「実名タレコミ」で税務調査の対象に…うらまれる医師の実態

脱税疑惑のある富裕層や企業を調べ、真実を確かめる「税務調査」。遠い他人事のようにも思えますが、普段私たちがお世話になっているクリニックも、調査対象になっているかもしれません。そこで本記事では、みなとみらい税理士法人・髙田一毅税理士の書籍『クリニック税務調査読本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、クリニックの税務調査の全貌を明かします。

「実名タレコミ」には税務署員も耳を傾ける

税務調査のきっかけとなることが多いのは「タレコミ」、すなわち「あのドクターは脱税をしている」という第三者からの通報です。一般的にこのタレコミには、投書や電話、直接税務署に来署するケースなどがあります。これらについて税務署では総務課が対応しています。聞くところによると週に数件はあるようです。

 

たとえばクリニックに不満をもってやめたスタッフ――受付を務めていた従業員や金銭管理を任されていた事務長――の通報が端緒となって税務調査が行われることは珍しくありません。

 

もっとも、世の中には高級車に乗っている、大きな屋敷に住んでいる、年に何度も海外旅行に行っているというだけで通報してくる人もいるわけで、税務署としてもそのような、「妬み」、「嫉み」、「僻み」、あるいは営業妨害を目的としたタレコミにいちいち取りあっていたらきりがありません。そのため、タレコミによって税務調査を実施するか否かに関しては税務署も慎重に判断します。

 

私が承知しているものとしては、匿名の通報、すなわち無記名の投書や名前を名乗らない電話などの場合には、積極的ではありません。聞いたところでは、同一案件について、別人から複数あった場合等に限られるようです。一方、実名でなされた投書や、通報者が税務署に来所するような場合には、その信憑性をよく確認し、提出された資料や内部情報が具体的であれば調査に着手するのです。

 

受付を担当していた元スタッフが、患者氏名と売上除外金額を集計した一覧表を提出するようなケースや、架空人件費に該当するタイムカードのコピーを提出するようなケースなど様々です。

 

中でも信憑性が高いのは「特殊関係者(愛人)」からの情報です。隠し財産の保管状況や家事費を経費化している手口などかなり詳細に知っているからです。別れ方を間違えるとかなりダメージは大きいようです。

 

このような「タレコミ」による実地調査の場合には、まず間違いなく重加算税が課せられ、追徴税額も多額となります。さすがに立ち会う我々税理士もなす術がありません。何せ納税者からまったく知らされていないダークサイドなのですから。

 

「タレコミ」は防ぎようがない
「タレコミ」は防ぎようがない

「抜き打ち調査」の可能性は低いものの…

税務調査と聞くと「抜き打ちで来るのだろうか……」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ほとんどは事前通知のある「予告調査」です。というのも関与税理士の立ち会いが必要となるため日程調整をしなければなりませんし、調査にあたって必要となる資料を揃える時間も確保しなければならないからです。

 

こうした点を考慮すると、税務署としてもやはり事前に予告をしておくほうが調査をスムーズに進めることができます。しかし、「無予告調査」がないわけではありません。無予告調査については、国税庁ホームページに次のように記載されています。

 

「法令の規定に従い、申告内容、過去の調査結果、事業内容などから、事前通知をすると、①違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ、又は、②その他、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断した場合には、事前通知をしないこともあります。なお、事前通知が行われない場合でも、運用上、調査の対象となる税目・課税期間や調査の目的などについては、臨場後速やかに説明することとしています」

 

ちなみにクリニックの話ではありませんが、飲食店や美容院のような現金商売の業種に対しては、無予告調査が行われることは多々あります。私自身、美容院を経営しているクライアントからある朝「いきなり税務署員が税務調査に来た!」との電話があって、あわてて調査現場にかけつけた経験もあります。それと比較するとクリニックにおける無予告調査が行われるケースはごく稀といってよいでしょう。

 

診療科目でいえば、産婦人科や美容外科、矯正歯科のように自費診療収入の多いところが対象となっているようです。しかも、そのきっかけのほとんどはタレコミといわれています。

 

前述のように、クリニックを退職したスタッフが「不妊治療の収入を申告していない」「インプラントの収入を除外している」などと税務署に通報してきたような場合です。したがって通常の場合には、無予告調査を受けることはないと思っていて大丈夫です。実際、私のクライアントで無予告調査を受けたドクターは、今までに一人もいらっしゃいません。

多忙極めるドクターは税務代理権限証書に同意の記載を

それでは、予告調査の場合はどのような形で通知があるのでしょうか。平成26年7月1日以後に行う事前通知については、納税者の事前の同意がある場合には、「税務代理権限証書」を提出している税理士に行えば足りることとされました。ただしこの場合には、税理士が税務署に提出する「税務代理権限証書」に、納税者の方の同意を記載しておく必要があります(同意が記載されていないとドクターにも事前通知をしなくてはならないのです)。

 

そうしておけば、税務署は調査実施の事前通知を、税理士に対して行うことになるのです。多忙を極める診療中にクリニックに事前通知が来ることを考えると「税務代理権限証書」に同意の記載をしておくべきでしょう。

 

「○○税務署・個人課税○○部門の○○ですが、関与されている△△医院の税務調査を実施したいのですが。調査日程は○月○日を予定しています。先方の都合を確認ください」というように、関与税理士に対して事前通知がなされるのです。

 

実地調査を行う場合に税務署は、原則として、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話等により、実地の調査を行う旨、調査を開始する日時・場所や調査の対象となる税目・課税期間、調査の目的などを通知しなくてはなりません。

 

また調査時に複数の調査官が来る場合は、事前通知に際して、調査担当者を代表する者の氏名・所属部署に加え、同行予定人数も通知します。そして、関与税理士を通じて顧問先のクリニックへ税務調査実施の通知があった旨の連絡がなされるのです。

 

たいていの場合、税務署が通知してくる調査日程とスケジュールが合うケースが少ないため、ドクターと税理士で日程調整をして複数候補日をリストアップし、後日、税務署に決定してもらうことになります。

 

「税務代理権限証書」に、納税者の方の同意を記載しておくことですべて関与税理士が対応することができます。後述する調査日のセッティングなどに関しては、あとは税理士と税務署のやりとりに委ねておけばよいだけです。

調査官の「モチベーション」は時期によってムラがある

税務調査に要する日数は、一般的には、個人医院の場合は1日、医療法人の場合は2日となります。ただし事業規模や調査内容によっては、もう1日、2日がプラスされるようなケースもあります。

 

また、調査実施の時期は、大きく分けると「9~12月」と「4~6月」の年2回となります。というのも税務署の事務年度が7~6月であるため、7月10日に事務年度が開始すると各部門において調査先の選定が行われます。それから事前通知が行われるわけですが、7月、8月はクリニックのお盆休みや税務署員の夏休みなどで日程調整が困難であることが多く、あまり調査は実施されません。

 

また1月についても正月や冬休みなどで同様です。2~3月にかけては確定申告時期となるため、所得課税部門は多忙を極めますし、法人課税部門もそのヘルプに駆り出されるため、調査件数は極めて少なくなります。

 

では、「9~12月」と「4~6月」のどちらの時期の調査に留意すべきなのでしょうか。

 

一般的に、課税所得が高い場合や自費診療比率が高い場合、あるいは選定段階において異常値が確認された場合の調査は「9~12月」に実施されます。というのも事務年度前半に実施することで時間をかけて取り組むことができるからです。

 

調査官も新たな事務年度に入って一度リセットされるので力が入っています。特に転任してきた調査官はモチベーションが高いとも言われています。この時期に調査がある場合にはこうした事情を踏まえて臨むことが必要です。

 

一方、「4~6月」に実施される調査は比較的ゆったりとした感じで進められます。中には件数合わせ(税務調査官には年間調査実施件数のノルマがあります)としか思えないような定時調査もあります。絶対とはいえませんが、私の経験上では「9~12月」と比較すると平穏無事な着地となるケースが多いといえます。

税務調査の日はできるだけ「休診日」を選ぶ

では調査日程についてはどのように調整するのでしょうか。これに関しては、誤解されているドクターが多いようですが、税務署が当初通知時に指定してきた日程に必ず合わせなければならないということはありません。反対に都合がつかないケースがほとんどです。というのも税務調査においては、複数の関係者のスケジュール調整が必要となるからです。

 

まず調査対象となるドクター本人、それから調査に立ち会う会計事務所(関与税理士と監査担当者)、さらにクリニックの経理担当者(配偶者、事務長、受付等)、そして税務調査官の日程を調整して決めなくてはならないのです。「不用意に日程を延ばしたりすると、税務署に疑われないだろうか……心証が悪くならないだろうか……」と心配するドクターもいらっしゃいますが、そのようなことは決してありませんので安心してください。

 

とはいえさすがに半年先や1年先に延ばすわけにはいきません。常識的には遅くとも2カ月以内を目安に調整していくことになります。ちなみに、調査日程については当事務所ではできるだけクリニックの休診日に設定するよう指導しています。

 

医療法人の場合、一般的に調査が計2日間行われるので休診日に調査を受ける場合は2週にわたって調査を受けることになります。たとえば、木曜日が休診日であれば、1週目の木曜日と2週目の木曜日といった具合です。またいったん決まった調査日程についても、たとえば、一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむをえない事情が生じた場合などには、変更することが可能です。

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

1965年生まれ。兵庫県出身。
1984年栄光学園高等学校卒業。
1988年上智大学文学部新聞学科卒業。
2002年税理士登録。
2003年神奈川県鎌倉市に髙田会計事務所を開業。
2011年税理士法人化をして神奈川県横浜市西区へ移転。みなとみらい税理士法人髙田会計事務所(東京地方税理士会横浜中央支部所属)となり現在に至る。2016年4月現在、スタッフ総数63名、顧問先総数837件の医科歯科に特化した会計事務所の所長を務め、これまでのクリニック開院サポート実績は600件を超える。

著者紹介

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※本記事の情報は、すべて書籍『クリニック税務調査読本』(幻冬舎MC)刊行当時のものです。最新の内容には対応してない場合がございます。予めご了承ください。

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髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

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