年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、ある姉妹と絶交した弟の間で起こった相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

久々に実家に帰ってきた弟の腕には「高級時計」が…

今回ご紹介するのは、ある地方都市に住む、母、長女、長男、次女の4人家族です。父はAさんが小学生のころに亡くなりました。女手ひとつで幼い3人の子供を育てるのは大変だったと、母は当時を振り返ります。

 

「でもお父さんがきちんとお金も家も残してくれたから、3人とも大学に行かせることができたし。よかったわ、お父さんに感謝ね」

 

父は、若いころに起業し、それなりに成功をおさめていました。そのため遺産もそれなりの額になり、金銭的な不安がなかったことは救いだったと母は言います。

 

そんな家族に変化があったのは、3人の子供が成人になってから。

 

長男は大学卒業後、東京の企業に就職。それから3年ほど経ったころ、久ぶりに実家に帰ってきた長男は、これまでとはガラリと雰囲気が変わっていました。

 

「なによその髪! アクセサリーもジャラジャラつけて」と母。

 

長男は、髪は茶色に、服装はそれまではどちらかというと地味でしたが、アクセサリーをたくさん身につけて、派手な格好をしていたのです。

 

「そんな髪で会社に行っているの?」と長女。

 

「うち、服装は自由なんだ」と長男。

 

「いいなあ、私の会社なんて制服だよ」と、地元企業に就職した次女はうらやましそうに言いました。

 

長男の腕に光る時計を見て「その時計、すごく高いんじゃないの?」と長女が聞きました。時計のことはよく知らない長女でも、耳にしたことのあるブランドの時計だったのです。

 

「これ!? この前、買ったんだ」と長男。

 

羽振りがいい長男を見て、長女はどこか違和感を覚えました。長男が働いている会社は名の知れた会社ではあったものの、給料水準がいいとは聞いたことがなかったからです。

 

そして事件は起きました。長女と長男の共通の知人から、相談があったのです。

 

「本当はAさん(=長女)に相談すべきことではないのだけど……。実はBさん(=長男)にお金を貸していて、全然返してくれないのよ」

 

まさか、長男が人からお金を借りている――。すると、次女からも長女に電話が。

 

「お姉ちゃん、ちょっと聞いて。Bと共通の友達がいるんだけど、Bのやつ、その友達から借金していて。何度言っても返してくれないって、私に電話がきたのよ」

 

さらに「Bは伯母からも借金をしているらしい」と母からも電話が入りました。そのあとわかったのは、長男は会社を辞めフリーターをしていること、多方面からお金を借りていること、借りたお金で趣味のものを買っていること、借りたお金は返していないこと。

 

弟は色々なところからお金を借りまくっていた
弟は色々なところからお金を借りまくっていた

 

「ちょっと、あんた何してんのよ!」と家族全員、大激怒。とりあえず、お金を返さないのはまずいということになり、母が長男の借金をすべて肩代わりしました。その額、500万円。「もうあんなやつ、家族じゃないわ!」と姉妹たちは長男を拒絶。それ以降、姉妹と長男が連絡をとることはなくなりました。

 

それから10年以上経ったある日、病院で検査を受けた母は、余命宣告を受けました。進行がんが見つかったのです。余命は半年……。それからしばらくして、母から姉妹に相続について話がありました。

 

「私も先が見えてきたから、遺言書を作ったの。私にある財産は、貯金といま住んでいる家ね。それを仲良く分けてほしいの。もちろんBにも、ね。そのことを遺言書にも書いておいたわ」

 

「……わかったわ、お母さん」

 

そう答えたものの、母の意見には納得がいかない姉妹。

 

「私は納得いかないわ。あいつ、あんなに迷惑をかけたのよ。人から500万円も借金して、返せないからって、お母さんに払ってもらって。それなのに、お母さんの遺産は仲良く3等分なんて、絶対できない」

 

母のいないところで、次女は声を張り上げていいました。

 

「私だってそうよ。あいつのせいで、友達とも疎遠になって。今さら家族づらされても、納得いかないわ」と長女。

 

母の遺産を長男に1円も渡したくない――。近いうちに訪れる母の相続に、2人の姉妹は頭を抱えるのでした。

弟に遺産を1円たりとも渡さないことはできるのか?

亡くなった人の遺産の分け方はシンプルで、遺言書がある場合には、遺言書の通りに遺産を分け、遺言書がない場合には、相続人全員で話し合いをして遺産を分けます。

 

では事例に戻り、母が残した遺言書の内容を姉妹で変更することはできるでしょうか。

 

答えはNO。遺言書の内容は変更できますが、相続人全員の同意が必要です。事例の場合では弟の許諾が必要になります。

 

では、母にお願いして、もう一度「弟には1円も残しません」という遺言書を作ってもらったら、どうなるでしょうか。

 

ここで問題になるのは遺留分です。遺留分は、ひと言でいうと「残された相続人の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利」のことです。

 

遺留分は法定相続分の半分が認められています。つまり、夫が亡くなり、妻と子供二人が相続人の場合、妻の遺留分は遺産の1/4、子供たちの遺留分は遺産の1/8は認められているということです。

 

※法定相続人が父母だけの場合等には法定相続分の3分の1が遺留分の割合となります。

 

この最低保障されている権利があるため、たとば、「この子とは、もう絶縁よ! 遺言書に遺産はゼロと書いておきましょう」としても、いざ相続が起きたとき、その子供から「俺にも遺留分をよこせ」と訴えられてしまうのです。

 

実際にこのようなケースが発生した場合には、間に弁護士を入れることが一般的です。そしてその弁護士が話をまとめながら、遺留分に達するまでの遺産の受け渡しなどを行います (この手続きを、遺留分の減殺請求といいます) 。

 

また、この遺留分という最低保障されている権利には、有効期限が存在します。遺留分が侵害されていることを知った日から1年です。1年を過ぎてしまうと有効期限を過ぎてしまうため、遺留分の減殺請求ができなくなってしまうので、早めに手続きをするようにしましょう。

 

 

【動画/筆者が「遺留分」を分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

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