長男が相続するのが当たり前だった「父親の財産」
財産をめぐり、それまで仲の良かった兄弟姉妹が激しく争うことに……悲しいことですが、相続ではこんなトラブルが当たり前のように発生してしまいます。
先祖代々受け継がれてきた土地や両親が築き上げた事業など、子どもや孫の幸せにつながる、と信じて守ってきた財産が家族の絆を壊してしまう悲劇を、私たちは数多く見てきました。こういったトラブルはある意味、「起こるべくして起きている」ともいえます。
「仲良く幸せに……」という親の思いとは裏腹に、成人した子どもたちにはそれぞれの事情や思いがあるためです。
その昔、日本では「父親の財産はそのほとんどを長男が受け継ぐもの」というのが常識でした。民法にも「長子単独相続」の規定があり、家屋敷や田畑、預貯金まで、大半を長男一人で相続するのが、当たり前のことだったのです。その代わりに先祖の供養、老親の介護などを長男夫婦が一手に引き受けるわけですから、ある意味では公平と思われていました。
ところが、終戦後の1947年に民法の大改正があり、相続についても兄弟姉妹が均等に分け合う「均分相続制」が導入されました。一見「これぞ公平な制度」に見えますが、現実に運用してみると、実感は違います。
兄弟姉妹間で泥沼の訴訟合戦に発展することも・・・
兄弟姉妹の立場や、親との関わり方などはそれぞれ異なるためです。むしろみんな同じだけもらうことが「公平」とは感じられないケースの方が多い、といえるかもしれません。それなら誰がどれだけもらえば全員が納得できるのか……相続人同士で話し合って合意できればよいのですが、事はそう簡単ではありません。
核家族化が進み、家族の絆が薄れる中、そういった思いをお互いにぶつけ合う機会は減っており、相続が発生して初めて、本音が語られることも少なくありません。ご兄弟姉妹がいる方は、家族間で相続についての考えを話し合ったことがあるか、思い返してみてください。「本音をしっかり語り合ったことがある」という方はたぶん少ないはず。
かつての「常識」がなくなってしまった今、さらにしっかりと思いや考えを伝え合う必要が高まっているにもかかわらず、お互いが思っていることを昔より理解できていないのです。たとえば老親と同居して面倒を見てきた長男夫婦は、一昔前と同じように、やはりその住まいを相続したい、と考えているかもしれません。今日でも、介護などの苦労には重いものがありますから、長男夫婦にすれば、「当然のこと」という思いがあるでしょう。
ところが別世帯として暮らしている弟や姉、妹からは「生活費やお小遣いをもらっていた」「旅行や外食の費用も親が出していた」「車を買ってもらったこともある」など、優遇されていた面の方が大きいので相続で配慮する必要はない、と見られていることもあります。長男が親の事業を手伝っている場合などにも、同様のすれ違いは起きがちです。
後継者になるため頑張ってきた長男には「職業を選ぶ自由を犠牲にした」という思いがあるかもしれませんが、他の兄弟姉妹には、「他人の中で働く苦労をせず、一般のサラリーマンより多い給料をもらってきた」と感じられることもあるでしょう。
日頃は表に出ないそんな思いがぶつかり合ったあげく、収拾がつかなくなれば、泥沼の訴訟合戦に発展することも珍しくありません。とても残念なことですが、家族のためを思って残す財産には、もしかしたら「争続」を引き起こすかもしれない火種が潜んでいることをしっかり認識しておいていただきたいのです。