日本政策金融公庫の調査データによると、後継者問題などで3割以上の企業は廃業を予定しています。しかし会社を立ち上げるのは簡単ですが、実際に会社を廃業、廃止にするのは簡単なことではありません。そこで今回は、会社を廃業、廃止、閉鎖をする時の手続き、費用などについて解説していきます。※本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。

会社を「廃業」「廃止」にする時の流れ

どちらに行こうか、経営者の悩みどころ
どちらに行こうか、経営者の悩みどころ

 

会社を作るのは簡単ですが、実際に廃業、廃止となると非常に煩雑な手続きになります。会社の廃業は「解散」と「清算」の2段階で手続きをきちんと行うことによって、初めて廃業が完了します。大まかに、下記の(1)~(13)の手続きがあり、大体2ヵ月前後かかるといわれています。

 

(1)社員、クライアントなどに「廃業のお知らせ」の書面にて通知する

自社の都合とはいえ、社員、クライアントのことも考慮すべきなので、実際に廃業する予定の2、3ヵ月前に通知するようにします。廃業のお知らせには、廃業の理由については特に述べる必要がありません。

 

(2)株主総会で「解散決議」するのと「清算人」を選出する

会社を解散するには、会社法で決められた事由で特別決議にて解散する必要があります。自主廃業の場合は株主総会を開催し、その株主総会に発行済み株式数の過半数の株主が出席した上で、2/3以上が解散に対する同意を得る必要があります。

 

なお、会社を廃業するによって財産を清算する必要があり、その清算人も株主総会にて選出しなければなりません。一般的には社長が清算人になるケースがほとんどです。

(3)解散日から2週間以内に法務局にて「解散登記」と「清算人選任登記」する

 

(4)税務、社会保険などのお届けを出す

 

(5)官報に「解散公告」をし、債権者に通知する

会社を解散するにあたって、借金や未払金があった場合きちんと返さないといけません。債権者に債権を申し出るよう官報にて「解散公告」を掲載すること、法律上で決められています。きちんと債権者に債権の通知をしてもらうには、2ヵ月以上の掲載期間を設ける必要があります。

 

(6)決算書類を作成する

会社の廃業は「解散」と「清算」の2段階で手続きを行っており、まずは解散時の決算書類を作成する必要があります。決算書に添付される「財産目録」「賃貸対照表」などの書類については、株主総会での承認が求められます。

 

(7)純資産がマイナスな場合、破産などの手続きを行う

 

(8)解散日から2ヵ月以内に、事業始めた日から解散日までの「解散確定申告」をする

 

(9)債権回収、残余財産の分配をする

会社の債権を回収して、債権の弁済をしたり、残余財産を株主に分配して清算結了します。なお、他の債権者への返済ができなくなるというリスクがなく、裁判所の許可を得た場合は弁済しても構いません。

 

(10)株主総会にて「決算報告書」の承認をもらう

株主総会で承認をもらい、清算もきちんと結了すると、正式に法人格が消滅することになります。

 

(11)決算報告書承認後2週間以内に、法務局にて「清算結了登記」する

清算結了登記を持って、法人登記記録が閉鎖されます。なお、支店などがある場合、その支店がある所在地にて「清算結了登記」を行います。

 

(12)残余財産確定日から1ヵ月以内に、その事業年の「清算確定申告」する

 

(13)税務署など関連官公庁に「清算結了届」を提出する

 

会社を廃業するためのコストは?

会社を廃業するには、手続きが煩雑なだけではなく、費用もかかります。

 

(1)登記にかかる費用

①解散・清算人登記:3万9,000円

−解散登記の登録免許税:3万円

−清算人選任登記の登録免許税:9,000円

②清算結了登記:2,000円

 

(2)官報公告にかかる費用

官報に「解散公告」をし、債権者に通知することに対しても費用がかかります。なお、官報公告は行数によって費用の変動があります。3万3,000円ほどが目安です。

 

(3)司法書士など専門家に依頼した場合

手続を専門家に依頼する場合、専門家への報酬費用もかかります。大体10万円前後が1つの相場といえるでしょう。

 

また会社を解散するときに、資金不足で債務が残ってしまう場合も考えられます。会社の債務は代表の債務だと思われている方も多いですが、実際は会社と代表は別々なので、会社の債務は代表が肩代わりすることはありません。しかし、代表が連帯保証人になっている会社債務は、連帯保証人である以上弁済する義務があります。

 

代表が連帯保証人となった債務の他にも債務が残っている場合は、返済しないで自己破産するか、弁済をする方法があります。弁済をする場合、その債権に保証協会がついているかどうかで対応が異なります。

 

保証協会がついている債権であれば、金融機関は返済不能と判断した時点で保証協会による「退位弁済」が行われます。元々の債権者である金融機関から、その債権が保証協会に移り、保証協会が新しい債権者となります。

 

もちろん一括返済は難しいですが、分割返済すると保証協会と交渉することができます。月々数千円から数万円と、自身が返済できる範囲内で交渉します。

 

債務に保証協会ついてない場合は、国に認められた債権回収会社であるサービサーに売られる場合があります。サービサーに債権を売ることによって、金融機関にとっては一部の債権を回収できるというメリットがある反面、不良債権であるため、元の債権額よりずっと安い金額しかならないというデメリットがあります。

 

債権がサービサーに売られた場合、サービサーと返済について交渉することになります。保証協会と違うのは、保証協会は債権全額の負担に対して、サービサーは元の債権額よりかなり安い金額で買っています。分割して返済してもいいですが、一括で返済できる額で交渉して、残りを放棄してもらう場合もあります。

廃業の前に検討したい2つの対応方法

会社を廃業してしますと、すべての可能性がなくなります。後悔しないよう実際に廃業をする前に、他の解決策を検討しましょう。

 

現状は経営していくには難しいですが、またどこかのタイミングを継続する可能性があるなら、廃業の前に休業状態にするという選択肢があります。もう営業しないから、そのまま放置してもいいと思われている方もいると思いますが、法人である以上、原則毎年住民税がかかります。面倒なことにならないよう、きちんと休業手続きをするようにしましょう。

 

もう1つ、M&Aを活用して会社を売却する方法もあります。せっかく努力して会社を経営してきたのに、このまま廃業するのは非常にもったいないことです。経営者が変わったとしても、会社を継続させることの意味は大きいのではないでしょうか。

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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