父に「相続放棄しろ」と言われた妹と弟…1000万円で兄と和解

年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は「全財産を長男に」という遺書を残して亡くなった父と、兄弟と妹との間で起きた相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

ある日父から「相続を放棄しろ」と言われて……

Aさんは、ある地方都市で3代続く卸問屋の長男。兄弟は、弟と妹。現在の社長である父は、兄妹が小さなころから「商売を継ぐのは長男」と決めていました。そのため、自然と長男には厳しく、弟や妹に対しては、ある意味、放任主義的なところがあったといいます。

 

兄妹が大きくなり、それぞれが社会人になると、長男は次期社長として父の会社に就職し、弟と妹はそれぞれ地元を離れ、東京の会社に就職しました。そして、それぞれが家庭をもち、幸せを築いていました。

 

そんなある日、弟と妹が父から、大切な話があるといって、実家に帰省するよう言われました。何の話だろう――。ふたりは疑問に思いながら、言われた通り、実家に帰りました。

 

「すまんな、ふたりとも」

 

「別に大丈夫だよ。仕事も、忙しくない時期だから」と次男と長女。

 

「実はふたりにお願いしたいことがあるんだ」

 

「なに、そんなにかしこまって」

 

普段とは違う、神妙な表情の父に、次男と長女は身構えてしまいました。

 

「私も年だから、そろそろA(=長男)に社長を譲ろうと考えている。あと、自分もいつ、何があるかわからない年齢だ。だから、そろそろ相続のことをきちんと考えたい」

 

「お父さんも、70(歳)を超えて、ずいぶんと老け込んだもんね」と、堅苦しい雰囲気を嫌う長女が、少しふざけて言いました。

 

「今日は、まじめな話だ」

 

空気が、少しピリッとしました。

 

「私が死んだら、お前らは相続放棄をしろ」

 

「えっ、放棄?」とふたり。

 

「はっきり言おう。私の財産はすべて、Aに渡すということだ。Aはこの家を守っていかなければならない。本当は、お前たちにも何か残してあげられたらいいのだが、こんなご時世だ。会社の状況も決して楽ではないのだよ」

 

突然の申し出に、言葉を失うふたり。もちろん、いずれは親もいなくなる。そう遠くない将来に、相続の話をしなければいけない。そんなことをボンヤリとは思っていたけど、「相続放棄」をお願いされるとは、思ってもいなかったーー。

 

とはいえ、父の言うこともわかる。結局、ふたりは父の申し出に納得し、父は全財産を長男に相続させる遺言書を作成しました。

 

それから数年後。父が亡くなりました。遺言書を作成した後、正式に父からAさんへと社長は交代し、新社長のもと、会社も順調にいっていたので、特に混乱は生じませんでした。しかし思わぬ事態が起きたのは、ひと通りの法要が終わったあとのことでした。

 

「兄さん、話があるんだ」と次男と長女が、Aさんを呼び止めました。

 

「どうしたんだい、神妙な面持ちで」

 

「父さんから、相続を放棄するよう言われたけど、俺たち、遺留分は請求しようと考えている」

 

「えっ!?」

 

「だから、遺留分は請求する」

 

「だってお前ら、相続は放棄するって父さんに言ったんだろ。それで父さんは、遺言書を書いたんだぞ」

 

「当然の権利でしょ」と長女。

 

「父さんの遺志をないがしろにするのかよ、お前ら!」

 

「兄さんはいいよ、昔からチヤホヤされてきたからな。それに比べて、俺らはいつもほったらかしで、おまけに全財産を兄さんにって。不公平すぎるだろ」と次男。

 

「俺だって、物心ついたときから『お前は将来、社長だから』って言われて厳しくされてきたんだ。自分で望んだわけじゃない。お前らは好き勝手やっていたじゃないか!」

 

「好き勝手じゃない、あれは無関心っていうんだよ!」と次男が大きな声を出しました。

 

「……」

 

「とにかく、あの遺言書は無効。俺らは遺留分を請求させてもらうから」

 

このあと3兄妹は遺産分割協議を行い、弟と妹は、遺留分以下の1,000万円ずつを相続することで決着しました。これを機に3兄妹は、口も聞かない関係に……、というわけではなく、一層絆は強まったといいます。

 

「父が生きているときは、いつも父を中心にして家族はまわっていました。だから私たち兄妹の関係も、常に父が介在していたんです。今回、二人とは本音でぶつけ合ったことで、仲が深まりました。以前より、頻繁に連絡も取りあっていますよ」とAさんは、相続トラブルをふりかえっていました。

 

相続を機に本音をぶつけ合って……
相続を機に本音をぶつけ合って……

遺言書があっても「遺留分」は主張できる

相続の手続きには3つの期限が存在します。

 

  • 3ヵ月→相続放棄の期限
  •  
  • 4ヵ月→所得税の準確定申告(=亡くなった方の確定申告のこと)の期限
  •  
  • 10ヵ月→相続税の申告 

 

相続手続きでやることは、遺言書があるかないかで大きく変わります。

 

遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容通りに遺産を分けていくので、手続きは比較的早く終わります。一方、遺言書がない場合には、相続人全員の話し合いで遺産の分け方を決めなければいけません。この手続きを遺産分割協議といいます。これが長引いてしまうことがよくあるんですよね。

 

しかし遺言書があるからといって、スムーズに遺産分割が進むとは限りません。問題になるのは「遺留分」です。

 

遺留分とは、「残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利」のことです。あくまでも権利なので、権利を行使するかどうかは、本人の自由です。

 

権利として主張できるのは、「法定相続分の半分」です。遺言者をあけたところ「俺たちに遺産は渡さないだって!」「私たちには遺産の十分の一しか渡さないって!)(この状態を、遺留分が侵害されている、といいます)ということがあったら、遺留分の金額に達するまで、遺産を取り返すことができるというわけです。

 

夫婦のうち、夫が先に亡くなった場合の遺留分は、妻、子どもに1/4ずつ(子どもが複数人いる場合は、1/4を人数で等分する)
夫婦のうち、夫が先に亡くなった場合の遺留分は、妻、子どもに1/4ずつ(子どもが複数人いる場合は、1/4を人数で等分する)

 

実際にこのようなケースが発生した場合には、間に弁護士を入れることが一般的です。そしてその弁護士が話をまとめながら、遺留分に達するまでの遺産の受け渡しなどを行います(この手続きを、遺留分の減殺請求といいます)。

 

故意にせよ、故意でないにしろ、遺留分を侵害している遺言書には、事例のようなリスクをはらんでいる、と考えておきましょう。

 

【動画/筆者が「相続の手続き」を分かりやすく解説】

 

 

橘慶太

円満相続税理士法人

円満相続税理士法人 代表 税理士

中学・高校とバンド活動に明け暮れる。大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人山田&パートナーズに正社員として入社する。

税理士法人山田&パートナーズでは相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算300件以上。また、三井住友銀行・静岡銀行・ゆうちょ銀行を中心に、全国の銀行で年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。

税理士の使命は、難解な法律や税金をできる限りわかりやすく伝えることだと考えている。平成29年1月に表参道相続専門税理士事務所を設立し、平成30年より法人化に伴い、円満相続税理士法人に商号を変更した。

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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