「金価格」はさらに値上がりするのだろうか?
現状を見てもわかるように、金価格は世界的な経済不安をきっかけに上昇する傾向がある。そのような不況下では、同時に株式などの価格は下落するため、一種のリスクヘッジとして、自身のポートフォリオに5〜10%ほど組み込んでおくといいという考え方もある。
では、持っていないならば、高値圏の今でも、金を購入したほうがいいのか? 冒頭にも述べたように、現状価格は今年の最高値を更新し続けている高値圏であり、過去5年で見ても最も高い。
もちろん、さらに上がる可能性もあるが、ここで所有する資産の一部を、一括で「金」に変えると高値掴みしてしまうリスクはある。合意なきブレグジット(英国のEU離脱)など、世界経済はまだまだ爆弾を抱えているので、さらに上昇すると踏んで購入するという選択肢もあるが、それはトレーダーの視点であり、資産形成のためにポートフォリオにどのくらい組み込むべきか?という堅実性を求めるときの考え方とは言い難い。
消費増税前に購入するとメリットがある?
消費増税によるメリットを考えてみるのはどうだろうか。金の売買には消費税がかかるという特徴がある。現在、消費税は8%であるが、10月より10%となることが決まっている。
購入する際に8%の消費税を支払うが、売却するときには10%の消費税が支払われることとなり、ほとんどの人にとって、この差分は益税となるであろう。
そういう意味では、ある程度のメリットが予測されるため、買い時といえば買い時であるわけだが、現在の価格が過去と比較してかなりの高値圏であることを考えると、この程度の割合では、損をするリスクももちろんある。
高値圏から積立投資を初めても大丈夫なのか?
それでは毎月少額ずつ積立投資をしていく方法はどうか。手数料の問題はあるが、手堅いといえば手堅く、価格変動を平均化で対処することで、そのリスクを減らしながら、資産の一定割合を「金」に移行することができる。この方法ならば、現在価格よりも、どれくらい長い期間続けられるかがポイントになるので、高値圏であろうが、今すぐに購入するメリットはある。
毎月12,000円ずつ積立投資をしていくことを考えてみよう。現在価格をわかりやすく1グラム6,000円とする。今月は2グラム買える。
次の月より下落していき、5年間ほど平均すると3,000円で推移した。毎月4グラム買えたことになる。
4グラム/1ヵ月 × 60ヵ月(5年)=240グラム
次の5年間は、平均すると4,000円で推移した。毎月3グラム買えたことになる。
3グラム/1ヵ月 × 60ヵ月(5年)=180グラム
このとき10年と1ヵ月の運用で、使った金額(元本)は145万2千円となる。
12,000円/1ヵ月 × 121ヵ月 = 1,452,000 円
所有する金は、422グラムとなる。
2グラム + 240グラム + 180グラム = 422グラム
ここで現金化すると、1グラムいくらならば元本割れしないだろうか。円に換金したときに、元本と同価格になる金価格をaとすると、
a円/グラム × 422グラム = 1,452,000円
a円 = 1,452,000円/422
a円 ≒ 3,457円
手数料などを考えず、ざっくりした計算ではあるが、金価格が1グラムあたり約3,457円(小数点四捨五入)以上であれば元本割れしない。この現金化のタイミングが「高騰」を条件としたもので、高値圏にあった購入時より1,000円安い、1グラム5,000円であったらいくらになるか?
5,000円/グラム × 422グラム = 2,110,000円
211万円となり、元本が145万2千円であるので、65万8千円の利益が出たことになる。
2,110,000円 − 1,452,000円 = 658,000円
購入を始めた月の価格よりは1,000円も安値となっているが、価格変動に関わらず買い増して平均化すると、このような形で利益を出すことができる。これが積立投資である。とはいえ、毎月買い増し続けるとなると、手数料は考慮しなければならない。
現物か、純金積立か、金ETFか?
金を積み立てていくとなると、延べ棒や金貨などの現物は手数料が結構かかる。また、少額から購入しようとすると、5グラムの地金(20×12.5×1.5mm、田中貴金属)などもあるが、そこまで小さな(でも高価な)モノを大量に管理・保管するのも大変だ。それでは、純金積立や金ETFなどの方法はどうだろうか?
純金積立は少額からできるメリットはあるが、手数料は高めである。現物を購入、保管もしてくれるという安心感はあるが、投資という側面で考えるとお得感はあまりない。
金価格に連動した金ETFに投資するという方法はどうだろう。現物ではなく有価証券ということもあり、手数料は他の金商品と比べると低い。しかし、気をつけなければならないのは、為替リスクである。多くあるドル建ての金ETFの場合、金価格が上昇しても、金と同様に、市場のリスクが高まっているときに買われる傾向のある「円」が上昇してしまうリスクが高い。ドル建てで金ETFを買い増ししていくとき、円高ドル安となってしまうと、金価格が上昇しても為替損が生じて、利益は薄まってしまう。為替ヘッジをつけることができる商品もあるが、その分、手数料は高くなる。
投資であるわけだから、もちろん何が正解という答えはない。ただ、投資法に関しては、価格変動の読み間違えによる失敗リスクを減らしたいのならば、積立投資は有効であるとはいえる。日々の値動きをハラハラしながら追い続ける必要もない。また、「投資を始めたいけれど、いつ始めればいいのか?」という問いに対し、「なるべく早く始めることが、その分、投資の期間を長くするメリットになる」という答えも持っているので、市場で闘うには丸腰すぎる投資初心者が、実践しながら、資産形成に一歩踏み出すには、比較的マッチした投資法といえるだろう。
高値圏でも購入する投資家たち、それぞれの思惑は?
金価格が上昇する際には、その説明として様々なメディアなどで「恐慌のリスク」が使われる。その頃には高値圏になってはいるが、上記のように積立投資などの利用で、高値掴みのリスクを減少させる投資法もあるので、高値圏でも購入されやすい。
また、もちろん上記の投資初心者の動きなどを含めて、市況などを分析し、「まだ上がる」と踏んで買いに入るトレーダーもいる。金が高騰するタイミングでは、株式市場などが下落する傾向があるので、金に資産を移す投資家もいる。この流れが大きくなると、まだ上がると踏んで参入してくるトレーダーもいる。
大まかに上記のような流れで、高騰していくわけだが、金は金融商品としての側面以外にも工業などにも使われている。金を原料として使用している工場などにとっては、金の高騰で大赤字になってしまうリスクもある。長期で積立投資をしていくのであれば、金をモノとして考えたときに、どのような価値があるか、市場にとって適切な価格はいくらくらいなのか……という視点くらいは持ってもいいであろう。