高齢期を迎えた多数の女性が出会う人生の一大事は、伴侶との別れだといえます。書籍『胎児のときから歩む一生』では、私たち人間が生涯の段階として必ず通るところを「胎児期・乳幼児期・児童期・思春期・青年期・壮年期・高齢期・終末期」の八期に分け、人生とその時期に関わってくる大切な人々について考察します。本記事では、そのうちの「高齢期」を取上げます。

男性の死亡年齢が女性より早い理由

高齢期を迎えて、多数の女性たちが出会う人生の一大事は永年共に過ごした伴侶との別れである。寿命年齢の男女別のデータの発表によると、平均に5歳ほど男女の死亡年齢の差があるという。

 

なぜ男性の死亡年齢が5歳も早いのかとのことについて、色々と物議が取り沙汰されているのだが・・・。一に社会生活のストレスと言われる。女性より多くの人との交わりの日々から生じてくるからであると言われる。男女共同参画社会と言われても、圧倒的に男性が家族の生計を担って進んでいるのが現状の中で、職業病とも言われるストレスから逃れられないからである。

 

「男子家を出いずれば、7人の敵あり」と昔からの諺は正しく、敵とはストレスを指しているのであろう。その解消として仕事帰りに一杯のお酒ということでバランスをとったと思われるが、一杯が一杯で終らずハシゴ酒に及ぶことが、身体に負担を及ぼし、女性より5歳早い寿命率ではないか。このように、男性の平均寿命の短さによって、大方の女性たちは夫の病との関わり、夫の死との関わりに出会うことになる。

 

私の場合、夫が病に倒れた当初はさほど深刻とは受け止めず、いずれは近いうちに完治するものと軽く考えていた。「まさか、そんなはずがない」。永年の生活の中で常に一緒の人がそんなはずはないと強く不安を打ち消し、あちこちの病院を訪ねることになる。どこかで病名を名付けてもらうことができて、具体的な治療法が見付けられないかと、必死だった。それぞれの病院の答えはいつも同じ、「高齢のために起きている症状です」

 

しかし、状態は日を追うごとに悪く変化していく。それが認知症と判ったときの驚き。夢かと思った。「何で、そうなるの」。受け入れられなかった。毎日心が萎えていく。信じられない。この歳まで、人生の荒波を乗り越え、子どもたちを育て、それぞれの立場で努力を重ね生きてきた幾歳月の様子が走馬灯のように現われる。

 

日々に認知意識を失う姿を、感じる苦しみ、悲しさだった。確かめ合い、分かり合い、争いもその価値観の差ゆえに徹底的に追及し、納得し合った日々。もうその感性も記憶もない。その姿をなかなか認められなかった。4人の娘たちをとても愛して、関わっていた。その子のことも分からなくなっていく。認知症という病を恨んだ。「どうしてこんな病にかかったの」

 

そうして10年の患いの後、旅立った。唯一できたことは、娘たちと協力して最後まで在宅介護で見送ったことである。在宅医療の充実のおかげである。言葉では“最後まで在宅を”は聞こえのよい話だが、理想と現実世界の戦いであった。簡単に事は進まないことを改めて知った10年だったが、大勢の人に助けられて、通すことができた。10年の月日は、しかし日々心の定まらない、せつない時間であった。

 

夜になるのが不安でたまらない。娘たちがそれぞれに帰り、関わってくれる人も夜はいない。夜中になると徘徊が始まる。外に出られないようにドアには夜の鍵をいくつかかける。その鍵を開けようとする音に、眠りかけていた意識がぱっと目覚める。本人に気づかれないように、足音を立てないように、様子をうかがう。

 

時折は数箇所の鍵が開いてしまう時がある。外に出ようとする夫を抱きしめ、必死に引き止める、あっという間に振り切られ、後ろにひっくり返ってしまう。ドアを出たら、どうすることもできない。街に出たら、どうすることもできない。あの恐ろしい思いがよみがえる。どんなにがんばっても、とても無理と、途方に暮れるのだった。

 

日に日に体力と気力の衰えを感じた。そんな状況を主治医から、ヘルパーさんの導入を勧められて、やっと安心して眠れるようになった。しかし、眠っていながら、どんな物音にも反応した。

 

いつも同じ不安な思い。突然に容体が変わって、「もしや」と、しばらく気配をうかがう、やっと落ち着き、続きの眠りに入るのが、常であった。朝起きて夜寝るまで、意識の中に病床に伏す夫と二人連れの一喜一憂の生活を過ごした。

 

本来なら、幾山河を共に乗り越え、手を携えやっと辿り着いたこの期。責任と義務を終えた達成感を語り合い、喜び合うはずだったのに。限りなく無念の思いが込み上げる。「明日を論ずるなかれ」「明日のことは分からない」と言われる理由が、納得できた。このような思いを指していることを。

新たな夢や願いを持てることこそ「幸福」

永い人生の道のりを、願いと夢を描き、あのようにも、このようにもしたいと。しかし、それは若き日の心と体のバランスがとれたエネルギーが持つ発想であったことを、あの時のみなぎる考えであったことを思い知った。そのとき描いた未来のその場所に辿り着いたら、思いもよらなかった事態が待っていた。2人で語ったその場所に来ることは来たのだが、想像だにしなかった未来が待っていたのだった。

 

「どうして。そんなはずない」いくら叫んでも仕方のないことで、時間をかけて、現実を受け入れるしかない。そして、また、分からない明日への願いと希望を託しながら、未来に向かうしかない。命のある限り、願いと夢を持ち続けることが、自分の“生”を輝かせることなのだと言い聞かせながら、一歩一歩と歩き続ける。

 

未来のその所に行き着いたとき、また、描き続けたこととは全然違う現実に出会っても、今までと同じように、時間をかけて受け入れ、命のある限り、また、夢と願いを未来に持って歩く。なぜならば、生きるということは、自分の考えが基になって関わる仕組みだからである。思うように運ばないこの世の中をより良く生きるためのバランスが「願いと夢」である。

 

病が来ようが、災難が来ようが、強い意志を持って、願いと夢を持ち続けて歩く。叶うことができなかった場合、願いは諦められ、夢は捨てられてしまうが、ここで踏ん張る。永年の夢を捨てた虚脱感を修復できて、心も体も元気を取り戻したら、また心を立て直して、新しい願いと夢を育てる。

 

以前の願いと夢の中身が違っても問題ではない。新たな願いや夢をもつことができたことこそが幸福なことと言えよう。それを持たずに、思いがけない障害に立ち塞がれたとき、乗り越えることはとても困難だからである。乗り越えられても、その後の立ち直りに時間を要し、行き先が見えづらく、立ち往生する。

 

目的(願いと夢)を持っていた場合、どんなに打ちのめされ、絶望しても、必ず気力を持ち直し、また息を吹き返し、生き返る。幾度も同じ繰り返しが人生であり、“生”である。としたら、命の終わるその瞬間まで、続け切ることしかない。命を永らえることこそ、人類の究極の願いと言えよう。命の輝きを死の最後の時まで、自立して迎えることができたら、最高の人生と言えよう。

 

“認知症”は大きな障害であるのだが、そのような高齢期に現れる身体的な問題をカバーできて助けられるのは、心の役割と言えよう。「心をいつも、どのように保つか」によって、身体は左右されると言っても過言ではない。身体に対して、不安を感じだしたら、まず心を呼び出して、何故不安なのかと、問いかける。

 

例えば女性の場合、排便の折に出血を見た場合、その出血が便からか、他の場所からかを注意深く見守ることから進める。その後の小用の折に、出血が無ければ“痔”だと判明できる。突然の出血は、誰もが驚き、不安になる。驚くことも不安になることも、心の状態としたら、その驚きや不安を解明し納得ができたとき、どこかへ消えてゆく。出血を見た場合、咄嗟に誰もが驚く。その時、落ち着いて現状を観察するための心の助けを借りることによって、自身の驚きの心に平穏が訪れる。

 

慌てふためいて心の備えのないまま、次の行動に進んだ場合、その物事がとかく大きく悪い方に広がる可能性を秘めている、と言えよう。そのことを思い起こし、「大丈夫。大したことでない。なにかのはずみだ。落ち着いて」と何度も自身に言い聞かせる。不安を抑えつける。驚く心を静める。それによって次への進行が、必ず良い方向に進むエネルギーが起きてくる。

 

行動を起こすことの背後に、このような進行のエネルギーが発動することを心得ることはとても重要なことと考える。冷静な心の対処を、どの場所、どの場面においても進められるのは、この高齢期こそが「人生の有識者」「人生の証言者」だからである。高齢期を迎えた人たちの今までの歩みで勝ち取ったキャリアと勇気を誇りたい。

 

高齢期の関わり

 

伴侶の発病を覚悟する

生涯で最高の自由な年代。ここまで生きてきたご褒美。

会いたい人、行きたい所へ。

家族との出会いの時期を大切に。言い残すことを感謝とともに早めに伝える。

社会的な役割の次代へのバトンタッチを。

今までの体験を、求める人に伝える。

 

 

益田 晴代

NPO親学会 理事長

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