80歳資産家、「運転ミス」をきっかけに相続対策を始めた事例

「相続=死」と捉え、そんな話をするなんて縁起でもない!と考える高齢者の方は少なくありません。しかし、家族・親族としては、資産の全容を把握しておきたいもの。親が頑として動かない場合、どうすればいいのでしょうか? 本記事では、税理士法人大久保会計の大久保栄吾氏の書籍『相続貧乏にならないために子が知っておくべき50のこと』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、親の相続対策を促した例を紹介します。

子が「親に黙って」相続財産を調べるのには限界がある

親が健在なうちから、子も相続の準備や心がまえをしておくことは重要です。しかし、「では、具体的に今何をすべきか」「何から手をつければ良いか」が気になるところです。

 

最初にすべきことは、ずばり親の財産の把握です。子の立場から言えば、現時点で親がどんな種類の財産を、どれくらいの額持っているのか、知っておくことです。相続税は親が遺した財産の額に応じてかかってくる税金です。その元となる財産とその評価額が分からないと対策の練りようがありません。

 

では、どのようにして把握するか? 親の財産は親が生きているうちは親のもの。将来的に自分たちが引き継ぐことになるからとって、言い方には気を遣います。子の立場からすると難しい問題となる部分です。

 

いきなり「お父さん、財産いくらあるの?」と聞くのは、家族といえどもあまりに直截過ぎるでしょう。単刀直入な物言いが通用する親子の間柄なら問題ないかもしれませんが、今まで相続の話題に触れたこともなく、生前対策について話し合う下地もない関係でいきなり聞かれると、親も面喰って身構えてしまうでしょうし、不本意にも「こいつは俺が死ぬのを待っているのか」などと思われでもしたら浮かばれません。

 

かといって、子が親に黙って親の財産を調べるのは限界があります。銀行の通帳を見たり固定資産税の通知書を見たりすれば、ある程度の財産は把握できますが、資産家であればあるほど、他にもいろいろと財産を持っているはずです。倉庫の奥に名のある芸術家の美術作品が眠っているかもしれません。あるいは、外国の銀行に秘密口座を持っているかもしれません。逆に、家族に黙って大きな借金をしているかもしれません。親の知らないところですべての財産を把握するのは、現実的に無理でしょう。

 

軽率に親に聞けず、自分で調べることも難しい、となると、やはり相続対策は子が手出しすべきではないという考えに行き着いてしまいそうです。しかし、そこで諦めては元も子もありません。どうにかして、お互い向き合ってオープンな話し合いができる方向に持っていかなければなりません。

 

資産の話をするには、その下準備として、親子が何でも話し合える場の雰囲気を整える必要があります。

 

硬い土の上に種をまいても芽が出にくいように、相続に向き合う親子関係が築けていなければ、実のある話し合いはできません。まずは、親子間で話し合える環境を整えましょう。

運転ミスが増えた父…「最悪の事態」が起こる前に提言

相続に関心が薄い親の場合は、まず相続に関心をもってもらったり、きっかけづくりから始めなくてはなりません。

 

以前、私が担当していたクライアントに80歳を超えた資産家の方がいました。その方は年齢の割に矍鑠(かくしゃく)として、まだまだ現役を続けるつもりでした。ところが、60代になる息子さんは相続のことが気になって仕方がありません。「いくら元気だといっても、この年になればいつお迎えが来てもおかしくない」と思いつつも、相続の話し合いをできるような間柄ではなく、どのように話し合いをするきっかけを作るかも分からず、しばらくの間、何もできずにいました。

 

しかし、ある時になって、「せめて財産だけでも把握しておかないと大変なことになる」と意を決して、私たちのところへ相談に来てくださいました。うちの事務所とは私の祖父の代からお付き合いのあるお宅でしたので、お父様の気持ちも、息子さんの気持ちもよく分かりました。

 

ある時よくよくお金の行方などを見ていると、車の修理代などが妙に目立つことに気が付いた私は、その理由を息子さんに聞きました。すると、どうやらお父様は車でしばしば運転ミスをしているらしいのです。頻繁に車に傷を作ったり、小さな事故を起こしたりしていました。

 

本人はまだまだ現役のつもりだが…
本人はまだまだ現役のつもりだが…

 

私は車の話からお父様に話を切り出すことにしました。息子さんにも同席してもらい、「最近、運転ミスが増えていらっしゃるようです。息子さんも心配しています。お父様がケガをされても、また誰かにケガをさせても困りますから、そろそろご自身での運転はお控えになって、息子さんやどなたかに頼まれてはいかがでしょうか?」と進言しました。

 

すると、本人も気にされていたようで、さほど強い抵抗もなく車や免許を手放すことを受け入れてくれました。「自分でも体力的な衰えが気になってはいた」というのを聞いて、ここで初めて相続のことを切り出しました。「そろそろ息子さんに、家のことや仕事のことを任せるタイミングかもしれませんね」と私が言うと、ご本人も「そうだね」と納得してくださったのです。その後、本格的な生前対策へと歩み始められることになりました。

 

私はこの時、大事故が起こる前で良かったと心底思うと同時に、相続についても前向きに検討していただけて良かったと思いました。高齢になってくればいくら外見は毅然とされた親御さんでも、寄る年波には抗えません。このままもし対策を講じずに、ある日突然相続が発生していたら、この資産家の息子さんの納税額は大変高額になっていまいした。

 

この事例の場合、息子さんはなかなかお父様に話を持ちかけられずにいましたが、そのまま放置せずに、自分からできることとして私のところへ相談に来てくださったことが功を奏しました。あと2年か1年でも遅ければどうなっていたのかは、誰にも分かりませんが。

 

親自身が体力的な衰えや健康への不安を感じた時などは、話を切り出す一つのタイミングです。本人としても相続についての話を受け入れやすい時です。

 

しかし、実際にはそういったタイミングなどが見つけられず、いきなり税理士事務所に行こうと提案するのも憚れる場合は多いと思います。こうした場合には、親の側に相続に対する関心が出るように、自然に相続と向き合えるように、子どもの方からバックアップしていきましょう。

 

さりげなく親に相続への関心を持ってもらう方法として、たとえば以下のようなものが考えられます。実際に私のところに相談にいらした方にも、同じようなことをお伝えしています。

 

●相続の本や記事を親の目につくところに置いておく。テレビで相続が話題にあがっているときに「うちは大丈夫なの?」と水を向けてみる

 

●近所や親族で相続が起きたタイミングを見計らって、「△△さんのところ、相続で大変だったらしいよ。お父さんはちゃんと準備しておいてね」と言ってみる

 

●相続というより老後の話として持ち出し、「老後のことで僕たちにしてほしいことがあったら、早めに言っておいてね」と促してみる

税理士法人大久保会計 税理士

1974年埼玉県熊谷市生まれ。一橋大学経済学部卒。税理士。これまでに扱った相続案件は事務所として数千件を超え、相続人の立場を考えた相続税対策にノウハウと実績がある。自身も、祖父が埼玉県行田市に60年以上前に開業し、現在は父親が代表社員をつとめる税理士法人大久保会計にて事業継承中。日本政策金融公庫認定農業経営アドバイザー。行田青年会議所会員(2014年現在)。

著者紹介

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