10月18日に日経平均株価が年初来高値を更新しました。しかし個人投資家の多くは「利益が得られていない」と感じているはず。その理由を分析してみました。
日経平均が年初来高値更新
9月以降、日本株の動きが強くなっています。日経平均は10月18日には2万2,649円85銭という年初来高値をつけました。
しかし、筆者の周りの個人投資家に話を聞くと、あまり景気の良い話は聞こえません。日経平均が年初来高値更新と言われても、全く実感がないようです。
「日経平均が年初来高値を更新しているのに自分は全く利益があがっていない」と焦るのはキケンです。余計な勝負に出る前に、日本株の実態を知ることが先決です。それを踏まえてどのように行動するかを決めるようにしてください。
ある株価指数は値下がりを続けていた!
筆者は日本株全体の動きをみるとき、3つの株価指数を参考にしています。「日経平均株価」「TOPIX(東証株価指数)」そして「マザーズ指数」です。
実は日経平均が年初来高値を更新しているその裏で、マザーズ指数は値下がりを続けているのです。
日本株が実質的に高値をつけたのが2018年の1月。この時と比べて日経平均はほぼ横ばいで推移していますが、マザーズ指数は約40%も値下がりしているのです。
個人投資家の多くは、日経平均に採用されているような大型株よりも、値動きが軽く大きな上昇も期待できる中小型株の方を好む傾向にあります。
しかし、日経平均が年初来高値更新の一方、マザーズ指数は値下がりしているということは、個人投資家が保有する銘柄の多くは上昇していないか、逆に値を崩していることを示しているのです。
NT倍率も急上昇!
また、筆者がよくチェックする指標の1つに「NT倍率」があります。「N」は日経平均株価、「T」はTOPIXのことで、日経平均がTOPIXの何倍の数値かを表したものです。
このNT倍率が、10月に入り大きく上昇しているのです。NT倍率が上昇しているということは、日経平均の方がTOPIXに比べて値動きが強いことを示しています。
個人投資家の肌感覚に最も近いのはマザーズ指数だと筆者は思いますが、日経平均とTOPIXとを比べてどちらか、と聞かれたら迷わずTOPIXと答えます。
TOPIXは東証1部上場の全銘柄を対象とした指数であるのに対し、日経平均は東証1部の225銘柄のみを対象としているからです。さらにその225銘柄の多くは個人投資家があまり積極的に投資対象とはしていません。
はっきり言って、NT倍率が急上昇しているときというのは、日経平均だけがやたら強いものの、個別銘柄をみるとイマイチ…であることが非常に多いです。
個人投資家が利益を上げやすい環境は、逆にNT倍率が低下しているときです。この点からも、今の日本株上昇は、個人投資家の多くが恩恵を受けられるタイプのものではないことが分かります。
信用評価損益率もほとんど改善していない
筆者は、個人投資家の現状を最も端的に表しているものが「信用評価損益率」だと考えています。
信用評価損益率とは、信用取引で株を買っている投資家が、どれくらい含み損益を抱えているかを示すものです。マイナスが大きければ大きいほど、個人投資家の多くは多額の含み損をかかえて投資家心理が冷え込んでいる状況であることを示します。
10月11日時点での信用評価損益率はマイナス13.63%で、今年に入ってから全くと言ってよいほど改善していません。さらには、9月以降日経平均が大きく上昇したにもかかわらず、信用評価損益率はほとんど改善していません。
ということは、個人投資家が保有している銘柄の上昇は限られたものにすぎなかった、ということがいえるのです。
個人投資家は直近の株価上昇で利益を出せなくても心配なし
以上から分かること、それは「足元の株価上昇は、個人投資家にとってはあまり大きな恩恵を受けることができないタイプの上昇」である、という事実です。ですから、利益が出ていなくても特段心配することはありません。
ただ、大きく損失を出しているというのであれば、それはやり方を根本的に見直した方が良いでしょう。今はさすがに大きな損をするような状況ではないからです。
こんなときに、無理をして勝負に出てもあまりよいことはありません。筆者はすでにある程度の銘柄を保有していますが、もしここから何をすべきかと聞かれたら、例えば以下のような行動が考えられます。
●足元で上昇した銘柄の押し目買いを狙う
●25日移動平均線を超えたばかりの出遅れている銘柄を買う
●日経平均株価連動型のETF(上場投資信託)、日経平均株価レバレッジ型のETF、日経平均先物を買う
●中小型株の動きをウォッチし、上昇トレンドに転じたら買うように準備しておく
日経平均が上昇の主導ですし、個別銘柄に投資してもその銘柄が上昇するかは分かりません。それなら、日経平均に連動するタイプのETFや日経平均先物をある程度買っておくことは有効な戦略の1つなのではないかと個人的には思っています。
足立 武志
足立公認会計士事務所
※本記事は、2019年10月24日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。