リーマンショック級が来ても「リストラされない人材」
本連載ではこれまで、「自分の差別化」について説明しました。複数のスキルを身に付けることで100人に1人の存在となり、企業にとって魅力的な存在になるのです。ここでは、差別化した自分という商品のマーケットでの価値について考えていきます。
商品の価値は、需要(デマンド)と供給(サプライ)で決まります。市場に供給されている商品の量が欲しいと思っている消費者の需要よりも多ければ、価格が下がります。
その反面、消費者の需要に対して供給量が少なければ商品に希少価値が生まれることで価格は上がります。商品の価値は、マーケットの需要と供給のバランスによって日々変化しているのです。
これは、人材マーケットにおいても同様です。
英語や営業スキルなど、多くの企業に必要とされるスキルを持つ人材の需要は高い傾向にあります。しかし、スワヒリ語や専門的なプログラミング言語など用途が限られるスキルに関しては、一部で高いニーズがある一方で、マーケット全体としては高く求められているスキルではないため、需要はほとんどありません。
供給サイドでは、幼少の頃から英語教育を受けた人材が増えており、またIT企業の台頭により、ITリテラシーの高い人材も増えてきています。それに対して需要サイドではITマーケットやグローバルに活躍する企業も増えているため、相対的に英語やITリテラシーの優秀な人材はともに高い価値を維持しています。
具体的な例を見ながら、人材マーケットの需要と供給について考察してみます。
近年、システム導入、ビジネス再構築、企業統合などのためにコンサルタントを雇用するニーズが高まっています。それを裏づけるように、Big4(PwC・デロイト・EY・KPMG)と呼ばれる総合コンサルティングファームを始めとする大手コンサル各社は積極的に中途社員を採用しています。
結果として、コンサルタントとしての能力がある人材やポテンシャルのある人材に対するニーズが高まっています。好景気と不景気は循環するのが世の常です。そのため、不景気になると企業は投資を控えコンサルタントの起用を控えることになります。そうなった場合、逆にコンサルタントの供給過多になり、採用の抑制や整理解雇等が実施される可能性もゼロではありません。
リーマンショックを発端とする景気後退のあおりを受けて、各社が大量にリストラを実施したのを覚えている方も多いでしょう。大勢の求職者が人材マーケットに流れてきたため、企業としては多くの候補者から欲しい人材を選ぶことができました。マーケットでの価値の低い人材の多くは、結果として年収が大幅ダウンでの転職を余儀なくされたと聞きます。
人材マーケットだけでなく、経済や社会の流れを見極めつつ自分の価値を維持する能力を身に付けることが重要です。
新しいスキルは「3年」あれば身に付く
次に英語で交渉できる営業マンの例を見てみましょう。グローバル化が進み、英語を活用する機会は増え続けています。英語を使える若い人材も増えてはいますが、交渉できるレベルで英語を使いこなせる方はまだ少ないのが実情です。そのため、英語で交渉できる営業マンの価値は今後も高いレベルで維持できるでしょう。
ビジネスに求められるスキルは時代に伴い変化してきました。パソコンが登場する前は、タイプライターを使うのに長けている人が重宝されていました。手書きの台帳が主流だった時代は、丁寧に早く字が書ける人は重宝されていたはずです。
トラックやタクシーのドライバーであれば、地図を読む能力が必須でしたがカーナビの登場により必須能力ではなくなりました。
私たちは、目まぐるしく変化する時代に生きています。昭和には存在していなかったスマートフォンは、平成の人の生き方やビジネスを大きく変えました。令和の時代には、更に大きな変化があるかもしれません。
自動運転、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)による実務の自動化、AI(人工知能)の台頭によりビジネスマンに求められるスキルは変わってくると思います。
時代が変わっても高い価値を維持しマーケットでの優位性を保つためにも、つねに自分のマーケットでの価値を把握しておいてください。
価値に変動があった場合、優位性を高めるためのアクションをとりましょう。3年ほどあれば、新しいスキルを身に付けることもできます。気づいたときに、手遅れにならないようにマーケットでの立ち位置をつねに意識するようにしてください。
新卒の給与は「活気と新しい風への報酬」と考える
新卒で新入社員として企業に入社したばかりの社員の多くは、即戦力と呼ぶには程遠い場合がほとんどです。「仕事ができない」のは、ある意味当たり前なのです。
つい最近まで学生だった新入社員のほとんどは業界未経験、社会人未経験だからです。
それでも、多くの企業は新入社員を継続的に雇用しています。それは、企業にとってメリットがあるからです。
新入社員を投入することで、社内に新しい考えや活気を与えることができます。また継続的に社員を雇用することで、社内の人員構成のバランスを整えると同時に、先輩社員が新入社員の指導を担当するなどのマネージメントを学ぶ育成の機会にもなります。
そのため、新入社員に対しての企業側の期待値は、「社内に活気と新しい風を取り込み、即戦力になるために学ぶこと」を期待されているのです。もちろん、新入社員の年収も企業側の期待値に合わせた設定になっているのは、言うまでもありません。
入社してからの数年間は、仕事ができないのが前提であるため「労働の対価としての報酬」ではなく「活気の対価としての報酬」を貰っている状態ともいえます。しかし、これが許されるのは新入社員や第二新卒の社員だけです。
実務未経験でも「経験者」として認識してもらうには?
本来ビジネスとして仕事をするということは、企業の必要とする労働力を提供し対価としての報酬を得ることを意味します。企業も慈善事業を行なっているわけではない以上、期待を上回る成果を社員に求めるのは当たり前のことです。
特に転職者は、「結果を残す」ことが求められます。そのため多くの候補者の中から選んでもらうには、「やりたい」ではなく「できること」を示すことが必要なのです。
「できること」とは、言い換えると必ず成果を残せるという自信を持つことです。これらは、実際の経験に裏づけられたものでなければなりません。
たとえば、過去に営業職を経験しているのであれば営業の仕事に関しては、「できる」と断言できるはずです。本当に「できる」ことであれば、転職を希望している企業にしっかりとアピールしましょう。しかし、一方でアピールしたからには、それがそのままあなたの仕事に対する期待値になるので注意する必要があります。
やっぱり「できない」では、最悪の場合、試用期間でクビになってしまいます。
最初からすべてを経験した人なんて存在しません。そのため、「やりたい」けど「できない」こともあるはずです。しかし、興味があります!だけでは、採用してもらえません。
新しい仕事にチャレンジするためには、相手に「この人に任せても大丈夫」と感じてもらうことが必要です。未経験でマーケティングにチャレンジしたければ、関連した分野の資格の勉強や積極的にマーケティング部を手伝い、知識と実績を積むことで、経験者として認識してもらうことは十分に可能です。
「できること」を繰り返すことは、非常に楽なことです。経験もあれば、たとえイレギュラーが発生したとしても深く考えずに対応できることでしょう。
しかしキャリアや仕事の幅を広げるためには、同じことを何年も何年も繰り返しているだけではダメです。やり方を変える、他のチームと連携する、新しいことを始めるなど自分自身が居心地の良い領域(コンフォートゾーン)の外に踏み出す勇気が必要です。
「やりたいこと」を見つけて「できること」を少しずつ増やしていきましょう。そうすれば、「やりたいこと」をすべて「できること」に変えることができるはずです。