少数の意見に同調する人が表れ、やがて多数派に
会議中、頑固で自分の意見を変えない人がいると、初めは「面倒な人だな」と思っていても、そのうち「もっともな意見なのかもしれない」と考えを改めることはありませんか。そこには、マイノリティ・インフルエンスという心理現象が潜んでいます。自分自身が本当に良いと思っていることに賛成できるよう、マイノリティ・インフルエンスについて知っておきましょう。
こんな経験は、ありませんか? ある会議の場。ほぼ満場一致で無難な結論が出そうなときでも、反対意見を曲げない人がる。そんな少数派が積極的に自分の意見を主張していくと、そのうちポツリポツリと同調する人が現れ、最後には多数派にひっくり返っている、つまり会議の結論を変えてしまうという現象が発生する。
そんなとき、会議の参加者は「あの人の意見は最後までブレなくて立派だったな」「つまらない結論になるかと思いきや、刷新的な意見のほうに傾いて、面白い会議だった」という印象を持つことでしょう。「頑固な人」は「信用の置ける人物」へと評価を高め、一目置かれるようになります。
ただ、そのようにして決まった結論が、正しいものかどうかはまた別の話です。なぜなら、本当に議論をし尽くしたからこそ良い結果が出たというわけではなく、集団的な心理現象に動かされて意見がひっくり返った可能性があるためです。この心理現象を、マイノリティ・インフルエンスといいます。
「マイノリティ・インフルエンス」とは
マイノリティ・インフルエンスとは、直訳すれば「少数派の影響」という意味です。少数派が自分の意見を貫き通し、積極的に主張していると、他のメンバーが徐々に影響を受けていき、最終的には少数派意見が多数派意見にひっくり返っているという現象を指します。
マイノリティ・インフルエンスを引き起こす人を、アクティブ・マイノリティと呼びます。この際、アクティブ・マイノリティの意見が正しいものなのかどうかは関係ありません。ただ、マイノリティ・インフルエンスが起こる状況は一貫しており、それは大多数の人が確固とした自分の意見を持たない場合です。
多数派の意見に何となく流れるような会議ほど、アクティブ・マイノリティの意見は魅力的に映ります。結果、少しずつ同調から外れてアクティブ・マイノリティに味方する人が増えていき、最終的にはひっくり返ってしまうのです。
「アクティブ・マイノリティ」はその場を救えるか?
マイノリティ・インフルエンスの効果を実証するため、フランスの研究者、モスコビッチが有名な実験を行っています。4人の参加者に、色と形の違う図形の画像を1つずつ見せ、特徴を一つだけ答えてもらいました。例えば、赤くて丸い図形であれば「赤い」か「丸い」と答えればいいのです。
4人の中にはサクラを1人置き、サクラには必ず形ではなく色を特徴として挙げてもらうようにします。図形の形は一切無視で、「赤」「緑」など、色のほうを答えるのです。一貫してサクラが色を答え続けると、だんだん他の人も図形の色について答えるようになってきました。
また、モスコビッチは次のような実験も行っています。6人の参加者に青いスライドを見せ続け、何色に見えるか答えてもらいました。6人のうち2人はサクラで、「青」ではなく「緑」だと言い続けてもらうようにします。すると、他の4人のなかにも、そのうち「緑」と答える人が現れました。
モスコビッチの実験は、ポジティブなことも、ネガティブなことも伝えています。ポジティブ面は、自分の意見は少数派だと自覚していても、正しいと思ったら信念を曲げなければよい結果に転ずる可能性があること。ネガティブ面は、頑固一徹な少数派意見に、意見内容を吟味することなく集団が流されてしまう可能性があることです。
アクティブ・マイノリティに同調することが良い結果をもたらすかどうかは、心理現象そのものには関係のないことです。だから、マイノリティ・インフルエンスはとても怖いことだといえるでしょう。会社の命運を、たった一人の人が握ってしまう可能性すらあります。
心理効果を熟知したうえで意見を冷静に判断しよう
会議の議長役となるべき人は、マイノリティ・インフルエンスの効果をぜひ知っておくべきです。そして、「少数意見に流されかけている」という場の雰囲気を感じたら、一度その意見について議論を深めるようにしましょう。それまでの意見に積極的に賛成していた人を指名し、改めて意見を主張させるのもいいでしょう。空気をいち早く察知し、本当に実りある議論を促すことが必要になってきます。