老後のために「過度な節約」に走る人もいるが…
これまで、中心的な問題意識として「老後対策」ということを考えながら、主にお金に関する対策について多角的な方向から検討してきました。そこで今回からは、あえてお金をどう使うかについても考えていきます。ここでは主に、40代になって老後対策を意識し始めてからのお金の使い方について、私の考えを説明していきます。
それというのも、人はひとたび「老後のために」といってお金を貯め始めると、ついどうしてもお金を使うことをためらってしまうようになりがちです。何でもかんでも「老後のために、このお金は使わずに貯めておこう」と思い始めてしまうと、ともすれば度を過ぎた節約や倹約に走ってしまいます。しかし、それでは本末転倒です。老後を豊かに過ごしたい。だから、「今」は倹約的に生活しよう。それはたしかにもっともなことなのですが、では果たして「今」を殺してしまっていいのかといえば、答えは「ノー」です。
「10代の青春は一度しかないし、戻ってこない」といわれますが、「40代の青春も一度しかない」のです。40代が「青春」なんて、おかしいと思われるかもしれませんが、40代だって、70代からみたら「まだまだ若い」です。その貴重な若い時代を無味乾燥なものにしてまで、「老後」に過度に重きを置くのは本末転倒だというわけです。
40代に限らず、50代だって貴重な時代です。今を殺してまで老後を大切にするのではなく、今も老後も大切なのです。「今」の価値と「老後」の価値。これらについて、自分なりに上手にバランスを取っていき、実践するのが幸せな人生を過ごす秘訣です。要はバランスが重要なのです。
適切なバランスは「今:老後=6:4」ぐらい
「今:老後」を「9:1」にしてしまうのは老後のことを考えなさすぎですが、「1:9」にしてしまうのは老後のことを考えすぎです。「今:老後」を「6:4」くらいにするのが適切なのではないでしょうか。老後対策の記事を書いておいて「今が6」というのも矛盾するように思われるかもしれませんが、やはり「二度と帰り来ぬ40代(50代)の青春」は大切ですから、「今:老後」は「5:5」ではなく、「6:4」くらいが適切だと思うのです。そして重要なことは、「老後のことも(今を6として)4は考えよう!」ということなのです。
そう考えて、これまでの記事で紹介したようないくつかの「老後経済対策」を40代から実践し続けることで、老後のお金の問題は解消に向かいます。はっきりいってしまえば、老後にお金のことで困ることはなくなると思います。
「使い切れないほどのお金」というと、数億円とか数百億円とかを想像しがちですが、数千万円くらいのお金でも、老後になれば使い切れません。数千万円が生み出す200万円~ 300万円(年額)の資産所得もありますし、年金だって、あてにはならないとはいえ、いくらかはもらえるのが通常です。
そして、何といっても老後には(若いときに比べて)支出も減るのが一般的です(日本には高額医療費支給制度が完備していますから、負担する医療費には通常、上限があります)。そうすると、老後における生活上の収支は黒字化してしまい、ストックの数千万円は使わなくても生きていけてしまいます。実は、しっかりと老後対策をしておくと、いざ老後になったときには、お金の収支は黒字になって、貯まっているお金は使い切れずに人生の最期を迎えることになるのです。
きちんと対策しつつ「かけがえのない今」を楽しむ!
このようなことから、本質的であり、かつ、意外な解答が導き出されます。すなわち、「今、お金を使うと、死ぬときに残るお金がその分、減る」というのが本質的な解答です。複利で運用していく場合には、減る金額も複利で大きくはなりますが(重要度のウェート付けを、「今:老後」=「6:4」とすれば)、「今」の価値のほうが「老後」よりも1.5倍大事なわけですから、減る金額が複利で大きくなっても、あまりアンバランスにはならないようなイメージです。
きちんと対策しておけば、死ぬ前にお金が底をつくということはないのです。であれば、「今、お金を使っても、死ぬときに残るお金がその分減るだけ」なのです。それを念頭に置いて、今も大切にしながら老後対策にも充分な意識を向けていきましょう。
しっかりと老後対策をしておいたうえで、40代や50代の「今」も大切にするのです。もっといえば、しっかりと老後対策をしているからこそ、40代や50 代の「今」も大切にできるのです。しっかりと老後対策をしながら、かけがえのない「今」を楽しむために、今のためにもお金を使いましょう。それが正しい「バランス感覚」です。
榊原 正幸
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授