チリのデモが収束しないことを受け、チリ株式市場の下落や、国債利回り上昇(価格は下落)しています。今回のデモのきっかけは地下鉄運賃の値上げと見られますが、値上げは既に撤回されており、市民の不満は現政権の政策に向けられていると見ています。チリでは11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議も予定されているだけに、影響も懸念されます。
チリのデモ:地下鉄運賃値上げをきっかけとした政府への抗議デモ、収束せず
南米チリで公共交通機関の運賃引き上げに反対する学生らのデモが暴徒化し、混乱が続いています。ピニェラ大統領は2019年10月18日に首都サンティアゴ一帯に非常事態宣言を発令しました。
なお、ピニェラ大統領は事態の収束に向けて、19日には地下鉄の値上げを見送ると発表しました。また21日の記者会見で、生活の向上を求める市民の声に耳を傾けていると強調し、22日には野党を含むさまざまな団体と面会して危機打開を目指すと表明しましたが、現地の報道では、23日もデモは続いている模様です。
どこに注目すべきか:デモ、地下鉄運賃、経済格差、南米、緊縮策
チリのデモが収束しないことを受け、チリ株式市場の下落や、国債利回り上昇(価格は下落)しています(図表1参照)。今回のデモのきっかけは地下鉄運賃の値上げと見られますが、値上げは既に撤回されており、市民の不満は現政権の政策に向けられていると見ています。チリでは11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議も予定されているだけに、影響も懸念されます。
今回のデモは地下鉄運賃の約4%の値上げが撤回されても継続(拡大)していることから、デモが続いている背景として賃上げ以外の要因が大きいと見られます。
では何が背景か? 断片的な情報に基づくと、経済格差や年金など社会保障に対する不満が強いためと見られます。調査会社Ipsosが不満の背景を尋ねたところ、7割程度が生活条件の悪化と、ヘルスケアや年金システムが不公平かつ不公正と訴えています。
また、デモの最中、市民の声を聞いたピニェラ大統領が打ち出した政策が基礎年金の引き上げや、最低所得保障の引き上げ、財源としては富裕層の所得税の引き上げで対応したことからも、格差や不公平感に対する不満が最も高かったように見られます。
チリは主要格付け会社からA格を取得するなど、経済的に南米の優等生と見られています。ただ、GDP(国内総生産)成長率を見ると、主力産業である銅価格との連動が強いなどモノカルチャー的な弱さも併せ持ちます(図表2参照)。
足元の低成長に加え経済格差が大きい中で、現政権が市場重視の姿勢から、緊縮的な対応を行ったこともデモの要因のひとつと見られます。南米ではベネズエラはともかく、エクアドルでは燃料補助廃止をきっかけに抗議デモが激化、5月頃教育予算削減に抗議してブラジルでもデモがありました。アルゼンチンでは資本規制の導入に伴いマクリ大統領への反発が高まるなど、緊縮政策への不満が見られます。
チリのデモは鉱山労組も参加するなど拡大の様相を見せる一方、緊縮政策への不満などに対し政府は対応に追われています。当面注視が必要と思われます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『南米・チリのデモ収束せず…経済格差、社会保障の不満が背景か』を参照)。
(2019年10月24日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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