※本記事は、2019年10月3日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

個人投資家が抱く大きな悩みの1つが「銘柄選び」。値上がりが期待できると思って割安株のランキングを用いる人も少なくありませんが、安易な利用は危険かも。

どのような銘柄なら割安なのか?

ここ最近、割安株の株価上昇が目立つようになってきました。割安株とは何か、を定義すると、「企業が有する価値(企業価値)と比べて株価が割安に放置されている銘柄」となります。

 

この企業価値と株価の関係を表した代表的な指標として、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、配当利回りといったものがあります。

 

PERやPBRであれば低ければ低いほど割安、配当利回りについては高ければ高いほど割安、という判断になります。

 

実際にはそんなに単純な話ではありませんので、別の機会に、各指標ごとの使用上の注意点をお伝えしたいと思いますが、原則論としていえば、上記のとおりです。

ランキング上位の銘柄の特徴とは?

インターネットの投資情報サイトなどでは、低PER、低PBR、高配当利回りといった銘柄のランキングが掲載されています。このランキングの上位に掲載されている銘柄は「割安株」だからと、片っぱしから買っていく個人投資家もいるようです。

 

しかし、そうした割安株ランキング上位の銘柄は、実際には割安でないことが多いです。その主な理由が「イレギュラー」です。

 

例えば、土地売却、株式売却などにより一時的に多額な利益の計上が見込まれている銘柄については、PERがかなり低くなりますが、それは特殊要因により見た目上、低くなっているだけです。特殊要因を除いてPERを計算しなおすと割安ではなかった、というケースが多々あります。

 

また、確かに当期は業績が好調で多額の利益が見込まれているものの、来期以降は伸び悩む予想になっている場合も、PERがかなり低くなります。これも、当期予想ベースの利益でPERが計算されているのが原因なので、来期以降の予想利益に置き直してPERを再計算し、本当に割安なのかを確かめる必要があります。

 

ランキング上位だからといって割安だと飛びつくのではなく、会社四季報や決算短信などをチェックして、特殊要因でPERなどが低くなっているのではないか、来期以降の業績が悪化する予想になっていないかなど、しっかりと確認するようにしてください。

予想値ではなく実績値のランキングではないか要確認

ランキングの中には、予想値ではなく実績値を用いているのもあるので注意が必要です。PBRについては実績値でいいのですが、PERや配当利回りを実績値でランキングしても、あまり意味がありません。あくまでも株価は将来予想される業績や配当金をもとに形成されるからです。すでに過ぎた結果については、基本的に株価には影響しません。

 

例えば、前期の業績が良かったものの、当期以降の業績が悪化することが予想されている銘柄の場合、前期の好業績をもとに計算したPERは、当期の予想をもとに計算したPERよりも低くなります。でも、投資家が見ているのは、すでに終わった前期の業績ではなく、当期以降の業績です。

 

前期の実績をベースにしたPERを見て、割安かどうか判断したとしても、他の投資家はその実績PERを銘柄選定の際の参考にしていないため、無意味になってしまうのです。

 

配当金についても、例えば前期に記念配当や特別配当があったり、業績悪化により当期以降の配当が減らされると予想されていたりする場合、前期ベースの配当利回りを使っても意味がありません。当期予想ベースの配当利回りで判断するようにしましょう。

そもそも割安でも株価が上昇するかどうかは別の話

そして、ランキング上位に掲載されている銘柄が本当に割安だったとしても、非常に重要な点があります。それは、「株価が割安でも、今後の株価が上昇するかどうかは分からない」ということです。

 

個人投資家の中には、株価が割安なら、今後、必ず株価が上昇する、と思っている方も少なくないようです。でもその考え方は正しくありません。

 

株価が上昇するのは、「買い手が売り手より多いから」です。例えば日経平均株価に新規に採用される銘柄の株価が上昇することがありますが、その理由は日経平均株価に採用されることで割安度が増すから、という理由ではありません。日経平均株価に連動する投資信託やETF(上場投資信託)を経由した買いの需要が増すからです。

 

確かに、株価が割安であれば、その銘柄を買いたいと思う投資家はいるでしょう。でも、日本株の最大のシェアを誇る外国人投資家や、投資信託を運用するファンドマネージャーが割安株にはあまり関心がなく、逆に成長株に関心があるならば、割安株に対する買い需要は膨らみません。

 

その結果、割安株が割安なまま放置されてしまったのが、2013年後半以降の日本株なのです。

割安株の上昇を待ち伏せするのではなく…

投資戦略として、割安株を買って、それが正当に評価されるまで何年も待ち続ける、というものがあります。この戦略自体は間違いではないと思いますが、投資資金に限りのある個人投資家にはあまり向いていません。

 

現に、2013年後半以降続いた成長株優位の相場環境では、成長株へ投資していれば大きな利益を得ることができた半面、割安株に投資してじっと我慢していた投資家の多くは利益を得ることができなかったからです。

 

もちろん、足元の日本株のように割安株が買われる環境もありますし、実際に過去には成長株よりも割安株が優位な展開が何年も続いたこともあります。

 

したがって、割安株を買って、それが上昇するのを待つのではなく、割安株の株価が上昇を始めて上昇トレンドになってから買う、言い換えれば株価が動き始めてから買った方が、資金効率の面から見てはるかに有利だと思います。

 

 

足立 武志

足立公認会計士事務所

 

※本記事は、2019年10月3日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

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