キャリアやスキルの「分散投資」はやめよう
どんなに優秀なマネージャーやベテラン社員であっても誰もが最初からトッププレーヤーだったわけではありません。当然、下積み時代を過ごした結果として現在のポジションにいるのです。
「石の上にも三年」という言葉があるように、プロになるには1万時間かかると言われます。一般的な企業で考えると、8時間勤務×250営業日×5年=10,000時間になります。
実際に入社5年目の社員は中堅社員と呼ばれ、業務の中核を担っています。この5年は、あくまでも目安です。業務量が多い場合や個人で仕事に関する勉強等をしている場合は、5年より早く一人前になることもあります。
転職市場でも、3~5年目の社員で同じ業界・業種であれば経験者としてより良い待遇で迎えられる可能性が高いのが現状です。
まずは、「特定の領域」で1万時間を消費することを考えましょう。さまざまなことに手を出すと、キャリアやスキルの分散投資になってしまいます。これは、非常に効率の悪い投資です。
たとえば、5年間で英語をしっかりと学びビジネスで英語を使えるレベルになったAさんと、5年間で英語、中国語、フランス語を初級程度使えるようになったBさんのどちらのほうのマーケットバリューが高いでしょうか? 明らかに英語をビジネスレベルで使えるAさんです。
時間の使い方ひとつでマーケットでのあなたの価値は大きく変わるのです。
まず投資すべきは「自分の仕事に直結する」スキル
ビジネスマンは、つねに多忙です。仕事、家庭、つきあいなど時間がいくらあっても足りません。「貴重な時間を何に投資して何に投資しないのか?」を見極め、選択と集中をすることが非常に重要です。
自分のキャリアに不安を持った方が、とりあえず英語や簿記に手を出したとしても、英語を使った仕事をやらない場合や経理に関する仕事をしない場合は、せっかく身に付けた知識も宝の持ち腐れになってしまいます。
まず投資すべきなのは、自分の仕事に直結するスキルです。営業であれば、コミュニケーションやプレゼンテーションスキルを磨くのも良い選択肢でしょう。もしくは、営業に必要な専門知識を学ぶことも売上を伸ばす大きな武器となります。
学んだスキルを使い込むことで、学んだ知識があなたの本当のスキルとなり体に染みついてきます。
しかし、座学知識だけで1万時間を達成するのは、至難の業です。それでは、業務と関連したスキルの場合はどうでしょう? OJT(on the jobtraining)により、職場で働きながら経験値を効率よく積むことで1万時間の領域に素早く到達することが可能です。
また取得できる経験値は、一つだけとは限りません。たとえば、英語でプレゼンテーションスキルのトレーニングをすることでそれぞれの経験値を同時に得ることができます。
このように必要な経験値を早く学ぶことにより、仕事の効率も上がり、空いた時間で更に学ぶことができる非常に良い循環を生むことができます。私の知る限り、成功している方の多くは早い段階でこの事実に気がつき、意図的にこの好循環の波に乗り成長を加速させています。
今、あなたがキャリアアップのために学ぼうとしているスキルは、現在の仕事にすぐに活かせるスキルですか? もしそうでないなら、仕事に関連するスキルに変更することをお勧めします。もしくは、スキルを身に付けるためのポジションに異動することを考えましょう。
知識のインプットと実践でのアウトプットを何度も繰り返すことです。それが自分自身のビジネスパーソンとしての戦闘力とマーケットバリューを高める近道になります。
一流と呼ばれるスポーツ選手や職人は「技術を盗む」
学校を始めとする教育システムが世界的に確立してきたのは、ここ100~200年のことです。教育システムの発展と共に経営のプロ、料理のプロ、教育のプロ、医療のプロなど様々な分野でのプロフェッショナルを短期的に育成することが可能になりました。
これらの教育システムの特徴は、ある一定レベルまでプロフェッショナルを育成することを目的としており、プロフェッショナルの頂点である一流を育成することを目的とはしていないことです。
そもそも一流の定義は、一つではありません。それぞれのプロフェッショナルが目指す方向性によって、必要な技能やスタイルが異なるのです。
スポーツ選手や料理人が良い例です。一定の基礎に関しては、クラブや学校等で習得します。しかし、基礎習得後は、プロフェッショナルとして個性を伸ばし一流を目指して日々精進していくのです。
技能レベルの高い集団の中で、更なる高みを目指すために一流と呼ばれるスポーツ選手や職人は、自分と先輩や師匠との僅わずかな差を埋めるための努力を繰り返しています。
その最も有効な方法の一つが「技術を盗む」ことです。
伝統工芸の世界では、体系的に教育を行なうのではなく師匠に弟子入りして師匠の仕事を何度も繰り返し見ることで技術を習得するといいます。
特に技術が必要な作業に関しては、工程ごとの得意、不得意によって各職人の技術力にバラツキがあります。その場合は、最も優れた技術を持つ職人を基準にし自分の技能を高めていくことにより理想に少しずつ近づけていくのです。
反面教師の失敗を通じて「将来の自分の行動」を正す
ビジネスの世界においても同様のことがいえます。
プレゼンテーションやファシリテーションを始め、営業でのセールストークやクロージングなど日々の業務のなかでも他の社員と比べて優秀と思える人は周りにいるはずです。
会社の社長やトップの営業であったとしても、自分よりも優れているスキルを持った方は必ずいます。つねに謙虚に新しいことを学ぶ姿勢を持つことは、学問の基本であると同時に成長し続けるためには紛れもなく必要な考え方です。
このように自分の周りにいる人の優れた側面に注目するのが最も健全な考え方ですが、一方で能力の低い上司と仕事をすることもあると思います。その際は、その方がなぜそのポジションにいるのかを考えてみるといいです。
役職が与えられている以上は、あなたの見えていないところで、何か評価されるポイントが必ずあるはずです。そこにあなたの成長のヒントがあるかもしれません。
また、反面教師として、その上司を活用することもできます。反面教師の失敗を通じて、将来の自分の行動を正すことができれば「優れた人を真似る」のと同じ効果を得ることができます。「私だったら……」という視点を持ち続けてください。
プロフェッショナルから一流のプロフェッショナルになる方法は、日々の成長と進化を繰り返すしかありません。他のプロフェッショナルの優れた要素を吸収し、反面教師を活用して未来の自分の行動を律し、自分自身を強化することで理想の自分に近づいていくことができます。
理想の自分に近づけば、職場での高い評価を得ることに繋がっていきます。ぜひ、理想の自分を手に入れてください。