老後世話になった弟にも財産を分けてあげたいが…
【子どものいない人の相続●吉田家の場合】
・被相続人(一郎・享年87歳)
妻(花子・享年80歳一郎死亡の7日前に死亡)
・相続人姉(長女)の代襲相続人(長女60歳)
・妹(次女82歳)
・財産 自宅不動産 7000万円(一郎2分の1・花子2分の1)
銀行預金・有価証券 1億5000万円(一郎8000万円・花子7000万円)
合計2億2000万円
横浜にお住まいの吉田さん夫婦は子どもに恵まれず、2人で一生懸命働き、定年を迎えるころにはそれ相当な資産家となっておりました。これといって趣味のない2人は、気の合う、妻・花子の弟夫婦のそばへ引っ越そうと自宅を売り、弟夫婦の住む東京郊外へ引っ越してきました。それ以来、弟夫婦と旅行に行ったり、孫の運動会へ参加させてもらったりと、子どものいない吉田さん夫婦にとっては、家族同様に楽しい老後を過ごすことができました。
一郎と花子の2人はお互いの死後を考え、連れ合いが亡き後は全財産をお互い相手に相続させると約束し、別々の遺言書に直筆で「全財産を妻・花子(夫・一郎)に相続させる」と書き、日付を入れて署名・捺印し、別々の封筒に封印し、自宅金庫にしまいました。
これで、お互いに苦労して築いた財産を相手に全部相続させるという目的は達成できたのですが、妻・花子の本心は、老後世話になった弟にも財産を分けてあげたいということでした。では、なぜ遺言書に書かなかったのでしょう?
それは、全部の財産を相続させると書いた夫への遠慮もあり、また7歳も年下の自分が夫より先に逝くとは考えてもいなかったからです。
遺言書作成の際、あらゆるパターンを考えるべき
ある日、妻・花子は脳梗塞で倒れ、一命は取り止めましたが寝たきりになってしまいました。時をほぼ同じくして、夫・一郎に認知症の症状が出始め、徘徊が始まりました。
妻・花子が4年間寝たきりの状態の後、意識不明になったのと時を同じくして、夫も夜中に徘徊し、事故に遭って意識不明になりました。妻・花子が息を引き取った7日後に夫・一郎が息を引き取りました。
相続が始まり、自筆証書遺言が見つかり、家庭裁判所で相続人を集めて検認をしました。一郎の遺言書には「全財産を妻に相続させる」、他方、花子の遺言書には「全財産を夫に相続させる」と書いてありました。
妻が亡くなった途端に、全財産は夫に移り、夫が亡くなった途端に、全財産は夫の姉の代襲相続人と夫の妹に移りました。老後、ずっと面倒を見てくれた妻の弟には何も残せませんでした。
今回、たまたま妻が夫よりも7日だけ先に亡くなりましたが、これが逆に夫が先に亡くなっていた場合、結果は全く逆になり、夫が亡くなった瞬間全財産は妻に移り、妻が亡くなると、妻の弟に全財産が移る形になります。
【ポイント】
・遺言書を作成する際には、あらゆるパターンを考えるべき
・自分の亡きあと、財産をどうしたいのか? きちんと遺言書に書いておくべき
・自分の死後、誰にも発見されずに漏れてしまうことを防ぐために、財産がよくわかるように表にするなどして整理しておく