「彼女に落ち度はない」看護師をクビにできなかった医師の末路

多くの勤務医が、「開業医」に憧れていることをご存じでしょうか。労働環境が過酷を極める勤務医と比べ、自身でスケジュール・資産管理ができることから、開業するメリットは計り知れません。しかし、バラ色の未来を掴もうとした結果、却って「大損」してしまう医師がいます。本記事では、しいの木子どもクリニックを開業した市川直樹氏が、開業するリスクを解説します。

開業医の「素人経営」が倒産リスクを高める

開業医となると、医院に対して課せられているさまざまな法的規制も守らねばならなくなります。たとえば、一つのクリニックには必ず1人の医師を管理者としておかねばならないのですが、建物が2つに分かれてしまったために、法律上は2つの医院と見なされて医師が2人必要になってしまったという例もあります。

 

また不動産業者にすすめられて、以前にも医院があったという立地の物件を購入したものの、そこが法律上建物の建て替えが禁止されている場所であったために、古い医院の建物を継続して使わなければならなくなったという事例もあります。

 

以前にも医院があって、建物をそのまま使えるというのは、一見居抜きでの利用ができるために、お得な物件という気がします。しかしよく考えてみると、前の医院は何らかの理由で撤退(休廃業もしくは転地)しているわけです。その理由を精査しない限り、一概にお得だとはいえないでしょう。

 

たとえば、以前の医院は医師の評判が悪かったために、人が集まらずに廃業したのだとしましょう。別の看板をかけて新しい医院となったことをアピールしても、同じ場所にできた医院に対しては、どうしても以前の医院の記憶がつきまといます。普通の患者には、経営母体が変わったことなどわかりませんから、以前の医院のまま名前が変わっただけだと思われてしまうかもしれません。この場合は、ネガティブな評判を払拭するところからスタートしなければならず、当初は苦戦が予想されます。

 

別の例では、住宅地に近く、家からも近く、見晴らしもよい好立地を見つけて開業した医師がいました。しかし、その医院の近くには、とても評判のよく地元で愛されている別のライバル医院があったのです。開業した医師は、自分の実力に自信があったために同業医院の存在をあまり気にしていませんでしたが、やはり患者を呼びよせるのは難しく、数年で別の地に引っ越さざるを得なくなりました。

 

このように、経営という観点が不足していたために開業に失敗してしまった例は、決して少なくはありません。他の例もいくつか挙げてみましょう。

医師の「プライドの高さ」が経営を傾かせる?

開業の理由として、自分の理想の医療を実現したいと考える医師は大勢います。勤務医の間は、組織の論理に縛られてなかなか実現できなかった理想を追求するのは素晴らしいことですが、そこに経営の視点が欠けていると悲惨なことになります。

 

たとえば、ある医師は、「患者のために手厚い対応を」と考えて看護師などのスタッフを最初から大勢雇い入れました。しかし、開業当初は患者数がそれほど多くないこともあって、半数近いスタッフが手持ち無沙汰になってしまいました。

 

ここで、間違いを認めて人員整理を行えばよかったのですが、その医師はヒューマニストであったために、一度雇ったスタッフを相手に何の落ち度もないのにクビにすることができませんでした。その結果、医院は赤字続きで経営難に陥ってしまったのです。

 

医院は赤字続きで経営難に…
医院は赤字続きで経営難に…

 

別の事例では、医療の質を落としたくないと、もともと勤務していた大学病院並みの医療機器を開業当初からそろえてしまったために、設備投資の金額がかさんで開業費がはねあがってしまった先生もいます。

 

医療の質を保つことは重要ですが、そもそも地域医療を担う市井のクリニックには、それほど高度な医療機器を必要とする患者はほとんど来ません。来たとしても、大学病院や総合病院への紹介状を書いて送り出すのが一般的です。必要もないのに、高価な医療機器を購入することは、経営の観点から見れば愚としかいいようがありません。

 

理想を求めすぎた設備投資、不必要なほど潤沢なスタッフ配置、集患を考えずにただ感覚だけで見切り発車した立地など、開業医の陥りやすい経営の落とし穴は枚挙にいとまがありません。

 

このような「放漫経営」の理由のひとつとして、一部の医師のプライドの高さも関係していると思わざるを得ません。受験競争のエリートである医師が、街中の一開業医となることに何らかのためらいを感じていると、そのプライドを補塡するために、開業にお金をかけすぎてしまうのではないでしょうか。少しきつい言い方をすると、医学のことしか勉強していない医師がクリニックを開業するということは、素人が会社経営をするのと同じくらい危険なことなのです。

株式会社GSKコミュニケーションズ 代表取締役

1971年生まれ。
1999年から労務を主にしたコンサルティング業務を行い、2004年、株式会社GSKコミュニケーションズを設立。
不動産賃貸業、管理・ソフトウェア開発のほか、飲食業や人材派遣、自動車販売業などさまざまな業種のコンサルティングに従事。さらに2006年4月より「大志の会」「有志の集い」「市川直樹塾」を主宰し、中小企業経営者に向けて講演会やシンポジウムなどを積極的に開催。これまで300社以上の中小企業経営者のコンサルティングに取り組んでいる。 2011年にはしいの木子どもクリニックを開業、クリニックと調剤薬局の経営コンサルティングを手がけ、開業以来5年間で約9万人の患者の集患に成功している。

著者紹介

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市川 直樹

幻冬舎メディアコンサルティング

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