金融庁による「老後資金として2000万円必要」とも読める報告書により、年金制度の危うさに改めて注目が集まった。本報告は、国民に資産形成の自助努力を求めており、その対策としてあげられるのが、つみたてNISA、企業型確定拠出年金(企業型DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)の活用である。本記事では、2018年5月より開始した中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)について解説する。

個人型確定拠出年金「iDeCo」の掛け金設定が柔軟に?

厚生労働省は、中小企業の従業員による、個人型iDeCoの利用を促したいと考えているようです。


具体的な方法として、iDeCo加入の際に企業が掛け金を上乗せできる制度の改善、掛け金の金額設定の自由度の向上を検討しているようです。この背景には、少子高齢化に伴う、公的年金の先細りへの懸念があります。


厚生労働省としては、個人が資産形成に取り組みやすくしたいという想いがあるのだと思います。

 

◆「iDeCo+」(イデコプラス)とは?


「中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)」という制度があります。本来、iDeCoへのお金は本人しか拠出できませんが、iDeCo+を使うことで、企業が掛け金の一部を負担することができるのです。


※筆者個人の考えですが、企業が従業員に給与を支払い、そのなかから個人がiDeCoにお金を出すのと、企業が従業員に給与を支払う前にiDeCoにお金を回すのは、本質的なところではお金の総額が変化していない気がします。ただ、より強制的に認知的なエラーを避けつつ、資産形成を進めるのには適していると思います。また企業側には、拠出額を損金扱いできる利点もあるようです。

 

企業が掛け金の一部を負担する「iDeCo+」
企業が掛け金の一部を負担する「iDeCo+」

 

◆iDeCo+で出せる拠出額の上限はいくら?


iDeCoおよびiDeCo+で企業年金がない会社の社員は、月5千円~2.3万円を拠出できます。iDeCo+の場合は、この金額内で企業と従業員が積み立てるわけですね。

 

◆iDeCo+に加入している人はどれくらい?


以下の図表は、iDeCo+やiDeCoなど主な私的年金の違いをまとめたものです。

 

[図表]私的年金の違い
[図表]私的年金の違い

 

特徴としては、企業型確定拠出年金の加入者数が719万人と突出しています。iDeCoとつみたてNISAにいたっては、100万人より少し多い程度です。この100万人という数字、多いと思いますか? それとも少ないと思いますか?


筆者は「少ない、というか少なすぎる」と思います。加入できる人の比率でいうと、ざっくり100人に1人程度の割合だからです。つまり、とてもオーバーにいうと、100人のうち99%くらいの人は、合理的な資産形成の制度を利用していない可能性がある、ということです。


資産形成はこれからの時代、長い老後を生き抜くための必修科目だと感じていますが……。

「iDeCo+」は掛け金設定が固い?

一方、iDeCo+のほうは、加入者数が1万人以下の4527人となっています(2019年7月末時点)。まだできたばかりの制度なので、認知度も低いのですね。そして、掛け金の設定の自由度が低い、という問題もあるようです。


2019年9月時点では、iDeCo+の掛け金設定は、原則として「従業員一律に拠出金の額を設定する」という仕組みです。そのため、なかには「掛け金が低すぎる」ケースもあるかもしれません。今後は、より柔軟な掛け金の設定へと変更されていく可能性があります。

 

◆つみたてNISAとの二刀流で資産形成を考える選択肢も


また、会社員の場合、iDeCoにせよiDeCo+にせよ、限度額が多い人でも2.3万円と低いです。そのままでは、資産形成が不十分になる可能性があります。


つみたてNISAと併用すれば、つみたてNISA分の3.3万円程度を追加で積み立て投資することが可能です。老後の資産形成が大切なことが分かっている人は、iDeCoとつみたてNISAとの二刀流を考えてみることも重要ではないでしょうか。
 

 

佐々木 裕平

金融教育研究所 代表

 

本連載は、「金融教育研究所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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