「日本人の自己肯定感」は世界的にも低い
自信なさそうな部下を見ていて「もったいないな」と思ったことはありませんか? そんな時、自信を持ったらもっといい仕事ができるのにと、少しオーバーに褒めたりすることありませんか。でも、そのやり方は少し間違っているかもしれません。
日本人の自己肯定感が低いことは、以前から知られていました。平成25年に内閣府が実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、満13~29歳の自己肯定感が日本を含めた7ヵ国のなかでダントツに低いことがわかっています。
自分自身に満足しているかどうかという質問に、トップのアメリカは86.0%の若者が肯定的に答えており、イギリス・フランス・ドイツも80%台、スウェーデンと韓国が70%台なのに対して、日本は肯定的な答えが45.8%しかなかったのです。
また、ここ1週間の心の状態については、「つまらない、やる気が出ないと感じたこと」が7ヵ国でトップ。「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」という質問では、イギリス・ドイツ・フランスが80%台、韓国、アメリカが70%台、スウェーデンが66%なのに、日本は52.2%という数値でした。
どうも日本の若者は自己肯定感も低く、日々あまり面白くなく、挑戦する意欲も薄いという状況なのです。
じつは平成26年度に国立青少年教育振興機構が実施した「高校生の生活と意識に関する調査報告書」でも、「自分はダメな人間だと思うことがある」という質問に、日本・米国・中国・韓国の中、日本だけが7割を超えて「とてもそう思う」「まあそう思う」を選択したというのです。他国が3~5割台の数字だけに、かなり差のあることがわかるでしょう。
自信が持てなくて「失敗を極度に恐れる」ケースも
日本人の自己肯定感の低さが、日本人のもともとの気質によるものかどうかはわかりません。ただ自己肯定感の低さは、大人しさとして表れるだけではなく、プライドが高くて失敗を恐れるといった形でも表出しがちです。戦後、失敗の積み重ねから製造業の基盤を築きあげてきた日本人が、低い自己肯定感を持ち続けてきたとも考えにくいのです。
おそらく「失われた20年」とも呼ばれる経済状況や教育問題など、幅広く広くいろんなことが関わり、今のような状況になっているのではないでしょうか。
さて問題は自己肯定感の低い若い人たちが、これからどんどん社会に出てくることです。ほんの少しだけ自信を持ってくれたらと、部下の背中を支えようと動く上司の方もいることでしょう。
そのとき自尊心を高めようと、ただ褒めるだけでは効果が薄いという心理学の研究が発表されています。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターの伊藤正哉氏は、「自尊感情と本来感」という論文で、自尊感情を高めても積極的に前に出ていくような行動は生まれないと書いているのです。
では、どうすればいいのかといえば、自分らしくある感覚「本来感」を高める必要があるといいます。本来感は「主体的に自分の可能性を追求していこうとする意識」や「今よりよい自分になっていこうという意識」といった自己形成の意欲に繋がっているからです。
つまり仕事に対する姿勢や成果を褒めるだけではなく、その人らしさにつながっているのかを考える必要があるのでしょう。
「自分で決めた」と思える選択が重要
では、どのようにすれば本来感を高められるのでしょうか? これがなかなか簡単ではないようです。そもそも本来感である「自分らしさ」は、環境や年齢によって変わってくるからです。仕事でいえば、部長と平社員では「自分らしさ」も変わってきます。
また、他者との関わりで、「自分らしさ」が大きく揺らいだり、逆にぼんやりしていた「自分らしさ」の輪郭がハッキリするケースもあります。さらに挑戦することで、かつてない「自分らしさ」を手に入れることもあるでしょう。そして「自分らしさ」を求めることで成長していくといった側面もあるそうです。
では、部下の「自分らしさ」を上司がバックアップするにはどうしたらよいのでしょうか。
伊藤正哉氏は次のように書いています。
働いていれば、自分らしさに反する仕事をやらなければならない場面にも遭遇します。さまざまなつらい感情を抱くでしょう。そんなときに重要なポイントの1つは、『仕事のなかで自分で決める余地を見つけられるかどうか』という点だと思います。自分で物事を決定できているという感覚は、本来感をもつ上で重要なものの1つです
この「自分で決める余地」をフォローすることこそが、部下が自信を持つ一歩になるかもしれません。業務命令はときに個人の選択を奪いがちですが、会社が決めたらではなく、自分で決めたと思える状況をどうやってつくれるのかを、ぜひ考えてみてください。