少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、会社の事業承継で頭を抱える経営者が増えています。一方、事業承継の方法として年々増加傾向にあるのが、M&Aです。本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。今回は、跡継ぎを探す方法について解説します。

中小企業の「後継者不足」…その理由とは?

日本の企業の約7割は後継者不在という深刻な状況になっています。その原因はなんなのでしょうか?

 

まずそもそも「跡継ぎとなる人がいない」という状況に陥っている企業があります。中小企業の多くの経営者は、自分の子どもや親族に跡継ぎになってほしいと考えるもの。しかし、跡継ぎになってほしい子どもが実は、跡継ぎとなる意思がないのも珍しい話ではありません。

 

勤めている会社で出世したり、親が経営している会社とはまったく違う業界にいたり、そもそも親がやっている事業に興味がなかったりなどの理由があげられます。

 

次に「跡継ぎ候補の経営能力がない」という状況の企業もあります。今まで数十年もがんばって育ってきた会社を、経営能力がない子どもが引き継ぐのはなかなか難しいでしょう。

 

さらに、現在展開している「事業の将来性がない」という企業もあります。子どもに跡継ぎの意思があり、さらに経営能力もある。しかし現経営者が起業したころに人気のある事業でも、現在は人気がなくなり、このまま引き継いでも将来性がない、というケースです。

 

各業界が再編・合併が進んでいる中で、これからも生き延びていくために、事業の見直しや新規事業も検討する必要があります。

 

帝国データバンクの調査によると、子どもや配偶者への事業承継は減少傾向で、M&Aを活用するなど、非同族者への承継が増えています。つまり、跡継ぎ問題の解決法の選択肢は増えているといえるのです。

 

出所:帝国データバンク
[図表1]全国後継者不在企業動向調査(2018) 出所:帝国データバンク

中小企業の「跡継ぎを探す」3つの方法

跡継ぎがいない場合、どのように承継者を探せばいいのでしょうか。その方法は、大きく3つあります。まず1つ目が「現会社役員から跡継ぎの適任者を探す」という方法です。会社の役員が承継する場合を、マネジメント・バイアウト(MBO)といいます。

 

MBOには、何といっても「会社の事業を熟知している」「経営能力があることを把握できている」「短期間での引き継ぎができる」「社員・クライアントなどからの不満を回避できる」などの利点があります。何といっても、信頼を寄せる人材に会社を任せられる安心感が、一番のメリットだといえるでしょう。

 

一方、MBOの課題はファイナンスです。中小企業でも数千万円から億単位まで評価が出る会社は多く、役員とはいえ、そのファイナンスを用意することはなかなか難しいでしょう。たとえ会社を買うファイナンスの用意ができたとしても、今の会社の連帯保証まで引き継げない場合があります。

 

課題を解決する方法には、金融機関などから資金を集め、非上場会社を引き継ぐ役員をサポートするPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)や事業承継ファンドなどの利用が考えられます。

 

後継者探しの2つ目の方法が「M&A」です。衆議院調査局経済産業調査室の調査では、3割以上の人は「M&Aは事業承継対策として有効な手段」と前向きに考えている結果が出ています。

 

出所:衆議院調査局経済産業調査室
[図表2]最近の企業動向等に関する実態調査 出所:衆議院調査局経済産業調査室

 

また、中小企業庁の調査では、「事業承継を背景にM&Aを実施した企業は生産性が高い」というデータも出ています。

 

出所:中小企業庁
中小企業白書・小規模企業白書概要(2018年版) 出所:中小企業庁

 

後継者探しの3つ目の方法が、「求人サイト」の利用です。インターネットで「跡継ぎ求人」などと検索すると、様々な求人サイトが出てきます。

 

求人の項目できちんと「後継者」と明記すれば、応募する人はきちんと会社を継ぐ意識を持って応募してくるので、いい人材を見つけられる可能性があります。

 

一方でまったく知らない人への承継を検討するので、候補者の評価に時間がかかることが考えられます。信頼関係の構築にも時間がかかるでしょう。

 

この求人サイトの利用には、ポイントが2つあります。まず「余裕を持って求人を行うこと」が大切です。

 

60歳を超えてから事業承継を考える経営者が多いようですが、求人サイトを利用しても事業承継には時間がかかります。承継候補者と一緒に仕事をしながら事業や経営のノウハウを教えたり、部下との関係を作ったり、クライアントに跡継ぎとして紹介したりなど、スムーズに会社を承継するには、少しずつ引継ぎに向けて対応することが重要なのです。

 

もう1つのポイントが「無理して跡継ぎを作らない」ことです。候補者を選出しても、安心して会社を任せられないと感じたら、無理して会社を引き継ぐ必要はありません。自分の会社とはいえ、社員に対して責任があります。自分が引退したあとにも今の社員が安心して働ける環境作りが肝心なのです。候補者への承継に少しでも不安を感じたら、社員たちのためにもやめるべきです。

 

 ◆まとめ 

事業承継で後継者がいないという問題は、今の日本において非常に深刻な状況です。また、少子高齢化問題により、個人消費が減り、業界の再編・合併も進んでいるなか、事業の将来性、そのものも考えなければならないでしょう。

 

会社の将来も見据えて、後継者問題を考えるべきだといえるのではないでしょうか。

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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