グローバル化が急速に進む中、海外で子どもの幼少期や初等、中等教育等の早い段階から英語環境におくことで、英語のみならず、国際感覚を身につけさせたいと考える富裕層が増えている。本記事では、数多くの留学サポートを手がける株式会社アエルワールドで海外生活カウンセラーとして親子留学を担当する北原万紀氏が、「家族長期留学」についての最新事情を紹介する。

富裕層に広がる「新しい留学」のスタイルとは

近年、多くの人にとって「留学」は気軽になりました。

 

ただ、この留学の考え方も年々進化し、特に富裕層の中でも「教育への価値観」が高い人たちは、留学の一歩先を行っています。私が学生の頃までは英語が話せさえすれば、就職も有利でした。さらに「帰国子女」という存在がまだ希少価値が高く、英語自体がまだまだ「目的」として捉えられていた時代でした。しかし今は、英語はあくまで「手段」でしかありません。

 

近年増えているのは、英語環境に身を置きたいというより、新しい留学のスタイルについての相談です。それは、正解や憧れを海外に求めていた昔の留学とは異なり、もっと軽やかで、かつ型にはまらない自由さをもっているようです。

 

英語ができるようになってから次のステップとして考えられていたステージ。例えば「移住」や「就労」という選択を簡単にできる時代になりました。国際結婚も増え、帰国子女の両親も増えたため、「日本」とか「海外」という感覚はもはやなくなり、個人や家族の「アイデンティティの醸成」を目的とした留学。いい意味で、「私たちのスタイル」を求める家族が多くなったのです。

 

地球儀を俯瞰するように、個人や家族をどこに配置するのか。かなり高度なライフプランニングが要求されるのが新しい留学のスタイルなのです。弊社は、資産、居住場所、人間関係などのリソースをグローバルにどのようにアロケーションするかを総合的にコンサルティングする会社ですが、お子さまの教育の場所選び、つまり留学も長期的なライフプランニングの一つとして、お手伝いさせていだくようになりました。

 

小学校留学を成功させている人々の共通点

弊社へのご相談は小学生の留学が一番多いです。下は0歳からですが、多いのは5歳〜10歳くらい。小学生の留学はアイデンティティの形成や日本語の発達に問題が出るなどアンチの声もあるようですが、「家族の考え方」をしっかり持ってさえいれば、いい意味であまり気にする必要はないのではと思います(お客さまと接してて感じます)。

 

私が実際にお手伝いをしていて感じるのは、海外に「多くを求めすぎない」お客さまの姿勢。海外のご経験もあったり、ビジネスで成功していらっしゃる方々であればあるほど、ご自身や家族の中に軸があり、外的な環境への受け身の姿勢ではなく、能動的に可能性を拡げる選択肢をとられます。

 

小学校留学が成功している方々の共通点は、「渡航先がどこであってもやっていけるのだろうな」という、オープンマインドな姿勢です。そのような姿勢で、親子ともにたくさんの気づきを得て、国際人としての教養のような感覚をすんなり身に付けてこられます。

 

また、お子さまが小さい時は日本との行き来や、日本に残るパートナーとのやりとりを考慮され、時差が少ない国や飛行時間が短く行き来しやすいところを選ぶご家族が多いのが特徴です。祖父母が遊びに来やすいなど、留学をきっかけに家族全体のライフスタイルを楽しめるよう計画される方も増えています。

 

 

付き添いから「現地で生活する人」に変化する親たち

日本の中学生くらいの年齢になると、寮やホームステイができるケースが多いため、単身での留学が中心です。しかし、小学生の留学となると必ず保護者の存在が必要になります。お子さまの留学に付き添うことを目的として取得できる保護者ビザは、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシアなどで採用されています。

 

保護者ビザではなくても、適切なビザを取得すればアメリカ、カナダ、シンガポールでも親子での滞在が可能になります。昨今、現地在住の方々の情報発信でお客さまもご相談前に非常に多くの情報や知識を得ていらっしゃいます。ただし、参考にしている人が永住権保持者であったり、駐在や研究員であったりと、一見同じ海外生活ですが、日本から「留学」として渡航する方にとってはビザ手続きはまったく異なりますので注意が必要です。

 

お子さまに付き添っているお父さま、お母さまの多くは、英語力アップやご自身の可能性を拡げるために通学されます。長期になればなるほど、「留学生の親(付き添い)」というアイデンティティから、「現地で生活する人」に変化していくものです。その時に、渡航先の海外でコミュニティの中に入っていけるかどうか、そのきっかけや手段としても通学される親御さんが増えています。

 

その際は、親御さんは保護者ビザではなく学生ビザでの渡航となります。つまり、ビザ申請上は、「子どもの留学についていく親子留学」ではなく、「親の留学に子どもがついてくる親子留学」になるのです。

 

滞在先での可能性を拡げる選択とは?

通常の留学会社の基本は、帰国日を設定してその間のプランニングを行います。しかし弊社のお客さまの特徴は、帰国日を仮置きして延長や、国を変えるといった選択を残される点で他と違うようです。代表的な例は、「海外に生活の拠点を移したいけれど、合うかわからないから、とりあえず1年か2年だけ行きたい」というご相談です。その場合は、ゆくゆく就労や永住権に繋がるようなプランをご提案することになります。

 

例えば、とりあえずの2年をどう過ごすかをカナダで考えてみます。カナダは州によっては親の留学として渡航すると子どもの公立が無料になるという制度があります。この制度をうまく利用して、母親(または父親)が英語を勉強したり、現在の仕事に繋がるようなコースを、カレッジや4年生大学で受講することができます。

 

1〜2年の過ごし方は、英語に自信がない方はまず語学学校になりますが、英語力がある場合は直接カレッジ等に入学できますので、カレッジ留学を入れると約4年から5年になります。もっと滞在を延ばす場合、Post Graduate Visaを使って、卒業後に就労できます。就労経験を積むと永住権申請の可能性があります。

 

こうして、ただお子さまについていくだけの親子留学ではなく、滞在先で先の可能性を拡げる選択をする留学のご相談が増えています。

 

ビザの諸問題を解決する「投資ビザや投資永住権」とは

最後に、可能性は拡げておきたいけれど、シンプルに簡単に行いたいという方に人気の「投資ビザ」に少し触れておきます。特に、自ら海外に留学し、MBAやエリートの代名詞といえる資格をとった経験のある親御さん世代は、ビザの問題の実態をよくご存知です。ただ一方で、お子さまが実際に問題に出会ってからビザの重要性を知った方もいらっしゃいます。

 

実際にあったお客さまのご相談です。

 

「ロンドンに子ども(24歳)が留学中です。現地で弁護士の資格を取ったのですが、就職が決まりません。どうにか滞在できるビザはありませんか」

 

「アメリカに子ども(23歳)が留学していて就職活動をしています。学校出て、自力でやるといっていますが、永住権がないという理由で就職させてもらえないようです」

 

今の時代は、こんなお問い合わせが入ってきます。

 

こうした問題を先に予測して、機会を失わないように先回りして永住権を先に取得しているのが、中国、韓国、インドをはじめとした各国の富裕層です。中国に至っては、アメリカの投資永住権の獲得に15年も待つ状態です。子どもが3歳などのタイミングで、すでに20年先のために投資をしているのです。

 

またビザのルールは非常に変わりやすいために、複数を同時申請する方も増えています。居住のメインとなる国を決めて、2カ国目や3カ国目には滞在日数が少なくてもビザの維持ができる国の投資ビザを合わせて持っていらっしゃいます。

 

世界の富裕層と同じように日本でも、いつか住みたい憧れの国への移住から、教育や機会への投資戦略としての移住へと大きなトレンドの変化が見られています。

 

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