この1週間ほどの間に米中通商交渉の第1段階合意や、米連邦公開市場委員会(FOMC)、英国総選挙などイベントが重なり、ECB政策理事会は影が薄かった印象です。政策金利などは予想通り据え置きでサプライズ無しでした。ただラガルド新総裁就任後初となる理事会です。記者会見のコメントなどに今後の政策運営のポイントが見られました。
ECB政策理事会:ラガルド新総裁、来年に戦略検証を開始する構想を表明
欧州中央銀行(ECB)は、2019年12月12日に政策理事会を開催し、市場予想通りすべての金融政策を据え置きました。注目されたECBの新戦略は声明には含まれず、ラガルド新総裁が会見で説明するスタイルでした。
記者会見でラガルド総裁は新戦略について、来年1月から開始し、20年末までに終了を目指す考えを述べました。また、ラガルド新総裁の政策スタンスやマイナス金利の副作用などについて質疑が繰り広げられました。
どこに注目すべきか:ラガルド新総裁、戦略検証、物価目標、CBDC
この1週間ほどの間に米中通商交渉の第1段階合意や、米連邦公開市場委員会(FOMC)、英国総選挙などイベントが重なり、ECB政策理事会は影が薄かった印象です。政策金利などは予想通り据え置きでサプライズ無しでした。ただラガルド新総裁就任後初となる理事会です。記者会見のコメントなどに今後の政策運営のポイントが見られました。
まず2003年以来となる戦略検証を来年1月に開始し、20年末には完了させたい意向が示されました。ただ、落しどころを事前に定めているわけではなく、時期も柔軟に考えているようです。また見直しには欧州議員や学界、市民社会の代表など幅広く意見を聞くプランが示されました。
見直しの主要課題は現在のECBの中長期的な物価目標である「2%近く」の取り扱いと見られます。記者会見でラガルド総裁も検討課題であると言及しています。戦略検証が始まるのはこれからで、具体的な内容やプランは特に語られていませんが、ECBメンバーの過去のコメントなどから、「2%前後」とする案や、より緩和的な政策を許容する、例えば「1.5~2.5%」のように幅を持たせた案などが想定されます。
戦略検証に関連して、マイナス金利の副作用も検討課題と見られます。記者会見の質疑でも、副作用に関連する質問が集中しました。ユーロ圏(代表してドイツ)の国債利回りを見ても、大半のセクターがマイナス圏に沈んだままです(図表参照)。ラガルド総裁は副作用について認識していると率直に述べています。一方で、(低金利政策の効果が副作用を下回る)「リバーサルレート」を超えた(下回った)のかという質問には、貸出が堅調であるとして否定しました。ラガルド総裁はリバーサルレートに直面すれば貸出が減少するはずと説明しています。
次に、今回最も興味深かったやり取りはラガルド総裁の金融スタンスについて、ハト派(金融緩和を選好)か、それともタカ派(金融引締めを選好)かと暗に問われたことです。これに対しラガルド総裁は「私の望みは梟(ふくろう)になること」と答えました。首を盛んに振る鳥であることから、意見集約型の運営方針であることを示唆しています。
最後に、デジタル通貨についての質疑応答もありました。欧州連合(EU)経済財務相理事会(ECOFIN)が先日、将来ECBはデジタル通貨が必要となる時の準備に言及しましたが、この点を記者に問われました。ラガルド総裁は、既にタスクフォース(作業部会)を立ち上げており、今後は準備をさらに進める考えを強調しました。ユーロ圏各国中央銀行と共に、研究や実証実験を進め、希望としては20年半ばには、実務的なコストなどの検討を終えたいとの方針を語りました。
思い起こせば、ラガルド総裁が国際通貨基金(IMF)専務理事(当時)であった18年にはシンガポールのフィンテックスピーチで「中銀がデジタル通貨発行の可能性について検討すべきと考える。国がデジタル経済に対し通貨供給する役割はあり得るかもしれない」と述べ、中銀デジタル通貨(CBDC)に前向きな考えを述べました。現在立場が異なりますが、デジタル通貨への思いはあるようです。過去消極的に見られたECBですが、CBDC発行に名乗りをあげるかもしれません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「梟になりたい」ECBラガルド新総裁はハトでもタカでもない』を参照)。
(2019年12月18日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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