「賃貸借契約成立」までには意外に長い時間がかかる
相続税対策を行う上で、決断する時期は非常に重要です。タイミングが合わないと、「せっかく対策を行ったのに効果はゼロ」ということもありえます。
連載第2回からご紹介しているAさんのケースでは、信頼できる建設会社からの提案であり、実際に賃貸マンションを建設することになりました。Aさんはそのとき、御年75歳。旦那様には先立たれていたため、お子さま2人が相続人になる予定でした。
相続税を納税した上で、先祖伝来の土地を子どもたちにしっかり受け継いでもらえるか、とても心配していたAさんですが、賃貸マンション建築により、問題解決の目処が立ったため、ようやく安心できたご様子でした。
ところがここで、思わぬ事態が発生しました。マンション竣工の直前に、Aさんが脳溢血で急死してしまったのです。
賃貸用建物の節税効果が発揮されるのは、実際に賃貸事業が始まった後のことです。相続開始までに建物が引き渡されるだけでなく、実際に入居者との「賃貸借契約が成立」していなければ、各種の節税効果は生まれません。
つまり被相続人の年齢や健康状態が、相続税対策を行うタイミングを考える上で、重要な要素となるのです。
Aさんのケースでは、賃貸マンション建設の最中に亡くなったため、期待した節税効果を得ることはできませんでした。建物はその後、無事に完成し、遺族は家賃収入を得ているものの、肝心の相続税対策には、まったく寄与しなかったのです。対策は適切だったのに、取りかかる時期が遅すぎたことは、なんとも残念でなりません。
Aさんが相続税対策を考え始めてから、賃貸マンションが完成するまでには、約2年の歳月がかかりました。貸家の取り壊しが必要だったため、借家人の退去など、解決に時間を要する問題が、意外に多く発生したことが原因でした。
古くから保有している不動産では、たいていは同じようにいくつかの問題を抱えているものです。有効活用したい土地に貸家が建っていれば、立ち退き交渉が必要です。古くから住んでいる借家人には高齢者も多く、「退去にあたって資金援助するから」など、かなり有利な条件を示しても、なかなか立ち退いてもらえないこともあります。
このように、「賃貸借契約成立」までには意外に長い年月を要するのです。期間の目安は次のようになります。
<3~6カ月>
●現在の建物に入居者があれば、明け渡し交渉
<3~4カ月>
●建物の取り壊し
●役所への申請
●許可
●融資審査
●建設会社との打ち合わせ
<4~6カ月>
●建築着工~竣工
<2~3カ月>
●入居者の募集~入居開始
個別の事情にもよりますが、地主の方が意思決定されてから、節税効果が生まれるまでには、平均して2~3年は必要です。慎重な検討は必要ですが、タイミングを逸しては相続税の節減という結果は得られないことになりますので、被相続人の年齢、健康状態などを見据えて、取りかかるタイミングを決める必要があります。
建物の「名義」を検討することで、さらなる節税効果も
賃貸住宅建築による節税には、効果が出るまでには一定の期間がかかることを説明しました。節税のツボも「土地の評価額を下げること」と「負債を作って相続財産の総額を減らすこと」にあります。
被相続人が高齢で、建築から相続発生までそれほど時間が経過しない場合には、この両方の効果が最大限に発揮されます。
しかし、いつ相続が発生するかは誰も正確に予測できません。だからこそ相続税対策が必要なくらいの不動産を保有されている被相続人の方は、早めに対策の検討をされるべきでしょう。そして、建物の「名義」を検討することにより、さらに適切な効果が得られる工夫を加えるべきです。まだ相続は先だろうと何もしないでいると、突然の相続にまったく対応できないということになります。
一定の規模以上の場合は、建築する建物を法人名義にするということもあります。相続税対策だけでなく、不動産収入による所得税負担への対策もあります。両方に節税効果が得られる方法の選択もできるのです。
不動産は、相続税対策の対象であるとともに、収益をもたらし家族の生活を豊かにしてくれる大切な財産です。放置せず活かし方を積極的に考えましょう。