本連載では、相続アドバイザー協議会23期有志の著書、『新訂 家族で話すHAPPY相続』(プラチナ出版)の中から一部を抜粋し、相続発生時における典型的なトラブル事例とその解決策を解説していきます。

息子たちは片づけや負債を負う意思は全くない

東京都内のアパートに一人暮らしのA男さん78歳は、このアパートにもう20年も一人暮らしをしていますが一度も家賃が遅れたことはなく、物静かに暮らしている男性でした。

 

アパートの2年ごとの契約満了日が近づき、「今回も更新して、引き続きお世話になります。次回の家賃を支払うときに、更新の手続もお願い致します」と、大家さん宅にわざわざ挨拶に寄っていきました。

 

大家さんもA男さんが高齢なのは気にはしていましたが、何よりもきちんと家賃は入れ、元気そうだし、保証人のお姉さんもきちんとしていたので(とうの昔の記憶なのですが……)、さほど心配はしていませんでした。

 

ところが、いつも月末には入金される家賃が、翌月になっても入金されません。心配になった大家さんが部屋を訪ねてみると、ポストに新聞が溜まっています。保証人に電話をしましたが、つながりません。

 

もしや室内で倒れているのではないかと、心配になった大家さんは警察を呼び、立ち会ってもらって室内を確認しましたが、留守でした。

 

では、入院でもしているのかと思いましたが、どこの病院を訪ねてよいかわからず、高齢なら地域の高齢者センターに通っていたかもしれないと思い、問い合わせてみました。すると、確かにA男さんが利用していた形跡はありますが、2週間前に亡くなった、とコンピューター上に登録されています、との返事でした。

 

2週間も前に亡くなったのなら、もう荼毘(だび)にふされているはずです。いったい、誰がどのように届け出たのか……?

 

保証人とも連絡が取れず、今や個人情報保護法とやらで、誰も何も教えてくれません。さっきまで生活をしていた、という感じのA男さんの部屋をどうすることもできません。困り果てた大家さんは弁護士に相談し、戸籍を調べてもらいました。

 

そしてわかったのは、保証人も1年前に亡くなっていたこと。保証人の子どもは、叔父のA男さんとはもう何十年も会っていないし、部屋の片づけ費用や未払い家賃を払う意思は全くないこと。A男さんには息子が2人いたこと。

 

そして息子たちは20年以上前に借金をして家を出て行った父親を恨んでいること。A男さんの片づけや負債を負う意思は全くないこと。

 

結局大家さんは、早く次の入居者を入れたいため、A男さんの相続人に室内の残置物一切を放棄し、処分されても一切の異議申し立てをしない、との確約書を書いてもらい、大家さんの費用で片づけました。

 

この件で、部屋の片づけ費用30万円・貸室の占拠期間8ヶ月×7万=56万円・その他弁護士費用、リフォーム代を含めると、優に100万円を超えました。この費用を弁護士に依頼して相続人に請求するか、困った問題です。

 

[図表1]
[図表1]

会ったこともない甥っ子が財産を相続することに

都内マンションで一人暮らしのB子さん82歳。

 

弟が一人いますが、若いころから放蕩好きで家にはほとんど寄り付かず、父親は早くに亡くなり、母親も15年ほど前に他界しました。

 

B子さんは病気がちの母親の面倒を見ながら働き、結婚の期を逃してしまったので、独身のままでした。会社を退職するのを機に、わずかな貯金と退職金でマンションを購入し、今は年金暮らしです。

 

弟は、母親の葬儀には顔を出しましたが、その後は姉との交流もなく、ちゃんと定職について働くこともしていなかったので、収入もなくなり、身体を壊して行政のお世話になっている、とのことでした。

 

母親亡き後、気づけば自分も年をとり、心にぽっかりと穴が開いたようになってしまったB子さんは、旅行などに行ってみたり、何か趣味を作ろうと料理教室に通ってみたりしましたが、全く虚しい気持ちが癒えません。

 

そんな時、地域の家庭環境に恵まれない子どもやお年寄りに食事を作る食育ボランティア活動に参加してみたところ、同じような高齢な仲間とも知り合い、また人に感謝されるという経験をし、生きがいを感じるようになりました。

 

仲間と共に献立を考えたり、催し物を考えたり、と楽しい時間を過ごしました。何年か過ぎたころ、弟は若いころの無茶がたたって、病気になり亡くなりました。B子さんは自分には子どももいないし、弟も亡くなり身寄りもないので、自分亡き後の財産は困った人の役に立つように使いたい、と思い始めました。

 

でもどうすればよいのかわからず、漠然とした想いを抱えていましたが、ある時期からB子さんの言動がどうもおかしくなってきました。

 

ボランティア活動に行っても、同じことを何度も言ったり、何をしていたのか忘れてしまったり、また集合時間も守れなくなりました。様子がおかしいので、仲間たちが病院に連れて行こうとすると、何ともないから、と強く拒否され、怒り出します。

 

そのうち、ボランティア活動にも現れなくなってしまいました。

 

ボランティア仲間が何回か訪ねて行ったある日、異変を感じて管理会社と警察に連絡し、室内に入ってみると、お風呂場で転んだのか、悲しい結果になっていました。誰も相続人がいないと思っていたB子さんですが、警察が調べてみると、亡くなった弟さんは結婚はしませんでしたが、認知したお子さんが一人いることがわかりました。

 

会ったこともない甥っ子ですが、B子さんの相続人になります。他には身寄りがないので、唯一の相続人となります。B子さんの部屋を整理しましたら、ノートに「自分亡き後の財産は、困った人のために使いたい」、と書き残されていました。

 

想いはあっても、具体的にどの財産をどのように、と書き残し、日付と署名がなければなりません。想いは届かないまま、会ったことのない甥っ子が、都内のマンションと残った預貯金を相続しました。

 

では、A男さん・B子さんはどうすれば良かったのでしょうか。

 

昨今、高齢者の一人暮らしは増加の一途です。誰しも人様にご迷惑をかけるつもりはないと思いますが、自分亡き後のことまでなかなか気が回りません。生活にゆとりのない高齢者にとっては、日々の生活で精いっぱいです。行政に相談しても、生活面の補助はしてくれても、亡くなった後のことまでは見てくれません。

 

寂しい話ですが、身寄りのない方、もしくはあっても全く疎遠になっている方は、早い時期に誰か親身になってくれる方、もしくは専門家などに相談し、亡き後のことを遺言書に書いておくことをお勧めします。

 

行政によっては、生前に葬儀や納骨の契約ができる取り組みも始まっています。また、部屋の片づけ費用が出る保険もあります。生きている時さえ良ければ、ということではなく、元気なうちに、自分の終焉の時を、自分の望むとおりに迎えられるよう考えてみたいものです。

 

[図表2]
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新訂 家族で話すHAPPY相続

新訂 家族で話すHAPPY相続

相続アドバイザー協議会

プラチナ出版

私たちはふだん気づきませんが、相続には落とし穴がたくさんあるのです。こうした落とし穴について、さまざまな専門家から解説し、皆さんにHAPPYな相続をしていただきたい、そう考えて私たちは皆で協力して本書を世に出すこと…

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