亡き父の隠れ借金?知らない賃金業者から「借用書の写し」が…

親や親族の大切な財産を引き継ぐ相続。事前の話合いが不十分なことなどから、家族間で遺産分割の話合いがこじれ、最悪裁判沙汰という「争族」にまで至るケースが後を絶ちません。本連載では、相続アドバイザー協議会23期有志の著書、『新訂 家族で話すHAPPY相続』(プラチナ出版)の中から一部を抜粋し、相続発生時における典型的なトラブル事例とその解決策を解説していきます。

親の思いやりが不公平を生じさせる事態に…

相続では、まず「財産を平等に分けよう」という話であったにも関わらず、兄弟姉妹間でもめてしまうケースが多いと思います。

 

なぜなら相続では、亡くなった人が残してくれた相続財産を分け合うときに、相続人が複数いると、相続財産の分割を進めるうえでどうしても全員の意見をまとめることが難しいからです。

 

たとえば、特定の相続人が、亡くなった親の生前に、住宅の購入資金1000万円などまとまったお金をもらっているケースが考えられます。最近では住宅取得のための贈与であれば、無税になるというメリットもあるからでしょう。

 

しかし、相続になると生前にまとまったお金をもらっていない他の兄弟姉妹から、相続の話し合いで平等でないと言われてしまいます。ですから、相続人の中に住宅の購入費など特別な利益を得ている人がいる場合、その相続は当然もめてしまうのではないでしょうか。

 

確かに、兄弟姉妹と言えども、一部が高額な学費を出してもらったり、住宅の購入資金をもらったりしたような場合の相続では、今までの親の思いやりが不公平を生じさせてしまうこともあるでしょう。

 

このようなケースでは、相続人である兄弟姉妹間の公平のため、亡くなった親から生前にまとまったお金をもらった相続人がいる場合、もらったお金を相続財産に含めて、全体の相続財産としてからそれぞれ分け合うとされています。この相続財産に含めるべきお金は、特別受益とよばれます。

 

ということは、亡くなった人が生前行った贈与を考慮して相続財産の分割を行う必要があるということです。今まで仲が良いと思っていた兄弟姉妹も、親の相続をきっかけとして、本当の意味で平等ではなかったと改めて感じている人もいると思います。

 

確かに、特別受益に固執し過ぎず、相続人それぞれの生活状況や事情を考え、相続財産の分割を行うことが円満な相続になる場合もあります。あまりに他の相続人の受けた特別受益にこだわってしまうと、相続人全員の意見をまとめることができない事態が生じてしまうこともあり得るのではないでしょうか。

 

被相続人が生前に遺言書を残す、あるいは書面で特別受益の持ち戻しをしない旨の意思表示をしていれば、前述のような特別受益を巡る相続人間の争いを避けやすくなります。

 

妹までも法定相続分の借金返済の必要が⁉

父が亡くなり、子どもである相続人は、姉妹2人です。

 

妹は、相続のことはよくわからないけど、姉が生前、父をずっと見守ってくれていたので、姉が父の遺産を相続するべきだと考えています。

 

その姉は、クリーニング店を経営しており、昨今の燃料高や価格競争の影響で経営がとても大変そうです。それでも、仕事の合間に父の面倒を見続けていました。

 

このような状況を妹はずっと見てきたので、自分は特に力になれなかったのだから、父の遺産はすべて姉に相続してもらえば良いと思いました。

 

父は、バブル期まで建設会社の土木作業員として一生懸命働いていましたが、その後建設会社が倒産して、ずっと定年まで近所の警備会社で働いていました。住まいも借家で残った遺産といっても、預金が1000万円くらいしかありませんでした。

 

後日、姉妹がお互いにもめないようにと相談し合って、遺産分割協議書を作成することにしました。内容としては、父名義の預金1000万円につき、すべて姉に相続させる。妹は、父の相続を放棄するというものです。

 

これにより、父の預金が姉の銀行口座へ移り、姉が父の預金を受け継ぐことができました(なお、姉は父の預金を自分の口座に移しておりますので(これを「法定単純承認」という)、後述する相続放棄を行うことができないことになります)。

 

そして、姉は、今までにクリーニング店の運転資金のために借りたお金を父から受け継いだ預金ですべて返済しました。しかし、父が亡くなり4ヶ月がたったころ、姉妹あてに、知らない貸金業者から、父が借りたお金の借用書の写しが封書で送られてきました。

 

「え、突然なに?」とその書類に目を通すと、なんと800万円の借金が未納だということでした。急いで姉妹がその貸金業者に連絡すると、「裁判所で相続放棄していないと確認を取りましたので、ご請求申し上げました」と貸金業者に一方的に告げられました。

 

姉妹は、まったく理解できず、「これは大変だ」と、市役所で行われていた無料法律相談所へ駆け込んだところ、相続はプラスの財産とマイナスの財産(借金など)も含めすべて分け合うもので、姉は父の預金を自分の口座に移した時点で借金も相続するしかなくなっており(「単純承認」という)、今のままだと妹も、民法で定められた法定相続分の借金返済をしなければならなくなると、相談を担当した弁護士から告げられました。

 

そして、妹が債務の相続を免れるには「貸金業者から封書が送られてきたことで初めて父に借金があったことを知ったことを説明し、早急に家庭裁判所に相続放棄の手続を行う必要がある」と弁護士から説明を受けました。そこで、妹は、ただちに相談を担当した弁護士に依頼して、家庭裁判所に相続放棄の手続をとってもらったところ、家庭裁判所は相続放棄を認めてくれました。

 

姉妹が作成した遺産分割協議書には、父の預金のことしか記載していなかったため、マイナス(借金など)財産についてはまったく触れていませんでした。つまり、妹が相続放棄すると遺産分割協議書に書いたのは、プラスの財産は相続しないというだけで、実際には、マイナス(借金など)の財産を相続してしまう相続分の放棄だったということです。

 

このような場合、市役所の無料法律相談に駆け込んでいなければ、姉だけでなく妹までも、民法で定められた法定相続分ずつ借金返済をしなければならなくなったという悲劇が起こってしまうところでした。

 

このように、相続について何も知らないことが、あとでトラブルにつながってしまうことがありますので、万一のために家族の状況や相続に関する基本的な知識を知っておくことが、いかに大事かということがおわかりいただけると思います。

 

【相続放棄】

・そもそも最初から相続人とならないので、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)もすべて承継しない

・原則として、相続が開始し(被相続人が亡くなり)、自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する

・ただし、被相続人の財産を使ったり隠したりした場合には、相続放棄ができなくなってしまう

 

【相続分の放棄】

・プラスの財産を何も相続しないことになるのに対し、借金などのマイナスの財産は、法定相続分で相続することになる

(相続アドバイザー協議会とは?)
相続に関する諸問題に対して円満な相続を実現するため、総合的なアドバイスができる人材を養成することを目的に、不動産鑑定士、税理士、不動産業、建設業が中心となり2000(平成12)年に設立したNPO法人です。

的確なアドバイスで相談者の利益を守る「相続アドバイザー」を養成するため、税務、不動産、建物、保険など各分野の相続実務に関わる専門家を講師として、全20講座・41時間の「相続アドバイザー養成講座」を定期的に開催しています。

2005(平成17)年には、法令の改正や社会の変化に対応した知識を習得し、実務能力を向上させ、さらに研鑽を続けるため「上級アドバイザー資格制度」を創設しました。
同協議会では「相続アドバイザー」として、以下の5点を定義しています。

(1)本業を補完する基本的知識の習得
(2)本業をより発展させるためのビジネス的感覚の習得
(3)お客様の利益を第一義に考えるコンサルタントとしての役割
(4)信頼性のある人的ネットワークの構築
(5)持続的・継続的な研修の実施による能力の充実を図る。

※写真は相続アドバイザー協議会の常務理事で、同養成講座23期生でリーダーを務めた都築恒久氏

 (23期有志)阿部龍治、新井明子、井上嵩久、岩見文吾、木村太郎、児山秀幸、至田裕子、
       鈴木一哉、関京子、高橋欣也、高林節子、千代延和義、都築恒久、徳元康浩、
       貫井政文、服部毅、古越俊介、松村茉里 ※50音順敬称略

著者紹介

連載「争族」事例に学ぶ~「円満な相続」実現のための基礎知識

新訂 家族で話すHAPPY相続

新訂 家族で話すHAPPY相続

相続アドバイザー協議会

プラチナ出版

私たちはふだん気づきませんが、相続には落とし穴がたくさんあるのです。こうした落とし穴について、さまざまな専門家から解説し、皆さんにHAPPYな相続をしていただきたい、そう考えて私たちは皆で協力して本書を世に出すこと…

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