親の葬儀に300万円は「見栄」か?死後事務の家族トラブル

委任者(本人)が第三者(個人・法人)に対し、亡くなった後の手続きや、葬儀・納骨・埋葬などに係る代理権を与え、死後事務を委任する契約のことを「死後事務委任契約」といいます。遺言書などではカバーしきれない手続きを確実に任せられるため、終活の1つとして認知しておくべきでしょう。そこで本記事では、一般社団法人社長の終活研究会・代表理事の眞鍋淳也氏が、死後トラブルが起きた事例を交えて解説します。

「兄弟は平等」の意識がもたらす新たな問題

「死後のことなど、わざわざ決めなくても、子どもがやってくれるのでは?」と思う人もいるのではないでしょうか。もちろん、子どもがいれば、多少親子関係が疎遠であったとしても、葬儀くらいはしてもらえるでしょう。しかし、親の葬儀を発端として兄弟間の意見が食い違い、遺産分割に影響して、裁判沙汰に発展するというケースが非常に増えてきているのです。

 

一昔前まで、親の葬儀といえば、長子、特に長男が、喪主として自分の判断で全てを取り仕切り、他の兄弟たちは口をはさまず、そのやり方を容認するというのが一般的でした。

 

そのベースにあるのは、日本独特の家族観でした。戦後、民法上の家制度はなくなったとはいえ、長子・長男が跡取りとして家督を相続する代わりに、親の面倒を見るのが当たり前、という考え方が長く残っていたのです。

 

しかし、戦後70年を超えた今、日本人の意識もライフスタイルも急速に変化してきています。長男が家を代表して家督を相続するという意識はもちろんのこと、長子や長男の意見を尊重して、それに従うという風潮もどんどん薄れていき、兄弟はみな平等という意識に変わってきました。

 

もちろんこれにはいい面もありますが、新たな問題が浮上してくるようになった一面があることも否定できません。では、どのような問題があるのかを見ていきましょう。

長男が「父の葬儀」を執り行ったものの…

山田家では1カ月前に83歳の父親が亡くなりました。母親は6年前に他界しているので、3人兄弟のうち54歳の長男・Aさんが喪主となり、葬儀を執り行いました。

 

山田家は昔からの資産家で、亡くなった父親は、いわゆる地元の名士でした。しかし遺言もなく、生前に父親から「こんな葬儀をしてほしい」という希望を聞いたことも、葬儀に関する話し合いを親子でしたこともなかったため、長男であるAさんは、自分の判断で、葬儀一切を取り仕切りました。その結果、葬儀は非常に大がかりなものになり、戒名も「亡き父が恥ずかしい思いをしないよう、わが家の格に合ったものを」と思い、一番高額なものをつけてもらいました。

 

葬儀費用は香典代を引いて300万円かかりました。Aさんは、父親の相続財産の一部を葬儀費用に充てるつもりで、一時的な立て替え分として、自分のお金から300万円を葬儀社に払いました。

 

ところが葬儀後、ひと段落して、妹のB子さん、弟のCさんと遺産分割の話し合いをしたときのことです。

 

B子さんが、「お香典を引いても300万円もかかったってどういうこと? どうしてこんなにお金がかかるお葬式をしたのよ! 兄さんが見栄を張りたかっただけじゃないの? 遺産から出してくれなんて、とんでもないわ」と言いだしたのです。

 

Aさんからすれば、全ては長男としての責任を果たそうとしたまでのことです。兄弟たちから感謝こそされ、なじられる筋合いはありません。これを発端として兄弟仲が険悪になり、遺産分割協議は決裂。裁判にまで発展しかねない状態が続いています。

 

親としては、自分の葬儀費用のことで兄弟が決裂するとは、到底、想像もできないことでしょう。「うちの子どもたちに限ってあり得ない」と感じる人も多いのではないでしょうか。ところが、実際にこのようなことは非常に多く起こっているのです。

 

「葬儀にお金をかけすぎたのは○○のせい」

「戒名なんて一番下のランクの安いものでよかったのに、見栄を張って高いものをつけるとは何事だ」

「○○が勝手にやったことで相続財産が減るなんてとんでもない!」

 

と、葬儀費用が遺産分割協議の際に問題となり、口々に喪主を非難するということがしばしばあります。

 

一昔前なら起こり得なかったことが、現実に起こっているのです。その背景には、個々人の権利意識が強くなっていることと、葬儀費用について口にすることへの抵抗がなくなったことがあります。

 

かつての日本では、結婚式とお葬式にいくらかかったか、ということに触れるのはタブーとされてきました。特に葬儀に関しては、「こんなに使い回している花輪や装飾品が、どうしてこんなに高いの?」と誰もが疑問に思っていても、口にすることはありませんでした。それが「常識」だと誰もが認識していたからです。

 

ところが今では、そうした「常識」そのものが変わってしまいました。もう葬儀費用に関することはタブーでも何でもなく、口にしても平気な時代、むしろ曖昧なものを明らかにしていくことの方が「常識」になったのです。

 

もっともこのケースでは、実は兄弟たちの言い分にも一理あります。というのも、本来、葬儀費用は喪主が負担すべきものとされているからです。

 

さらにこのケースでは、他の相続人に対する断りなしに、独断で「相続財産から葬儀費用を出そう」と決めてしまいました。ここに問題があるのです。

 

他の相続人からすると、「勝手に相続財産の一部を使われた」わけで、不満に感じることがあっても、無理はないでしょう。実際に、不満を抱いた相続人が葬儀費用の返還を求めてきたケースもあります。

 

特に槍玉に挙げられやすいのが、僧侶に支払う戒名料です。通常、戒名料には領収書は出ません。このことから、「実際にはそんな金額は支払っていないのでは?」などの憶測を生み、争いの種となることが多いようです。

 

こうしたことは、「うちの兄弟は仲がいい」と常々思っており、外部にもそのように公言してきた家で起こる確率が高いように見受けられます。

 

「うちは大丈夫」という思いがあるため、まさかこのような事態に発展するとは思いもせず、何の準備もしていないことが多いためでしょう。逆に、親が「うちの息子2人は昔から仲が悪くて困る」という認識を持っていたら、せめて親の葬儀でもめることのないよう、何らかの手を打っておくかもしれません。親としては、自分の死後、兄弟間でどんなことが起こっても不思議ではない時代になったと、腹をくくるしかありません。

 

このケースの場合、

 

「喪主を○○に任せる」

「費用は金庫にある現金○百万円から出すこと」

「戒名料は○十万円まで」

 

など、亡くなった父親が、自分の葬儀についての意向を明らかにしておけば、トラブルを未然に防ぐことができたのですが、それがなかったばかりに、兄弟間で齟齬(そご)を生む結果となりました。

 

次は、もうひとつトラブルの種になりやすいものとして知られる、老人ホームの入居一時金について見ていきます。

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員
一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士
公認会計士

弁護士・公認会計士。南青山M’s法律会計事務所代表。芦屋大学経営教育学部客員教授。
1973年愛媛県生まれ。1995年一橋大学経済学部卒業。2006年成蹊大学にて法務博士号取得。1995年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入社、上場企業の監査、M&A等に携わる。その後、会計事務所、法律事務所勤務等を経て2009年に南青山M’s法律会計事務所を設立。個人、企業にとって身近な法律問題はもちろん、税務問題、会計問題、それらが絡み合う複雑な問題についても、冷静に問題を分析し、依頼者にとって最も利益となる問題の解決方法を提案、実践している。著書に『ドロ沼相続の出口』『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』(幻冬舎)、『今すぐ取りかかりたい 最高の終活』(青月社、共著)。

著者紹介

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眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

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