争いが絶えないことから「争族」と揶揄される「相続トラブル」。当事者にならないために、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は後妻と前妻の子供との相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

後妻と前妻の子供が、初めて顔を合わせて……

相続トラブルが起きやすいパターンがあります。その一つが、前妻の子供と後妻という間柄で起きる相続です。夫が亡くなり、初めて両者が顔を合わせる。このような時、トラブルに発展しやすいのです。今回紹介するのも、そんな後妻と前妻の子供の間で起こった相続トラブルの話です。

 

結婚10年目を迎えたAさんとBさん。ふたりに子供はいません。一方Bさんには前妻がいて、その間には子供が一人いました。AさんとBさんが付き合いだしたのは、Bさんと前妻に婚姻関係があったころ。つまりふたりは不倫だったわけです。

 

その後、Bさんは前妻は協議離婚が成立。慰謝料はなく、一人息子が成人するまで養育費を払うことが条件だったと、Aさんは聞いています。Bさんとは不倫関係だったということもあり、自分にも慰謝料の請求があるのではと考えていましたが、Bさんと前妻の離婚は、意外とスムーズだったというのが、Aさんが抱いている印象です。

 

そんなある日、Bさんはシャンパンを買って帰って来ました。

 

「どうしたの、何かのお祝い?」

 

「僕には、前妻の間に息子がいること、知っているよね。Cというのだけど、今月で20歳になるんだ」

 

「あっ、そうなのね。時の流れって早いわね」

 

「そうなんだ。Aには関係ないのだけど……乾杯に付き合ってくれるかい」

 

「いいわよ」

 

こうして、ふたりは乾杯を交わしました。

 

「今月で、養育費の支払いが終わりなんだよ。これで父親も卒業だ」

 

「あれから、息子さんには一度も会っていないの?」

 

「会っていない。親権はあっちがもっているわけだし」

 

「会いたいと思わない?」

 

「思わないよ。あっちが会いたいと思ったら、会いに来るさ」

 

Bさんは、一度も息子であるCさんに会いたいと言ったことはありませんでした。「私に気を遣っているんだろうな」と思いつつ、それがBさんの優しさでもあると、Aさんにはわかっていました。

 

それから数年後、悲劇は起きました。Bさんが突然亡くなったのです。急なことに、ただ泣き続けるAさん。葬儀の最中も知人に支えられ、やっと立っていられるような状態でした。その後も何にも手につかずにいたある日、一本の電話が鳴りました。その電話の主は、Bさんの一人息子であるCさん。話があるから週末にAさんの自宅に行く、という内容でした。

 

そして週末。CさんがAさんの家にやって来ました。後妻と前妻の子供。もちろんふたりは初対面です。

 

「初めまして」とAさん。

 

「この度は、ご愁傷さまでした。といっても、僕も葬儀には行ったんですけどね。気づいていないと思いますが」

 

「そうだったんですね。急なことで頭が混乱していて……すみませんでした」

 

「いえ。そんなことよりも、今日伺ったのは、父の相続のことです」

 

「……あ、そうですよね」

 

「母は父と別れているので、赤の他人です。でも僕は血のつながりがある息子です。僕には相続する権利がある。わかりますよね」

 

「はい」

 

「父の財産は、どれくらいあるんですか?」

 

「夫名義の貯金が2,000万円くらいだったかと」

 

「この家は、誰の名義ですか」

 

「えっ……私と夫の共同名義で。権利は半々です」

 

「ではこの家の父の権利分についても、僕は1/2、相続する権利がありますよね」

 

「ちょっと待ってください。そうしたら、この家を売らないといけなくなります。夫の貯金をすべてあなたにお渡ししますから、この家は私に相続させてください」

 

「いやです。この家に関しても、きちんと分けてもらいます」

 

「なんで、そんな……」

 

そこまで話をすると、それまで淡々と話をしてきたCさんの表情が険しくなり、テーブルをバンと叩きました。ビクッとするAさん。Cさんは、大きな声でこう言いました。

 

「あんた、父と不倫していたんだろ。あんたは、俺らの家族を壊したんだ。それなのに、何図々しいこと言っているんだよ!」

 

突然のことに、何も言い返せないAさん。確かに、Bさんとは不倫関係にありました。そのことで、前妻との家庭を壊してしまったという罪の意識もあります。

 

「母は慰謝料をもらわずに、本当に苦労して俺を育ててくれたよ。それなのに、あんたらは楽しくやっていたんだろ。すべて天罰なんだよ! もらえるものは、すべてもらう。あんたの事情なんて俺には関係ない!」

 

CさんがAさんに向ける眼差しは、憎悪でしかありませんでした。「この人は何も悪くない。悪いのは私……」と、AさんはCさんの要求に、何も言うことはできませんでした。そしてBさんの財産は、すべて1/2ずつ分けることになったのです。

前妻の子供がいるなら、早めの相続対策を

遺言書がない場合、「遺産分割協議」をもって遺産の分け方を決めますが、この遺産分割協議に参加できるのは「法定相続人」だけです。

 

誰が法定相続人かというと、まず配偶者は必ず法定相続人になります。内縁関係や事実婚など、戸籍上の配偶者となっていない場合には、法定相続人にはなれません。また当然、離婚をした場合には、元夫、元妻は相続人にはなれません。

 

配偶者以外の法定相続人には優先順位があり、第1順位の法定相続人は子供になります。では下記のような家族の場合、法定相続人は誰になるでしょうか?

 

誰が法定相続人?
誰が法定相続人?

 

正解は、後妻と後妻との間の娘、そして前妻との間の息子になります。事例の場合だと、後妻との間位には子供がいないので、法定相続人は後妻と前妻との間の子供になるというわけです。

 

そして遺産の分け方の目安を定めた「法定相続分」というものがあり、配偶者と子供が相続人の場合、1/2ずつとなります。子供が複数人いる場合は、1/2をさらに均等に分けていきます。

 

事例の場合、後妻の子供は当然の権利を主張しただけの話ではあります。後妻と前妻との子供には面識がないことが多く、また前妻の子供が後妻に良い印象を持っていることは少ないことから、相続トラブルに発展しやすいという事情あがります。

 

また前妻の子供を除いて遺産分割を進めることはできません。相続が発生したら、前妻の子供に知らせる必要があります。中には「前妻の子供に相続させたくない」と、すべての財産を後妻に相続するよう、遺言書を残すケースも見られます。遺言書があれば、相続が発生しても、前妻の子供に連絡をしなくても構いません。

 

しかし、前妻の子供の「遺留分」は念頭に入れておくべきです。遺留分とは相続人が生活に困らないように、最低限の財産は必ず相続できるように保障されている権利です。どれくらいの権利が認められているかというと、法定相続分の半分です。

 

実際に遺留分の侵害が発生した場合には、間に弁護士を入れることが一般的です。そして遺留分に達するまでの遺産の受け渡しなどを行います(この手続きを「遺留分の減殺請求」といいます。また遺留分には有効期限があり、遺留分が侵害されていることを知った日から1年です。1年を過ぎると、遺留分の減殺請求はできなくなります。

 

前妻の子供が関わる相続は、残された家族に負担になるケースがほとんどです。遺言書作成など、早めの対策が肝心だといえるでしょう。

 

 

【動画/筆者が「遺留分の基本」をわかりやすく解説】

 

 

橘慶太

円満相続税理士法人

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