「相続」発生時に対象となるのは、「お金」や「不動産」といったプラスの財産だけではなく、借金や未納の税金の支払い義務などの「負の遺産」も含まれます。本記事では、司法書士法人ABC代表で司法書士の椎葉基史氏の著書、『身内が亡くなってからでは遅い 「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)から一部を抜粋し、資産だと信じて相続した「”負”動産」に苦しめられる「不動産相続難民」と呼ばれる人々の実態にせまります。

駅から徒歩30分以上、エレベーターもなく部屋は4階

リゾートマンション以外にも売るに売れないマンションはたくさんあります(関連記事「10万円でも売れない…相続した「リゾートマンション」の絶望」参照)。

 

東京都の峯岸達也さん(42歳)も売れないマンションに苦しんでいる1人です。

 

峯岸さんが相続したのは、広島県内にある築37年の分譲マンション。子供の頃、峯岸さんが暮らした家です。

 

峯岸さんは都内に自宅マンションをお持ちなので、広島に帰る予定はなく、空いた休みを利用して少しずつ遺品の整理をした後に売却しようと考えていました。

 

マンションとはいってもいわゆる昔の団地のような建物で、エレベーターもなく部屋は4階にあり、駅から徒歩30分以上かかる不便な場所にあります。ただ、それでも「多少の価値はあるだろう」と峯岸さんは高を括っていました。

 

ところが、いざ売りに出そうと地元の不動産業者に相談すると驚愕の事実が判明します。峯岸さんと同様に、売却を希望している同じマンションの物件が他に3軒あり、中には、180万円という破格で出しているものがあるにもかかわらずどれも全く売れる気配がないというのです。

 

売却は諦め、安く賃貸に出すことも考えましたが、古い物件ゆえに給湯器等の設備の老朽化もひどく、そのためにはリフォームが必要です。それには当然お金が必要で、その費用だけでも200万円以上はかかるそうです。

 

ただ、そこまでお金をかけてリフォームしても、ずっと入居者が現れない可能性だってあります。

「価値の見込み違い」で後から相続放棄はできない…

実際、このマンションは空き家が多く、特に最上階の4階は8部屋のうち5部屋が空き家になっているとのことですから、簡単に入居者が現れるとは到底思えません。

 

そうなると、リフォームに踏み切れないという峯岸さんの迷いはもっともでしょう。とはいえ、迷っている間も、マンションの場合は、管理費用と修繕費用の積立金が毎月発生します。

 

峯岸さんが相続したマンションは戸数が少ないので、一戸あたりの負担が大きく、その金額は毎月3万円を超えていました。もちろんそれ以外に固定資産税の支払いもありますので、このマンションを所有しているだけでも、年間40万円近くのランニングコストがかかってしまうのです。

 

もはやただでもいいから引き取って欲しい。それが峯岸さんの偽らざる心境だと言います。

 

峯岸さんの場合も、この物件の相続を放棄できないかというご相談だったのですが、残念ながら一旦承認した不動産の相続を、その価値の見込み違いを原因としてあとから放棄することは、家庭裁判所ではほとんど認められないのが現実なのです。

 

現在、峯岸さんは50万円というタダ同然の価格で売りに出していますが1年経っても未だ買主は現れていません。

 

しかも今後さらにマンションの老朽化が進み、万が一建て替えの話などが出てしまった場合には、積み立てた修繕費用では賄えない可能性もあるでしょう。その時に一体いくら払うことになるのか──。

 

そのことを考えると、恐怖さえ覚えてしまうと峯岸さんはため息をつきます。間違いの始まりは、安易に古いマンションを相続してしまったことです。

 

一見資産であるかのように見える不動産の相続というのは、このように実は、とても深刻な危険をはらんでいるのです。

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