相続対策において、低収益の不動産をいつまでも保有しておくことは得策ではありません。今回は、低収益の不動産を早期に売却すべき理由を見ていきます。

不動産の売却資金を老後の生活資金等に活用

収益が低いのにコストばかりかかる不動産は、保有していてもあまり意味はありません。思い切って売却することを考えてはいかがでしょう?

 

家賃を下げても空室が埋まらないマンションや契約台数が少ないのに固定資産税が高い青空駐車場など、コストが収入に見合わない物件は数多く見受けられます。少子高齢化が進み、景気の低迷が続く中、経営努力でこういった収益の悪循環を改善することは非常に困難です。

 

売却してしまえば、コスト負担から解放され、手元には資金が残ります。じり貧状態を続けるより、仕切り直して資金を有効利用する方がよほど簡単です。

 

もちろん、多くの方が心配する通り、大きな不動産の売却は、なかなか思った通りに事が運ぶものではありません。たまたま求めている買い手がいるかどうか、という市場の事情に左右されることが多く、いわゆる土地の「時価」に比べ、相当低い売却価額になることも想定しなければなりません。

 

譲渡に関わる税金が課税される上に手数料もとられますから、手取額が思っていたよりずいぶん少ない、ということもあるでしょう。

 

たとえば、お持ちの土地が5000万円で売れたとしても、手取額は下記図表のように4000万円を下回ってしまいます。ずいぶん損をしたような気がするかもしれません。

 

[図表]低収益不動産の売却資産

 

とはいえ、少ないながらも残った手取額は、相続税の納税資金や老後の生活資金にあてることができます。また相続税の対象となる財産が減ることになり、相続税の負担が減る、という効果もあります。

 

「収益の上がらない不動産を抱え込んでいる方が得」という理由はほとんどないのです。

売買を有利に進めるためにも売却は「早期」に実施

こういったことをしっかり説明して、ご理解いただいても、「それならすぐに売却しよう」とお考えになる方はあまり多くありません。

 

不動産の価格は時期によって上下するため、いつ売ればいいのか、迷う方の方が多数派です。売り時についてはさらに「相続の後と前では、どちらがいいの?」というご質問もよくいただきます。

 

実はこのことについての答えはハッキリしています。売却価額が同じなら、相続前に売却する方が納税負担を縮小できるため、かなり有利なのです。

 

特に相続発生までそれほど時間がない、と思えるときには、「これからまだ上がるかも」などと先々の価格の変動を考えても、あまり意味はありません。それよりも税金面でのメリットを中心に、売却計画を練る方が賢明です。

 

さらに売買の駆け引きという面でも、相続後は不利になります。相続税の納付期限は、相続発生後10カ月以内と定められています。相続した不動産を売却して納税資金を作らなければならないときには「なんとか10カ月以内に、物件を売って代金を入手しなければ」という焦りにかられます。

 

不動産は売り急ぐと、買いたたかれることが多いので、買い手との交渉はそれだけ不利になってしまいます。できるだけ有利に売却するためにも、収益の悪い不動産は、早期に思い切って売却する方が得策なのです。

 

迷いがある方は、「先祖代々の土地を失っては申し訳が立たない」と考えるよりも、「形を変えて、子孫が活用していくのだ」と考えてみてはいかがでしょう?

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『家族と会社を守る「不動産」「自社株」の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

家族と会社を守る 「不動産」「自社株」の相続対策

家族と会社を守る 「不動産」「自社株」の相続対策

貝原 富美子・澤田 美智

幻冬舎メディアコンサルティング

相続において、トラブルになりやすい二大財産である「不動産」と「自社株」。 税理士として長年、不動産・自社株の相続を専門的に解決してきた著者だからこそいえる、実際にあった事例を交えわかりやすく解決策を提示します…

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