本記事は、2017年6月23日刊行の書籍『人生を破滅に導く「介護破産」』のデータを更新し、再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。本来、施設の種類によって「入居」「入所」と書き分けるべきですが、文章の分かりやすさに配慮し、すべて「入所」に統一しています。

「高齢者」と「介護サービス」のミスマッチを避ける

一昔前の有料老人ホームは、入所一時金が何千万円もかかり、富裕層のための施設といったイメージがありましたが、最近では一時金が敷金程度であったり、無料という有料老人ホームが増加しています。

 

一般の人にも気軽に利用できるようになりましたが、サービス内容や契約内容の説明が不十分だったり、不必要に手厚いサービス提供を行っていたりする場合があるため、利用者の状態や今後の生活についての希望とその施設の介護方針とのマッチングを考える必要があります。

 

利用者側によくある誤解として、「なんでもやってくれる行き届いた施設こそが、よい施設」というものがあります。至れり尽くせりの手厚い介護サービスがついているところのほうが、将来的にも安心だという思いがあってのことでしょう。

 

しかし、それらは不必要である場合が多々あります。たとえば、医師が24時間常駐している施設は安心ですが、ほとんど薬を飲んでいない要介護度の低い利用者には必要ありません。それに、医師が常駐していることによって通院する機会もなくなり、その人の生活リズムやリハビリの機会を損ねることにもつながります。

 

また、たとえ認知症による「徘徊」や「不穏」(興奮したり、大きな声で叫んだりする不安定な状態)などがある場合でも、その人の事情に寄り添い、最適な介護をすれば状態は安定するものです。

 

しかし、人件費を抑えて効率化を重視する一部の医療系施設では、薬で無理やり症状を抑え込むような画一的な管理をしているケースがあります。こうなってしまうと、たった3カ月程度で見る影もなく衰弱し、寝たきりになってしまうこともあります。本人の要介護度をよく見極め、不必要な介護サービスは外して、必要以上に高額な費用がかかることのないようにしなければいけません。

 

さらに、看取りケアを行っているかどうかも重要です。厚生労働省の「人口動態調査」では、2017年に死亡した高齢者の死亡場所は、病院・診療所が約7割を占めていました。ほかには自宅13.2%、老人ホームが7.5%、介護老人保健施設(老健)が2.5%などです。

 

厚生労働省は看取りの受け入れの場として、在宅や介護施設などでの看取りを増やす方針ですが、介護の現場では、まだまだ看取り実績の少ない施設がたくさんあります。介護施設の性質上、医療機器が完備されていないなど設備面の限界があることや、今の職員配置では看取りに必要な力を注ぐことができないといったことが理由です。

 

現在、特別養護老人ホームでは、およそ7割が看取り介護のサービスを行っています。しかし、体調を崩して入院し、胃ろうの増設をするなど、医療依存度が高くなった場合、看護師が24時間常駐している施設でなければ再度受け入れることが難しく、結果的に退去しなければならないこともあります。

 

いざという時に慌てることがないように、入所予定の施設の介護方針に加え、看取り介護を行っているかどうか、医療的ケアが必要になった場合でもそのまま入所していられるかどうか、などを入所時によく確認することが大切です。

 

「最適な介護」の選択を
「最適な介護」の選択を

施設での虐待事件、ずさんな経営による突然閉鎖も

将来の介護のために本人や家族があらかじめ準備しておくのが理想ですが、実際に多いのが「介護が必要になってから慌てて施設を探す」というパターンです。とくに多いのが、けがや病気で入院した後、自宅ではこれまで通りの生活が続けられないことが分かり、慌てて介護施設を探して入所するケースです。

 

そのような場合、いわれるがままに高額の施設に入所して、介護破産を招くことになりかねません。また、時間がないと施設を吟味できず、質の悪い職員の働く施設や、劣悪な環境の施設に入所してしまいがちです。

 

2014年、川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の職員が、当時96歳の女性の体を抱えて6階のベランダから落としたとして、殺人罪で起訴された事件を覚えている人も多いでしょう。この有料老人ホームでは、ほかにも2人の入所者が相次いで転落死しています。当時、80人の定員に対し、深夜から早朝までの当直勤務を3人の職員が担当していましたが、分刻みで定められた業務表に沿って、おむつの交換や呼び出しの対応などに追われていたといいます。

 

2007年には、秋田県仙北市の介護付き有料老人ホーム「花あかり角館」が、ずさんな経営の末に閉鎖されました。職員への給料や給食事業者への未払いが続き、食事も十分に出せないままで、入所者の命さえ危うい状態での閉鎖でした。

 

その後、別の事業者が名乗りを上げて、入所者32人の受け入れ先が決まるまでの1カ月間を乗り切ることができましたが、夫婦の入所者がそれぞれバラバラの施設に移らなければならなくなったり、遠方の施設に入所せざるを得なくなったりと、多くの入所者が大変な思いをしたようです。

 

これらの事件は、特異な例といえますが、施設を選ぶ際は何度か見学に行くなど慎重な検討が必要です。その際、指標のひとつとしてやはり極端に費用が安い施設は注意しましょう。

 

介護事業の要はなんといっても「人材」です。極端に費用が安いということは人件費も低く抑えられているはずですので、中には法で定められた人員基準を満たさずに運営している場合もあります。また、待遇がよくなければ、職員のモチベーションも高くはなりません。もちろん、教育や研修にも力を入れていないと考えられます。

 

こういった施設は、事前見学を丁寧にすることで、運営側のスタンスや職員の質などを見抜き、ある程度は回避することができます。

 

◆入所施設を利用するなら月額20万円は必要

 

利用者の所得が低ければ補助給付があり、数万から十数万円程度に抑えられますが、一般的な企業で定年まで勤め上げたホワイトカラーの人であれば、特別養護老人ホーム(特養)の個室ユニットに入所し、プライバシーも保ちたいとなると、月額20万円程度の費用がかかる計算になります。両親ふたりとも施設に入所するのであれば、2倍の40万円ほどが必要です。

 

つまり、配偶者や親を施設に預けるのであれば、本人の年金だけで介護費用をまかなうのはかぎりなく難しいのです。

人生を破滅に導く「介護破産」

人生を破滅に導く「介護破産」

杢野 暉尚

幻冬舎メディアコンサルティング

介護が原因となって、親のみならず子の世帯までが貧困化し、やがて破産に至る──といういわゆる「介護破産」は、もはや社会問題の一つになっています。 親の介護には相応のお金がかかります。入居施設の中でも利用料が安い…

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