レコフデータの発表によると、2018年のM&Aの成約件数は3,850件と、8年連続の増加しました。一方で、買手会社、売手会社、双方からM&Aで失敗したという声をききます。そこで売手・買手別にM&Aで注意すべきリスクと、そのリスクの回避策について説明していきます。※本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。

「売手会社」がM&Aをするリスクと回避策

M&Aの成功率がどれくいか、知っていますか?一般的にはM&Aの成功率は3〜5割だと言われています。逆に言えば5割以上の会社は失敗しているのです。

 

成功した事例ももちろんたくさんありますが、一方で失敗の原因を知り、M&Aのリスク、失敗の際のリスクマネジメント方法もきちんと戦略立てておくことが非常に重要です。

 

リスクを知っておけば、先手で回避策が打てる
リスクを知っておけば、先手で回避策が打てる

 

【売手会社のリスク①】M&A仲介会社選び失敗

売手会社は自身で買手会社を探すより、会計事務所、金融機関などと業務提携をしているM&A仲介会社に依頼するケースが多いようです。売手会社はM&A仲介会社に自社を高く売却できるよう、アピールしてもらいたり、買手会社と売却条件の交渉、折衝をしてもらいます。

 

経験が豊富でノウハウがあるM&A仲介会社は買手会社の情報たくさん所有し、自社にとっても、買手会社にとっても、利益が最大化できるよう交渉してくれます。しかし経験が少なかったり、買手会社情報をあまり持っていなかったりすると、なかなか満足のできない交渉になってしまいます。

 

特にM&Aが盛んになった今は、新しく参入したM&A仲介会社が多くあります。なかには手付金なし、成功報酬だけと費用の安い会社もあるますが、果たして本当に信頼していいかはきちんと判断する必要があります。

 

■回避策

1社に限らず3社ほど複数のM&A仲介会社に面談してみるといいでしょう。基本的には1回目の面談は無料でできるM&A仲介会社がほとんどです。

 

【売手会社のリスク②】適切な価格での売却ができない

M&Aが盛んになり、多くの仲介会社が参入してきました。M&A仲介会社は特に資格は必要なく、開業するハードルが非常に低いです。そのため、スキルもなく、報酬を安く設定して叩き売りをするような悪徳業社もあります。このような会社に依頼すると、適切な価格で売却ができない場合があります。

 

会社の経営状況などによって異なりますが、今は売り手市場だと言われていて、取引金額も高額だと言われています。

 

■回避策

会社のよって細かく条件が異なり、買手会社がどこまで評価するかによっても違いますが、会社の価値を概算することは可能です。会社の価値を算定する、お手軽なWEBサービスもあるので、これらを使い、会社の価値を算定することから始めましょう。

 

【売手会社のリスク③】売却情報漏洩

会社の売却に伴い、様々な書類を用意する必要があります。売却交渉をしているなかで、会社を売却するという情報が漏洩し、失敗で終わってしまった会社も多くあります。

 

■回避策

実際に売却の交渉に入った時は、「決算書・税務申告書」「試算表」「会社所有資産書類」など様々な書類を提出する必要があります。M&Aの交渉担当者はできる限り最小限におさえるようにしましょう。

 

社内だけではなく、場合によって悪徳M&A仲介会社より情報漏洩されるリスクもあるので、交渉に入る前にきちんとNDAを締結するなど、自分の会社は自分で守るようにします。

 

【売手会社のリスク④】敵対的買収をされる可能性がある

敵対的買収とは、売手会社の経営陣の了承を得ずに買収されてしまうことを言います。わかりやすく言えば、会社が乗っ取られることです。日本で敵対的買収が成功する事例は少ないとは言え、まったくないというわけではありません。

 

敵対的買収のターゲットになりやすい会社は「技術力が高い」「株主の構成が不安定」「株価が低い」などの特徴が挙げられます。

 

■回避策

敵対的買収の防衛策として、取締役の退職金を高く設定する「ゴールデンパラシュート」、買収意欲を失わせる「クラウンジュエル」、マネジメントバイアウト(MBO)、元の株主に有利な新株を購入できる「ポイズンピル」などがあります。

「買手会社」がM&Aをするリスクと回避策

【買手会社のリスク①】人材流出など経営統合がうまくいかない

買手会社の目的はさまざま。人材が欲しいから、技術力が欲しいから、という会社もあります。しかし、会社売却によって優秀な人材が辞めてしまうことがあります。

 

■回避策

一般的には社員やクライアントへの告知は、最終契約が終わったタイミングで売手会社の代表より行われます。社員に混乱を招かないため、できる限り契約を終わって早いタイミングで話すようにしてもらいましょう。

 

その際に「なぜ会社を売却に至ったのか」「会社の今後の方向性」「社員の雇用状況に変更がない」など正確に伝えることが大切です。

 

【買手会社のリスク②】予想外の負債が多かった

株式譲渡、第三者割当増資などの手法を使う場合、会社全体を買収することになるので、財務表に記載されていない、退職金、未払いの保険料など簿外債務もすべて引き継ぐことになります。

 

一般的には、簿外債務については売手会社からすべて報告してもらうこと義務付けになっていますが、なかには会社買収後に、債務隠しが発覚したり、売手会社も把握していない簿外債務が見つかったりなど、経営にも影響を与えるほどの債務が発覚するケースもあります。

 

■回避策

契約書に「表明と保証」という条文を設けることが大切です。通常の契約書にプラスする条文になるので、不安がある場合は、必ずリーガルチェックを受けるようにしましょう。

 

【買手会社のリスク③】シナジー効果が想定より小さかった

M&Aは、買収したらすぐに効果が発揮するわけではありません。会社理念の違い、方針の違い、業務スキーム、組織体制など、様々な要素を自分の会社とうまく統合ができないと、想定していたシナジー効果が小さかったり、時間がかかったりする場合があります。

 

■回避策

会社買収後にスムーズに引き継ぐには、基本合意後に役員の交代があるのかどうか、社員の待遇どうするのか、など具体的な対応方法の検討をスタートさせましょう。

 

上記のようにM&A後の組織再編をPMI(ポスト・マージャ−・インテグレーション)と呼び、M&A仲介会社で引き続き相談できるケースも多いので、早いタイミングで検討するようにしましょう。

 

【買手会社のリスク④】ファイナンス調達が足りなかった

一般的にM&Aのファイナンスは、コーポレートファイナンスといって、自分の会社を担保にファイナンスを借りますが、自分の会社より規模が大きい会社を買収する場合、ファイナンス調達が足りない場合もあります。

 

■回避策

コーポレートファイナンスで調達金額が足りない場合、売手会社の資産(LBO)を担保にする「ノンリコースファイナンス」を利用することは可能です。しかし、売手会社の資産を担保にする場合、売手会社の信用度がメインになるため、ファイナンスを調達できる反面、売手会社の売上が下がった場合、返済不能に陥るリスクがあること事前に認識しておきましょう。

 

増加する海外企業とのM&A…リスクは?

日本国内ではなく、海外企業に対してM&Aを検討する会社も増えています。海外の場合、「言語の壁」「文化や風習の違い」「ビジネスの風習」「法律の制限」「国自体の治安状況」「政治の方向性」など様々な違いがあり、トラブルが起きやすいと言えるでしょう。一般的には、国内企業同士のM&Aよりリスクが高いことを想定しておくことが大切です。

 

海外M&Aをスムーズに行うには、現地情報に詳しい、ネットワークを持っている専門家に依頼するのが基本です。

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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