贈与は「あげた」「もらった」という事実が必要となる
贈与に関しては「本当に贈与が行われたかどうか」が、後日、相続が発生した際に税務当局との間で問題になることが多々あります。
そもそも、贈与は契約の一種です。契約では、当事者双方の意思の合致が必要となります。そのため、贈与する側が一方的に「あげた」だけでは不十分で、贈与を受ける側が「もらった」という意思を示さなければなりません。
したがって、たとえば贈与する側が自分の頭の中だけで贈与していたつもりになっているだけで、外部からは贈与の事実が全くわからないような状態になっているケースでは、贈与を受ける側はもらったという事実すら認識していないので、贈与は成立しません。
たとえば、110万円以下の贈与であれば贈与税がかからないという知識を聞きかじった人が、「それなら、毎年110万円を孫に与え続けることにしよう」と考えて、それを実行したとします。
さらに、10年後に「今まで孫に1100万円を譲り渡したことになる。これを利回りのよい金融商品に換えておいてやろう」と1100万円で投資信託を購入したとします。
この場合、孫に110万円ずつ与えてきた行為は、孫が認識していないので、贈与と認められません。また、1100万円の投資信託を購入したことも、やはり孫はその事実を承知していないので贈与と認められません。
つまり、1100万円は贈与したつもりになっている人の財産のままであり、その人が死んだ後は相続税の課税対象となります。
通帳を「自分で」管理していたか否かが分かれ目となる
では先の例で、孫名義の銀行口座が作られており、そこに毎年110万円が振り込まれていたとしたらどうでしょうか。
昔は、このように贈与を受ける者の口座が存在する場合、贈与をする側が通帳を管理していることが少なくありませんでした。贈与した金銭がムダに使われてしまったり、あるいは「孫がお金があることを知ると働かなくなるかもしれない・・・」などと懸念したためです。
しかし近時は、贈与を受けた側が自身で通帳を管理していないと、税務当局からは贈与とは認められない傾向が強まっています(未成年者の場合であれば、その親が管理することになるでしょう)。
つまり、例に即して言えば、贈与を受ける孫が自分自身で通帳を管理していなければ、贈与としては認められません。
したがって、相続税対策のために金銭を贈与する場合には、贈与を受ける者の口座に振り込み、なおかつ、その通帳を受贈者本人に管理させることを忘れないようにしてください。