第三者割当増資で、事業拡大&信頼性もアップ
第三者割当増資は資金調達として非常に有効的な手法であり、第三者割当増資を活用して資金調達することで、会社の運用資金の基盤を大きくすることができます。会社に資金力があれば新しい事業に投資したり、商品開発に投資したりと、事業拡大のスピードが加速できます。
また第三者割当増資により、会社の資本金が増えることによって、会社の信頼性アップにもつながるでしょう。
またM&Aを目的とした第三者割当増資の場合、会社の資本金が増資されて、会社の経営権を買手会社に渡すことになります。既存株式を譲渡するわけではないので、税金は発生しません。
一方、第三者割当増資により、既存株主の持ち分の少なくなるというデメリットがあります。第三者割当増資によって持ち分が少なくなる既存株主を守るため、2009年、東京証券取引所は「25%ルール」「300%ルール」を設けました。
「25%ルール」「300%ルール」は、第三者割当増資をすることによって、「増資後の株式の議決権数/増資前の発行済株式の議決権総数」が25%もしくは300%を超えないという制限です。25%を超えた場合、株主総会にて株主の意思確認手続きを行います。300%を超える第三者割当増資は株主を守ることが難しいという理由から原則禁止で、株主および投資家の利益に侵害するおそれが少ないと認められた場合を除いて、上場廃止のペナルティが課せられます。
また非上場会社の場合、株の評価価格は公表されていないことから、新しい株の発行価格は公正なのかどうかの判断が難しいところです。株価の算出には、複数の方法があるので、公正の観点で公認会計士など、専門家に相談するといいでしょう。
さらに第三者割当増資すると、増資後の資本金額によって増税の可能性あります。税率が変わる資本金額は、「1,000万円以上」と「1億円以上」が基準になっています。
第三者割当増資の「有利発行」とは?
有利発行とは、第三者割当増資のひとつで、新しい株式を発行する時に、その株価を通常の株価より10%前後安くして、第三者にとって有利にする手続です。
有利発行することは、既存株主の利益を侵害することになるので、株主総会で特別議決を行うようにします。株主の同意を得ずに行う場合、株主から差止めを請求されることがあるので、注意が必要です。
また相場の株価で第三者割当増資行う場合、税金は発生しませんが、有利発行の場合、相場の株価より安く発行するので、その差額は利益とみなされ、下記の通り課税されます。
法人の場合:法人税が課税される
個人の場合:所得税が課税される
親族の場合:贈与税が課税される