健康のために「糖質制限」にチャレンジしたものの、美味しいご飯の誘惑に勝てず挫折してしまった経験はありませんか?  本連載では医師の市川壮一郎氏の著書、『ゆる糖質オフ そうだったのか 食事術!』(時事通信社)の中から一部を抜粋し、「糖質中毒」のメカニズムや、挫折しらずのゆるい糖質制限の方法を紹介していきます。今回は、糖質の過剰摂取に陥っている典型例と、医者である筆者が「糖質ゼロ」に挑戦したエピソードを語っていただきます。

知らずに「糖質オーバー」という、4人の典型例

◆知らずにどれだけ糖質過剰に陥っているか。あなたの食事をチェックしてください

ほとんどの日本人は「炭水化物のとりすぎ→肥満→大病」というレールに乗せられ、糖質中毒へと牽引されています。スポーツ選手など活動量が多ければ消費エネルギーも増えますから、それに応じて糖質の摂取量を増やしていっても構いません。

 

しかし、本来、糖質は私たちにとって生きていくための必須の栄養素とはされていません。ですから、血糖値を上げすぎるほど糖質を摂取している現代人は、明らかに糖質過剰(一般的に理想は1日当たり130g以下ですが、日本人の糖質摂取量は1日当たり270~300gと言われています)。今こそ、自分が摂取しても体に害が及ばない適切な糖質量を知る必要があるのです。

 

体力を必要とする第1次産業に携わる人が多かったかつての日本では、ご飯中心の食生活でも「糖質とりすぎ」にならずに済んでいました。でも、いまのビジネスパーソンが同じようにしていたら、あっという間に中毒になってしまうのです。

 

多くの日本人がどれほど過剰な糖質を摂取しているかを知ってもらうために、以前クリニックに相談に来た典型的なビジネスマンAさんが語ってくれた、ある典型的な1日の食事内容をチェックしてみましょう。

 

※糖質含有量については、「日本食品標準成分表2015年版」等をもとに、おおよその量で作成

 

【Aさん・50代男性会社員】

朝食

6時半頃

身支度をしながら妻がつくってくれたおにぎりを2個とみそ汁、りんご2片を大急ぎで食べる。

●おにぎりの糖質 40g×2

●みそ汁の糖質 3g

●りんごの糖質 9g

朝食:糖質合計 約92g

 

昼食

12時半頃

同僚と会社の近くのそば屋へ。たぬきそばに炊き込みご飯がついた、お得なランチセットを注文。

●たぬきそばの糖質 78g

●炊き込みご飯の糖質 55g

昼食:糖質合計 約133g

 

16時頃

来客の手土産であるクッキーが配られる。小腹が空いていたのでインスタントコーヒーとともに3枚ペロリ。

●クッキーの糖質 8g×3枚

間食:糖質合計 約24g

 

夕食

20時頃

家で夕食。缶ビール2本を飲みながら、中華風の肉と野菜の炒めもの、冷や奴、オムレツなど妻の手づくり料理。締めに、大好きな明太子でご飯を1杯半。

●ビールの糖質 11g×2本

●明太子ご飯の糖質 92g

夕食:糖質合計 約114g

 

Aさんの糖質摂取量:1日約363g
仕事終わりのビールは格別だが……
仕事終わりのビールは格別だが……

 

Aさんの食事内容は、日本の中年男性として実によくあるパターンです。おそらく、あなたも似たようなものではないでしょうか。

 

本来であるなら1日270gでも十分すぎるはずの糖質を、Aさんは363gもとっています。厚生労働省からは褒められるかもしれませんが、筆者は断固「NO」と言います。ついでに、年代や性別が異なる人のパターンも挙げておきましょう。いずれも、筆者の患者さんの事例です。これを見たら、あなたも、とても他人事ではないということが分かるでしょう。

 

【Bさん・30代男性会社員・一人暮らし】

朝食

前の日にコンビニで買っておいたサンドイッチとオレンジジュース。会社に到着後、自動販売機で買った微糖(全然微糖じゃない)缶コーヒー

●サンドイッチの糖質 53.2g

●缶コーヒーの糖質 13.5g

●オレンジジュースの糖質 26.4g

朝食:糖質合計 約93g

 

昼食

社員食堂で本日の定食(豚の生姜焼き、丼ご飯、みそ汁、ミニサラダ)夕食残業後の会社帰り、ラーメン屋に寄り、生ビール2杯、餃子とみそラーメンのセット

●丼ご飯の糖質 85g

●みそ汁の糖質 3g

●豚の生姜焼きの糖質 7g

昼食:糖質合計 約95g

 

夕食

残業後の会社帰り、ラーメン屋に寄り、生ビール2杯、餃子とみそラーメンのセット

●生ビールの糖質 15g×2杯

●みそラーメンの糖質 70g

●餃子の糖質 6g×6個

夕食:糖質合計 約136g

 

Bさんの糖質摂取量:1日約324g
誰もが大好きな、ラーメン+餃子の組合せ
誰もが大好きな、ラーメン+餃子の組合せ

 

【Cさん・20代女性会社員・実家暮らし】

朝食

食欲も時間もないのでバナナを1本

●バナナの糖質 21.4g

*10時頃

いつもバッグに入れてあるチョコレートを3粒

●チョコレート3粒の糖質 10g

朝食:糖質合計 約31.4g

 

昼食

行きつけの店でパスタランチ(ボンゴレとサラダのセット)

●パスタの糖質 57g

昼食:糖質合計57g

 

夕食

大学時代の友人とおしゃれなカフェでインスタ映えするロコモコ丼。お風呂から出た後、冷蔵庫で冷やしたペットボトルのアイスティー(加糖)とショートケーキ

●ロコモモ丼の糖質 100g

●ペットボトルアイスティの糖質 10g

●ショートケーキの糖質 43g

夕食:当日合計 153g

 

Cさんの糖質摂取量:1日約241.4g
食後のデザートはやめられない
食後のデザートはやめられない

 

【Dさん・70代男性ボランティア活動・妻と二人暮らし】

朝食

妻と二人でゆっくりトーストとコーヒー、果物をとるのがいつもの習慣

●砂糖入りコーヒーの糖質 9g

●食パンの糖質 26.6g×2

●果物の糖質 15g

朝食:糖質合計 77.2g

 

昼食

昼食づくりは、主にDさん担当。この日は残りご飯で雑炊

●雑炊の糖質 62g

 

間食

家にいるときには何かしらのおやつ、この日はいただきもののどら焼き

●どら焼きの糖質 55.6g

昼食+間食:糖質合計 約117.6g

 

夕食

日本酒2合を妻と分け合いながら、焼き魚、ひじきの煮物、湯豆腐など

●日本酒2合の糖質 18g

夕食の糖質:約18g

 

Dさんの糖質摂取量:1日212.8g
毎日の晩酌が習慣
毎日の晩酌が習慣

 

いかがでしたか?

 

唯一、Dさんだけは夕食時にほとんど炭水化物をとっていません。Dさんいわく「70歳を過ぎてあまりたくさん食べられなくなったのと、おかずをお酒のつまみにするスタイル身についているから」とのことでした。

 

そのDさんですら、1日の糖質摂取量は212gにもなります。一般的な理想が1日当たり130g以下とすれば、やはりとりすぎと言わざるを得ません。普通の生活を送っている日本人は、ほぼもれなく糖質中毒に陥り、血糖値の乱高下を引き起こしている可能性があるということが分かるでしょう。

筆者も挫折…そこで生まれた「新・糖質制限」

◆実は筆者自身も糖質中毒でした。だから、あなたの悩みを実感できるのです

ここで一つ白状しましょう。実は、Aさんのエピソードは筆者にも当てはまります。以前の筆者は、多くの中年男性同様、炭水化物が大好きでした。さらには、饅頭でも煎餅でも、目の前にお菓子があれば、お腹が空いていないのにパクパク口に運んでいました。つまり、筆者自身が糖質中毒に陥っていて、そこから抜け出した経験を持っているのです。

 

筆者が今のクリニックを開業したのは2018年の6月。その頃を境に、筆者は急に太り始めました。最も体重が多いときで74キロ(身長は173センチです)くらいあったでしょうか。おそらく、忙しさにかまけて食事がおろそかになっていたのだと思います。

 

当時はコンビニのおにぎりだけで済ませるということも多々ありました。

 

「そんなに食べすぎているわけでもないのに、なんでこんなに太るんだろう。もしや」

 

このときになって筆者は、自分自身が糖質中毒に陥り血糖値の乱高下を引き起こしているのではないかと疑いました。思えば、その頃は、昼食後の午後の診察でひどい眠気に襲われることがしょっちゅうでした。医師としてまったく恥ずかしい話です。

 

それからというもの筆者は、食後血糖値をたびたび測定してみました。そして、驚愕しました。「おにぎり一つで200超え」していたからです。血糖値が200を超えたら糖尿病と診断されるレベルです。そんなことが自分の体の中で簡単に起きてしまうことに大きなショックを受けました。

 

そこで糖質制限を始めるのですが、最初は失敗しました。いきなり「糖質ゼロ」をやってしまったからです。患者さんたちには「無理は禁物だよ」と言っておきながら、自分だけはできるという思い上がりがあったようです。

 

炭水化物も甘い物も一切口にせずにいたある日、診療を終えてクリニックの休憩室に戻ると、スタッフがお菓子を食べていました。筆者はスタッフにそれを分けてもらうなり、貪るように食べてしまったのです。

 

そのときは、さすがに自己嫌悪に陥りましたが、こうした遠回りを経て、ゆるい糖質制限に切り替え、1カ月もたたないうちに体重は70キロに落ちました。やはり、無理をしなかったのがよかったのでしょう。それ以来、炭水化物の摂取量は自然に減っていき、あまりご飯は食べなくなりましたし、食べたいとも思わなくなりました。

 

現在では、体重も64〜65キロで安定しています。どうやら、糖質中毒からは完全に脱出できたようです。

 

◆効果を実感しながら確実な成功へと導く。医師の筆者が発明した方法

本書(『ゆる糖質オフ そうだったのか 食事術!』)を手に取ってくれたということは、「糖質制限」について、あなたはすでに何らかの情報は手にしているのでしょう。ただ、その中身についてはさまざまで、あなたは迷っているのかもしれません。

 

①「糖質制限とかいうのが健康に良いらしいけど、俺には関係ないんだろ?」

②「糖質制限に挑戦してみたいけど、ご飯を我慢するなんて無理」

③「糖質制限に挑戦した経験はあるけど、途中で嫌になっちゃった」

④「糖質制限をやってみたけど、やせないし体調も上向かないよ」

 

もしかして、この四つのいずれかに当てはまりますか?

 

だとしたら、あなたの認識が間違っているか、やり方が間違っていたかのどちらかです。今のあなたが、どの状況にあるにしろ、本書の方法を試してみる価値は大いにあります。それによって、あなたは確実に糖質中毒から脱出できます。

 

このように明言できるのも、これまで筆者は、自分自身をはじめ、多くの患者さんを実際に糖質中毒から救い出してきたからです。本書の方法は、これまであなたが興味を持てなかったか、あるいはうまくいかなかったものとは異なり、ビジネスパーソンが日々の仕事をこなしながらできるように極めて実践的に考えられています。

 

ただ、筆者がこのように述べても、それが目に見えるものでなければ「漠然としていてよく分からない」と感じるでしょう。そこで本書では、二つの数値によって「効いてる」を確認してもらいます。一つが血糖値、もう一つが体重です。

 

【血糖値】

あなたはこれまで「空腹時血糖値」ばかり測定してきました。そのため、一番重要な食後血糖値について知らずにいます。おそらく、かなり高くなっているのですが放置しています。

 

そこで、食後血糖値を把握してほしいのです。ただし、病院に行って血液検査をしてもらう必要はありません。薬局で売っている検査紙に自分で尿をかけ、そこから血糖値を推測するという安価で簡単な方法をとります。

 

【体重】

それさえも面倒だというなら、体重によって効果を実感してください。

 

本書の方法で糖質中毒から脱出していくと、太っている人は確実に体重が減ります。これまで、自分のぽっこりお腹を気にしながらも「今さらダイエットなんて……」とあきらめていた人たちにとって、驚きの事態が待っています。

 

あなたは毎日、体重計に乗るのが楽しみで仕方なくなるでしょう。ベルトの穴も見事に縮まっていきます。

 

◆糖質中毒は、特殊な「中毒」。それを知らなければうまくいかない

糖質中毒から脱出する第一歩は、「自分は中毒なんだ」と認識することです。これまで述べてきたように、糖質中毒はほかの中毒と違って気づきにくいのです。

 

例えば、ニコチン中毒について考えてみましょう。

 

現代社会では、多くの人がたばこの害を知っています。副流煙の害を受けている非喫煙者はもちろんのこと、喫煙者本人も「たばこはやめたほうがいい」ということは分かっています。それでもやめられないのは、ニコチン中毒に陥っているからだということも分かっています。

 

でも、もし「たばこは体にいいもの」と信じ込まされていたらどうでしょう。みんな積極的に吸って、誰もそれをやめようとは思わないでしょう。だから、自分がニコチン中毒になっていることすら意識しないはずです。

 

まさに、糖質がそうなのです。「炭水化物を主食として食べるのがいい」と信じて、あなたはそうしてきました。そして、見事に中毒患者になってしまったわけです。

 

このように、糖質中毒の場合、ほかの中毒とは成り立ちからして違うのですが、脱出法にも決定的な違いがあります。糖質中毒は、「完全に絶つ」必要はありません。むしろ、少しとっているくらいがいいのです。

 

ニコチンやアルコール、薬物などの中毒から本気で抜け出そうと考えたら、「ちょっとだけ」は許されません。たった一度、誘惑に負けたらすべて元の木阿弥。「絶対に手を出さない」という、面と向かっての真剣勝負が必要になります。

 

一方で、糖質中毒は「ちょっとは付き合う」といった緩やかな態度で上手にやりすごすのが克服の近道です。無理をすると失敗します。

 

これまで炭水化物をとりすぎていたあなたが、それを減らそうとすると糖の誘惑が波のように押し寄せます。その波に対し正面から抵抗していると、どんどん波が大きくなってあなたは大変な思いをします。おそらく、途中で転覆するでしょう。

 

そうではなくて、波には乗りながらやりすごしましょう。そのうちに波は小さくなっていきます。

 

筆者のクリニックには、「糖質制限に挑戦してみたがうまくいかない」という悩みを抱えた患者さんも多くやってきます。彼らはたいてい肥満や糖尿病を持っていて、「何とかしたい」と思っているのに、糖質中毒から脱出できず苦しんできました。中には、途中で挫折したことでやけになって、さらに悪化させている人もいました。筆者は、そういう患者さんたちも確実に救出してきました。

 

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