価値観の変化やライフスタイルの多様化などにより、離婚する夫婦は多いです。明日は我が身、かもしれません。離婚は相続にも影響します。今回は、どのように相続に影響するかお伝えします。
離婚をすると相続権はどうなるのか?
結婚をしている夫婦の間では、その一方が亡くなるともう一方(配偶者)は無条件に相続人となり、遺産を相続する権利があります。また、夫婦の間に生まれた子も、相続人となります。
ですから、例えば「夫甲・妻乙・長男A・長女B」という家族があり、夫甲が亡くなった場合は妻乙・長男A・長女Bの3人が相続人となります。これは聞いたことがあると思います。
ここからが、離婚したときの話。上記の家族が離婚したらどうなるでしょうか。離婚により、夫と妻は赤の他人になります。そのため、元夫が亡くなったとしても元妻は相続人ではありませんから遺産を相続することはできません。
長男Aと長女Bはどうでしょうか? 例えば、妻乙が親権を有し、妻乙が長男Aと長女Bを連れて家を出ていってしまったら、長男A・長女Bも赤の他人になってしまうのでしょうか?
そんなことはありません。夫と子どもとは血がつながった家族ですから、夫甲と妻乙が離婚しても、長男A・長女Bは夫の相続人のままです。離婚しようがしまいが、親と子の関係は一生続くのです。
再婚して再び子供を儲けたら相続のドロ沼化に要注意!
上のケースで、夫甲は離婚後、他の女性(丙)と結婚し、CとDの2人の子どもを授かりました。この状況で夫甲が死亡した場合、相続人は誰になるでしょう。
新しい妻丙およびC、Dの3人…ではありませんよね。
正解は、妻丙、C、D、そしてA、Bの5人です。そしてこの状況が、相続のドロ沼化を招きます。
よくあるのが、妻丙、C、Dのみで遺産分割の取りまとめをしてしまうこと。遺産分割協議も終了し、ようやく一息ついた・・・と思ったころ、AやBの代理人弁護士から「AやBも相続人だから、遺産を受け取る権利があるはずだ」と連絡が入るのです。
こうなったら大変です。遺産分割協議もやり直しになりますし「A・B」と「丙・C・D」はお互い全く面識がないことも珍しくありません。見知らぬ人同士で遺産分割協議をしなければならないのです。
AやBが協議に応じなかったり、遺産分割の内容に納得しなかったら、調停に持ち込まれる可能性も高いです。そうなると、最終的には遺留分どころではなく、法定相続分の財産をAやBに渡さざるをえない場合もあります。
このような修羅場を避けるためにも、再婚して子供を儲け、かつ前妻との間にも子供がいるような場合は、あらかじめ遺言書を書いておき、遺産分割協議を経ずとも遺産分割ができるようにしておきましょう。これが残された家族に対しての思いやりです。
再婚したら連れ子は相続人になるの?
離婚後に再婚をしたとき、相手に子どもがいるという場合もよくあります。いわゆる「連れ子」です。
例えば再婚をした妻に連れ子がいた場合、連れ子と妻とは血がつながっていますから、当然連れ子は妻の相続人です。
では、この連れ子は、夫の相続人にはなるでしょうか? 結婚して一緒に暮らすのだから、当然夫の相続人にもなるだろう、とお考えの方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、そのままでは連れ子は夫の相続人とはならないのです。
もし、連れ子を夫の相続人としたいのであれば、連れ子との間で養子縁組をする必要があります。こうすれば、法的に親子関係となりますし、実の子と同じように相続権を持つことができます。養子縁組により相続人が増え、相続税を少なくする効果も期待できます。
連れ子と養子縁組した後で妻と離婚したら?
最後に、もう少し突っ込んだ話をしてみましょう。上のケースで夫と連れ子とで養子縁組をした後、妻と離婚し、妻が連れ子とともに家を出ていった場合は、夫と連れ子との養子縁組はどうなるのでしょうか?
連れ子を連れてきた妻と離婚し、妻・連れ子ともに家を出ていったわけですから、夫と連れ子との養子縁組関係も離婚と共に自然に消滅する、と思いたくなりますよね。
でも、そうではありません。妻と離婚したとしても、夫と連れ子との養子縁組が自然と解消されることはないのです。
もし、このまま夫と連れ子との養子縁組関係をそのままにしておくと、将来夫が亡くなったときに連れ子は相続人になります。夫が再婚して子供を儲けていたような場合、これまた相続がドロ沼化する恐れが極めて高いです。この連れ子と再婚した妻や子どもとは、同じ相続人ではありますが、全くの他人だからです。
このような結末にならないよう、妻の連れ子と養子縁組をした後、妻と離婚した場合は連れ子との養子縁組も解消しておくようにしましょう。
遺産分割のときに揉めるとお互い非常にストレスになりますし、相続税が生じるようなケースでは、遺産分割が整わない結果、小規模宅地の特例など税優遇の特典が受けられず余計な税金を支払わなければならない可能性もあります。
もしご自身に離婚歴があり、離婚した配偶者との間に子どもがいるような場合、ご自身がどのように事前に対処しておけばよいのかを知るため、早いうちに専門家に相談することをお勧めします。
足立 武志
足立公認会計士事務所
※本記事は、2019年7月5日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。