実際に株式投資を実践してみると分かりますが、株式投資で満足のいく利益をあげることは意外と難しいのが現実です。これは、日本株がバブル崩壊以降、長期上昇相場ではなくなったのが要因として大きいと思います。戦後~バブル期までの右肩上がりの上昇相場では、基本的に株を買ってそのまま保有しておくだけで誰でも利益を得ることができました。しかし現在の相場ではそうはいきません。
長期上昇相場ではない現在の株式投資で失敗するパターンといえば、「安値で売らされる」「塩漬けになる」の2つです。
今回のコラムでは、上記の2つの失敗パターンを学び、これから株式投資で失敗しないためにはどのような点に気を付けておくべきかを考えていきたいと思います。やがて訪れるであろう大幅な株価調整局面に備えて、今のうちから頭の中へ入れておきましょう。
なぜ安値で売らされてしまうのか?
まず、失敗パターンの1つである「安値で売らされる」という点について掘り下げて考えてみます。
安値で売らされるのは、保有株の含み損が膨らみ、「これ以上耐えられない」と心理的に追い詰められて投げ売りしてしまうためです。
ですから、なぜこのような結果になってしまうのか、そしてこれを回避するためにどのようにすればよいのかを考えれば、自ずと答えは導き出されます。
真っ先に思いつくのが、「もっと前の段階で損切りをしておくこと」です。一般に、恐怖感が高まって安値での投げ売りが生じるのは、株価が下降トレンド入りしてからかなり時間がたち、株価も大きく下げた段階です。
したがって、例えば株価が下降トレンド入りして間もないタイミングで損切りをしておけば、安値で売らされるよりも損失をずっと小さく抑えられることができます。
さらに言えば、買った後株価が下がりやすい局面で買うことを避けるようにすれば、損失をもっと少なくすることができます。具体的には、株価が短期間に大きく上昇した局面(高値づかみになりやすい)や、下降トレンドまっただ中の局面(株価の下落が続きやすい)を避けることです。
ところで、安値で売らされてしまう個人投資家は、売却のタイミングこそよくないものの、「損切り」という行為はできていることになります。世の中には損切りができない個人投資家が大勢いるなか、この点はとても好ましいことです。したがって、つい安値で投げ売りしてしまうという個人投資家の方は、適切な損切りのタイミングさえ身につければ、投資成績は飛躍的に向上していくはずです。
塩漬け株はファンダメンタルへの過信が原因?
もう1つの失敗パターンである「塩漬けになる」という点は、「損切りができない」ケースと「損切りをしない(損切りを必要と思わない)」ケースに分類できます。
まず、「損切りができない」ケースですが、こればかりは損切りができるようになるようにトレーニングを積んでいただくほかありません。損切りができなければ、いつまでも塩漬け株が発生する懸念がつきまといます。
もう1つの「損切りをしない(損切りを必要と思わない)」ケースは、ファンダメンタル分析への過信が原因にあると思われます。
テクニカル分析を用いずファンダメンタル分析のみを使った場合、ファンダメンタルの変化(業績の悪化など)が生じたときに売却を検討することが一般的です。
そのため、株価が買値から30%、40%も下落しても、ファンダメンタルに目立った変化が確認できなければ、そのまま持ち続けることになるのです。
ファンダメンタル分析では、高成長が期待できるとか、株価が割安である、という理由から銘柄選定がなされるのが一般的です。そこには、「株価のトレンドがどうなっているか」、言い換えれば「プロを含めた他の投資家の動向がどうなっているか」という要素が含まれていません。
株式投資をある程度経験すれば分かりますが、将来の高成長が期待できたり、株価が割安に放置されていたとしても、必ずしも株価は上昇するとは限らないのです。
ファンダメンタルでみて明らかに割安と判断した銘柄の株価がそこからさらに半値以下に値下がりすることなど日常茶飯事です。
ファンダメンタル分析の精度を上げれば、確かに塩漬け株を少なくすることができるでしょう。それでも、ファンダメンタル分析は絶対ではありませんし、個人投資家が行うファンダメンタル分析の精度はプロに比べどうしても低くなりがちです。
そこで、個人投資家が行う不完全なファンダメンタル分析を補うために、株価チャートや買い値からの株価下落率などを基準とした損切りルールの設定と実行がどうしても必要です。
適切な損切りが失敗を避けるためには必要不可欠
上述の点から、ある1つの事実が見えてきます。それは、「損切りさえ適切に行えば、2つの失敗パターンのいずれも回避できる」という点です。
例えば、上昇トレンド転換直後(株価が25日移動平均線を超えた直後)に新規買いをすれば、もしその後株価が下落しても25日移動平均線を再び割り込んだ時点で損切りを行えばよいのです。
また、多少高値で買ってしまったり、下降トレンド途中で買ってしまった場合でも、例えば「買値から10%値下がりで損切り」としておけば、損失を最小限にとどめることができます。
そして、損切りをすれば、塩漬け株が生じる余地はありません。
このように、損切りさえ適切に行うだけで大きな失敗はほぼ100%防げる、そして買いのタイミングに気をつける(できるだけ上昇トレンド入り直後に買い、下降トレンドの間は買わない)だけで、さらに損失を小さくすることができるのです。
多くの個人投資家が大きな失敗をしてしまうのは、大きな失敗をしないために何が必要かをよく理解していない、もしくは理解していても実行に移せないからです。
大きな失敗さえ避ければ、株式市場は私たち個人投資家に多くの利益をもたらしてくれる素晴らしい場所となります。
足立 武志
足立公認会計士事務所代表 公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー
※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2014年12月18日に公開、2019年10月12日に再掲載されたものです。