相続財産の所有者である「父や母の意思」が最優先
相続財産の分け方を決めるとき、まず優先されることはなんでしょう?
「民法で決められている通りの分け方が基本なので、まずその通りに分けるべき」と信じている方が多いのですが、実はこれは間違いです。第一に優先されるのは、相続財産の所有者である父や母の意思なのです。遺言書はその意思が明確に伝わるよう作成されるものです。
もし遺言書が作成されていない場合には、相続人の間で遺産の分け方について、話し合うことになります。これを「遺産分割協議」といいます。この協議がなかなかまとまらないときに、民法で定められている「法定相続分」という規定に従うことになっています。
おさらいすると、分け方を決める方法の優先順位は「被相続人の意思(遺言書など)」→「相続人の協議」→「法定相続」という順番です。
このように、ルールがしっかり決まっているにもかかわらず、相続の問題は本当に複雑です。人が暮らしていくなかには、相続を難しくする要素が、実にたくさん隠れているためです。
相続のことを考えるのに「早すぎる」ということはない
両親の住居や事業を営んでいる不動産など、一概に経済的な価値だけで分けきれない財産がある一方、相続人にはそれぞれの生活状況や将来的な計画など、多様な事情があります。
生家を離れて遠隔地で生活の基盤を築いている子どもに、管理の手間がかかる不動産を遺しても、運営に困るでしょう。そんなときには地元に住む他の相続人に遺すか、適切な相続人がいないときは、思い切って売却するという選択肢も考えてみるべきです。
また、不動産ではないのですが会社を経営されているオーナー社長が、会社の後継予定者以外の子ども・孫に自社の株を譲渡する例もよく見かけます。「配当金を多くの親族に分け与えてやりたい」という気持ちがあってのことでしょう。
しかしながらその後に起きるかもしれない問題を考えると、子どもたちにとって本当に歓迎すべきやり方かどうか、は疑問が残るところです。
相続対策は、思いつきで時々行うのでなく、一度財産の棚卸しをして計画的に進めていくべきものです。そのためには相続の発生が想定される時期の10年、15年前から、お正月やお盆など家族が集ういろいろな機会をとらえて、みんなで話し合っておくのがおすすめです。
相続のことを考えるのに、「早すぎる」ということはありません。特に不動産という財産の相続には、専門家のアドバイスを受けながら、しっかりと検討する時間的余裕のあるうちに方針を出しておくべきです。これこそが結果として、大切な財産を価値ある形で次世代に引き継ぐことができる最善の相続対策といえるでしょう。