株価は「何気ない日常」にも反応する
個人投資家は、1つひとつの銘柄を丁寧に調査しがちです。しかし、個々の株価を見ていっても、その変動にそこまで大きな相関性はありません。そもそも、すでに世に公表されている情報は株価にすでに織り込まれています。
一方、市場全体の指数で株価の動きを見ていくと、時代の変わり目となる出来事が大きく影響していることがわかります。その転換点が重要な材料であるほど、長期的なトレンドとなって表れるのです。
わかりやすいように日経平均株価で考えていきましょう。たとえば2012年12月。この時期から、日経平均株価は顕著に上昇を始めましたが、何があったか覚えているでしょうか。答えは「アベノミクス」。2012年12月に発足した第2次安倍政権は、大胆な金融政策・機動的な財政政策・成長戦略を合わせた「三本の矢」から成る経済政策「アベノミクス」を打ち出し、継続的な経済成長を目指しました。
この政策は、市場に大きなインパクトを与えたのです。
当時は円高がひどく、1ドル80円付近を推移していました。それに伴って、輸出企業が多い日本は非常に苦しんでいました。しかし、アベノミクスによって一気に円安方向へ動き、2015年には1ドル120円を超えました。そして、2012年は1万円台だった日経平均株価は3年間かけて2万円台にまで回復したのです。
このようにアベノミクスという出来事は投資家たちに、今後、日本経済は好転していくだろうと思わせる空気を作りだし、長期的な株価の上昇を引き起こしたのです。
株価の値動きの裏には時代の流れがつきものです。国や世界全体が関わってくるようなイベントになれば、株価は大きく変動し、長く続いていくのです。
では株価は、国や世界の経済全体を動かすような出来事だけで動くのでしょうか? 違います。もちろんアベノミクスのような大きな材料だけで株価は大きく動きますが、実際は、毎日のように投資家同士の需給によって細かく変動しているのです。そのきっかけになるものは、一見、関係のない些細な出来事である時もあるのです。
たとえば、2016年10月11日から12月20日にかけて放送された『逃げるは恥だが役に立つ』というドラマは、放送局であるTBSの株価に影響を与えました。このドラマが広く話題になるほど大ヒットしたことはご存じの通り。最終回は近年のテレビドラマでは珍しく、20.8%にも達しました。
しかし、その事実と株はあまり関係がないように思うでしょう。しかし、実際に市場ではそのニュースが好材料視されて、TBS株は上昇した。それだけでなく、『逃げるは恥だが役に立つ』の内容に関係するウエディングや家事代行に関わる株にとっても好材料となったのです。
このように日常生活の何気ない出来事も株価に影響を与えます。身の回りでなにが流行っているのか、どうして流行っているのかを考えると投資で勝つチャンスが転がっているかもしれません。
個人投資家は「社会情勢」を掴もう
株価は何かしらイベントが起きた時に動くことがわかりました。また、そのイベントが及ぼす影響が広範囲であるほど長期的で、個別的なものであるほど短期的に変動します。ここまでで共通していえることは、株価はその時々の社会情勢に影響されているということです。
アベノミクスによって、世界中で日本経済全体が成長していくと思われる流れができたからこそ、3~4年間も日経平均株価は上昇し続けました。『逃げるは恥だが役に立つ』の人気によって、TBSの決算に期待できると思われる流れができたからこそ、TBS株は一時的に上昇しました。
どちらも共通して、当時の社会情勢が株価を動かしたのです。
個人投資家もこの事実をしっかりと受け止めなければいけません。社会情勢を読むことが株価の未来を読むことになり、ひいては、株式投資で利益をあげるために必要なことになるのです。
しかし、気をつけなければいけない点はその影響が株価に出てからではもう遅いことです。たとえば、昨年、リチウムイオン電池開発の功労者である吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞しましたが、そのニュースを聞いてから旭化成株を買った投資家は損失を出してしまいました(関連記事:『株式投資で「小手先のテクニック」が通用しない明確な理由』)。
常に世の関心はどこにあるのかアンテナを張って、株価が動く前に未来を予想しておく必要があるのです。予想が外れるのは当たり前です。入念な調査を重ねている機関投資家でさえ予想を外します。
個人投資家は社会情勢の影響を最も顕著に受ける存在なのだから、敏感に反応できるようにしておきましょう。それができるようになれば、個人投資家でも株式市場で勝ち続けていくことが比較的容易になるでしょう。