性格や考え方が異なる人が集まる企業やチーム。これらをまとめなければいけないリーダーの苦労は図りきれません。そこで本連載では、組織マネジメントを行う際に利用できる、心理学の基礎知識を紹介していきます。本記事では、部下を注意するときのポイントを見ていきます。

「注意するときはまず褒める」が通念だったが…

部下に対して、「ここを直してほしいんだけれど」と思ったとき、どんな伝え方をしていますか。怒鳴り散らしても許されたのは昔の話で、今はパワハラに気をつけながら接しなければなりませんよ。新入社員をちょっと強くたしなめると、次の日から会社に来なくなってしまうことも……。「最近の若い子は」とグチる前に、接し方を変えてみなければなりません。

 

注意をするときには、ひととおり相手のいい部分を褒めてから、気をつけてほしいところを指摘するのが効果的と思っている人は多いでしょう。「今日の資料、内容は素晴らしいし、レイアウトはキレイだし、完璧だったよ! でも、分厚すぎてホチキスが止まってないページがあったから、次から気をつけてね」などといった具合です。

 

いいところをまず褒めて、相手の気持ちをほぐしてから直してほしいところを伝えるのがよい――。多くの人が聞いたことがあるセオリーでしょう。

 

しかし、次に紹介する心理実験の結果を見れば、実はそういった接し方は逆効果かもしれないということがわかります。長く「褒める→注意する」の図式を守ってきた人からすれば、ちょっと怖い結果かもしれません。

「報酬効果の心理実験」で一番好印象だったのは?

アメリカの心理学者、アロンソンとリンダーは、女子学生80名に報酬効果の心理実験を行いました。どのような褒め方が、人に好意を持たれやすいのかという印象実験です。女子学生を2グループに分け、1つのグループには助手になってもらい、もう1つのグループには助手の女子学生に7回会ってもらい、相手の印象を応えてもらいました。

 

助手には、もう一つのグループの女子学生に会う際、次の態度のいずれかを取り続けてほしいと依頼しました。

 

1. ずっと相手を褒める。

2. 相手をいったんけなし、その後で褒める。

3. 相手をいったん褒め、そのあとでけなす。

4. ずっと相手をけなし続ける。

 

以上の4つの態度を取り続けた人のうち、一番好意を持たれたのは、どんな人だと思いますか。意外にも2番、「相手をいったんけなし、その後で褒める」という行為を続けた人が、最も好意を持たれたのです。そして一番嫌われたのが、3番の「相手をいったん褒め、そのあとでけなす」という行為を行った人でした。

 

このことから、人は最後に良い言葉をかけてくれた人に好意を持つのではないか、そして自分を否定する言葉があるほど「良く自分を見ている人からの褒め言葉」が嬉しくなるのではないか、という仮説が立てられます。

 

確かに、ずっと自分を手放しで褒めている人と接していたら「この人、自分のことを本当に見てくれているんだろうか?」と不安になります。その点、長所も短所も指摘してくれる人であれば、より信頼できます。

 

さらに、最後にけなし言葉で終わってしまうと、ずっと最後の印象が残り、「感じの悪い人」という印象ができあがってしまうのではないかと考えられることも確かです。どんなに褒め言葉を並べても、注意で終われば「嫌味な上司」と思われてしまうかもしれません。

「モチベーションがアップ」する接し方とは?

ここまで読んで、「ちょっと待った!」と思う人もいることでしょう。「私が嫌われるかどうかは関係ない。どんな言い方が部下をやる気にさせ、注意点を心に留めてくれるかが大事なんだ」と。いい上司ですね。確かに、この実験はどんな言い方が好意を引き寄せるかについて実証しましたが、それ以上のことは教えてくれません。

 

「この資料、ホチキス止まってなかったから気をつけてね。資料自体は素晴らしい、バッチリだったよ!」と言ってみたところで、異性の部下には惚れられてしまうかもしれませんが、次の会議でもホチキス止めがなっていなかったら、困ったものです。感じの良い接し方と、伝えたいことが伝わる接し方は、また別かもしれません。

印象法を「面談や評価」に取り入れよう

とはいえ、自分の印象をアップさせるのに、「否定→肯定」の図式が使えるというのは確かなことです。リーダーシップを発揮するためには、自分の印象を引き上げておくに越したことはありません。好意は信頼につながります。信頼している人にビシッと言われたことは、だいぶ心に残りますよ。

 

「否定→肯定」の印象法を、まずは面談や評価の場で取り入れてみるのはいかがでしょうか。これまで「肯定→否定」一辺倒だった人も、意識して順番をひっくり返せば、新鮮な反応が得られるかもしれません。

 

この心理実験を、「言い方」や「伝え方」の技術としてだけ捉えるのではなく、リーダーである自分の魅力を引き上げるための手段として活用してみましょう。

 

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