富裕層のため、金融資産のみならず、事業再構築・事業承継についても投資政策書を立案し、長期的に実行を助ける専門家のことを「プライベートバンカー」といいます。本来彼らは、資産1億円以上の資産家をメインターゲットにして事業を展開していますが、高齢化や人口減少に伴い、純金融資産が5,000万円超から1億円未満の「マス富裕層」にも着目し始めました。岸田康雄公認会計士/税理士が解説します。

1:プライベートバンカーが「マス富裕層」にする助言

マス富裕層の課題は、資産形成期と資産保全期にわけて考えることが求められる。マス富裕層の場合、資産形成期で成功していれば、資産保全期で大きな問題に直面することはない。老後資金を十分に蓄え、財産承継についても暦年贈与で済んでしまうからである。

 

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資産形成期にあるマス富裕層には、リスク・マネジメントのソリューションが必要だ。これは、リスクの発生を防止するリスク・コントロールと、リスクが顕在化したときの損害補償をするリスク・ファイナンスの2つの方法がある。

 

個人のリスク・コントロールの観点からは、安定的なキャッシュ・フローを生み出す心身の健康管理が最重要となる。また、生涯学習を通じた継続的な能力の鍛錬も必要である。さらに、身に付けた能力を必要とし、喜んで報酬を支払う顧客を提供してくれる人脈の開発・維持も欠かせない。

 

一方、リスク・ファイナンスの観点からは、資産形成の途中で、病気やケガによって働けなくなった場合に備えた「生命保険」への加入が必要となる。また、引退したあとの生活費の不足を考え、老後資金の貯蓄も忘れてはならない。

 

マス富裕層に対するプライベートバンキングでは、リスク・マネジメントの観点からヒアリングすることで、効率のよい現状把握と適切な提案が可能となる。プライベートバンカーがリスク・コントロールに係る項目について話せば、マス富裕層は、金融面だけでなく包括的なアドバイスを提供されていると感じ、良好な関係を築くことができるだろう。

2:「強制貯蓄」と「定時定額投資」をする

地方銀行や信用金庫等にとっては、資産形成期にあるマス富裕層に特化した営業戦略は有効であろう。特に、地方銀行の大口預金者は、そのほとんどが高齢者であるため、相続をきっかけに預金が次々と消えていくことになる(地場証券会社の預り資産も次々と流出する)。なぜなら、相続人である子供たちの多くが大都市圏で働き、すでに大手金融機関と取引を開始しているからである。

 

こうしたリスクを回避するためには、大都市で働く次世代も絡めた相続税対策に、重点的に取り組む必要がある。

 

インカムリッチ・プロフェッショナルのマス富裕層は、小規模企業の経営者であっても、実態は個人事業主と同じで、自ら働いて稼いでいる。したがって、何らかの事情で収入が減ったとき、生活水準を下げなければならないことを心配している。しかし、個人のキャッシュ・フローが大きく変動しても、十分な金融資産を蓄積していれば、このような心配は必要ない。

 

インカムリッチ・プロフェッショナルのマス富裕層が資産形成をするには、強制貯蓄と定時定額投資の仕組みを利用するとよい。すなわち、毎月の給与口座(銀行の普通預金)から自動引落しで資金を投資口座に振り替え、運用元本を形成する。毎月一定額が強制貯蓄されていくことから、銀行口座の残高が減り、不要な支出を抑制することができる。また、定時定額投資は、「ドルコスト平均法」による経済効果を生み出すものである。

3:「非課税貯蓄制度」を活用する

代表的な非課税貯蓄制度として、個人型確定拠出年金と、小規模企業共済がある。これらは、課税の繰延べによる節税効果を目的として設計されている。つまり、現役のときの給与所得ではなく、退職所得の一時金や老齢年金として受け取ることによって、所得税負担を軽減させることができる。

 

個人型の確定拠出年金制度には2つのタイプがある。1つは、確定給付型年金制度のない雇用労働者(国民年金の第2号被保険者)が月額上限23,000円まで入ることのできるタイプである。もう1つは、基礎年金しかない個人事業主が月額上限68,000円まで入ることのできるものである。

 

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いずれも、月額の掛金は所得控除の対象となり、運用から発生したキャピタル・ゲインは非課税となる。ただし、将来の受取りの際に、繰り延べていた所得やキャピタル・ゲインに所得税が課される。これらは、中途解約ができないという制約があるものの、一時金の退職所得、公的年金等の雑所得となることによって、税負担軽減の効果がある。

 

インカムリッチ・プロフェッショナルのマス富裕層には、この程度の少額な積立ては無意味に感じられるかもしれない。プライベートバンカーは、この分野から「定時定額投資」に馴染んでもらえるよう、税制上のメリットを絡めて上手に説明することが求められる。

 

これに対して、小規模企業共済とは、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業なら5人以下)の個人事業主および会社役員が、将来の退職金として受け取ることを目的に、掛金を非課税で積み立て、運用することができる制度である。これを利用すれば、月額掛金が最低1,000円から最高70,000円まで所得控除の対象とすることができる。

 

配偶者である役員も利用できるため、この制度と個人型確定拠出年金の両制度を毎月限度額まで夫婦で併用すれば、1年間で最大約331万円(=(68,000円+70,000円)×夫婦2人×12ヵ月)を所得控除の対象とすることができる。小規模企業共済金の受取りは、退職一時金、または10年~15年の老齢年金となるため、所得税負担を軽減させることができる。

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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