※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2019年11月1日に公開されたものです。

年金65歳開始時代がもうすぐスタート

国の年金は段階的な65歳への受給開始年齢引き上げを行ってきました。その引き上げもほぼ終わりつつあります。今年度に定年退職を迎える人たち、つまり今60歳に達しつつある昭和34年4月2日から昭和36年4月1日生まれまでの男性は、64歳までは無年金、64歳から1年分だけ厚生年金相当をもらい、65歳から満額年金となります。女性は生年月日で5年遅れで実施されます(民間の厚生年金の場合)。

 

つまり、間もなく真の65歳開始時代がやってくる、ということです。

 

これに合わせて、60歳から65歳までは継続雇用制度などで働ける環境作りを行ったり、高齢者雇用継続給付金を雇用保険制度で整備し、年収が大きく下がったとしても一定の補てんを行う仕組みを用意してきました。

 

しかし、これで終わりではありません。国は65歳以降も働ける社会作りに舵を切ろうとしています。可能であれば、70歳までの継続雇用、それ以降も働ける社会を実現し、働きたい人は年齢にかかわらず、働ける世の中に変えていきたいようです。

 

さて、年金はどうなるのでしょうか。国の年金部会の議論を見ながら、個人のマネープラン、資産形成に及ぼす影響を考えてみます。

現在の年金制度は繰り上げ、繰り下げで、受取額が増減する

現在、65歳を標準の受給開始年齢として、60~64歳の間に年金を受け始める「繰り上げ」と、65歳以降70歳までの間に年金を受け始める「繰り下げ」の制度があります。つまり「60~70歳」が年金受取開始の個人にとっての選択肢ということです。

 

60~64歳の間に受け取る繰り上げを行うと年金額は減額、65歳以降70歳までの間繰り下げを行うと年金額は増額されます。繰り上げは年6%相当が減額され、繰り下げは年8.4%相当が増額されます。60歳から受け始める人はその人にとっての年金額の標準を100とすると70%まで減ります(30%減)。70歳まで年金を受け取らなかった場合、年金額は142まで(42%増)増額します。

 

標準より早くもらった人は一見お得のようですが、少ない年金額で長い老後を過ごすことになるので、長生きをすればあまり得とは言えません。

 

標準より遅くもらい始める人は、最初の数年間は無年金で過ごすことになりますが、その後は増額された年金をもらいますので、標準的な長生きであればトントン、それ以上長生きすればかなり得、ということになります。

 

男女平均でいえば65歳の平均余命は22年くらいです。通常の100で22年もらえば2,200ポイントとした場合、70歳から17年受け取った場合は142×17=2,414、60歳から27年受け取った場合は、70×27年で1,890ポイントと、大きな差がつくことが分かります。

 

もちろん自分の老後が何年あるかは分かりませんが、制度としてはこういう仕組みで、個人が選べるようになっています。

年金部会で70歳超の繰り下げ増額が議論される。年7%で最大84%増額の可能性も

現在の年金部会では、65歳を中央に置くのではなく、むしろ高齢期のほうに受取開始年齢の範囲を広げる議論をしています。現実問題として65歳に到達した人を「高齢者」と呼ぶにはまだ元気で、知力も有り余っているのが日本の65歳であるからです(これは調査結果からも明らか)。日本人の60代は、OECD(経済開発協力機構)平均にそん色ない知的レベルを維持していますし、健康レベルでも20年前に比して5~10歳ほど若返っている(老いが遅く訪れる)状態にあります。

 

先日10月18日に開催された年金部会では、下記の案が示されました。

 

・繰り上げはそのままで減額率を年4.8%、60歳からならマイナス24%に緩和する

・繰り下げは年8.4%は維持しつつ、75歳まで伸ばす余地を認め、最大でプラス84%まで年金を増やせるようにする

 

75歳まで引き上げるのはおおむね予想されていたのですが、増額率はそのままなので、なんと年金額を84%も増やすチャンスが「長く働く」ことで得られる仕組みです。

 

また意外だったのは繰り上げについては月あたり0.5%のマイナスを0.4%に抑えたことで、ほんのわずかながら繰り上げも有利になっています(財政上の中立の観点からの部会案であり、確定ではない)。

アイデアA:働いて稼ぐ繰り下げ増額プラン

実際の法律改正まではまだ何年もかかりますが、この増額を生かす選択肢はいくつか考えられます。

 

まず、一番簡単なのは65歳以降も「生活費にも困らないくらい収入がある」場合です。この場合は気にせず働き続けることで、「無年金」期間を遅らせても気にせず暮らしていけます。むしろ働いてがんばるほど、手元のお金の取り崩し開始も遅らせられますから、いいことずくめです。

 

なお、国の年金の繰り下げは66歳まで1年はがんばらないと手続きができませんが、それ以降であれば月単位で好きな時期を受け取り時と定められます。70歳のつもりだったが、68歳で仕事を辞めたので年金受取開始でもいいのです。

 

また、「増額した年金を受け取る」「通常の年金額で受け取り、過去の未受け取り分を現金で一括でもらう」という選択肢ができるので、マネープラン的にも自由度が増えます。

アイデアB:私的財産での「中継ぎ」による増額プラン

65歳以降、仕事のほうはリタイアしても、あえて公的年金を受け取らないという選択も考えられます。日本年金学会では、これを「中継ぎ型(WPP)」と名付けた報告もあります。

 

働く(W)、私的年金で継投(P:PrivatePension)、公的年金(P:PublicPension)が野球のリリーフ継投策のようにつないでいくイメージです。

 

この場合、あえて公的年金をもらわず、手元財産を計画的に切り崩しながら数年をやりくりします。無収入ですからこの間の課税負担はありませんし、社会保険料負担も軽くなります(継投の初年度だけ前年所得に応じて負担がある)。

 

「このくらい手元財産の残高が減ったら公的年金を受け取ろう」というボーダーラインを設定し、到達したら公的年金を受け始めるという考えです。

 

この選択肢は「受け始める年齢は自分で決められる」ことと「遅らせるほど年金額は増える」ということを制度として活かしたアプローチです。かつ「終身で国の年金はもらえるため、長生きリスクに対する最高の対策となりうる」ことに最大のメリットがあります。

 

ただ難点としては、心理的に手元の財産を切り崩して公的年金を無年金にするのは難しいことで、老後の資産管理がしっかりできている人向けとなります。

自分の人生をどう考えるか。難しいが選択の余地が広がる

もちろん、65歳まで働き年金受給するという普通の選択肢もこれからも残っていきます。65歳まで継続雇用してリタイアする人がこれからしばらくも多数派であり続けることでしょう。

 

しかし、私たちは「働き方」「年金のもらい方」「私的財産の取り崩し方」を組み合わせながら、自分のリタイア生活をデザインできるようになっていきます。

 

言ってみれば、これは老後の「楽しい難問」です。しかし、このパズルは難問であっても解きがいのある難問です。

 

計画的に老後のマネープランを考える「しっかり派」ほど、自分の人生を主体的に決めることができますので、このパズルを組み合わせ、最適化することを考えてみてください。

 

 

山崎 俊輔

フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2019年11月1日に公開されたものです。

 

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