「エンディングノート」は「遺言書」にならない
終活の一貫なのか、「エンディングノート」なるものが流行っている。自身の死に関して、生前に希望や思いを書き綴るもののようだが、法的なものではないので、その定義は曖昧である。一般的には、延命措置を望むかどうか、葬儀はどうしたいか、といったことから財産の情報や相続などお金周りのことまで、自身の希望を書き留めるノートとされる。
「法的なものではない」という部分がポイントで、エンディングノートに書かれている内容は、法的効力を持たない。読んだ家族が、希望を考慮してくれるかもしれないが、自分の財産に関して、誰に何をどのくらい遺したいのか、明確な意思があるならば「遺言書」を正しい形式で作成すべきである。
2019年8月9日にリリースされた明治安田総合研究所の「親の財産管理と金融リテラシーに関するシニア世代の意識と実態」に興味深い調査結果が載っていた。
存命中の親がいる55〜69歳の男女に「親の金融資産のうち、預貯金の状況をどの程度把握しているか」を尋ねたところ、「全てを把握している」と回答した割合が、50代前半男性(定年前正社員)9.8%、女性(定年前正社員・専業主婦)10.1%。60代前半男性(定年後有職者・定年後無職者)14.4%、女性(専業主婦)11.7%。60代後半男性(定年後有職者・定年後無職者)24.8%、女性(専業主婦)20.6%であった。
50代後半男性で10人に1人、60代後半男性でも4人に1人に満たないのが現状であり、親子間でも資産状況の正確な共有は難しいことがわかる。
資産のなかでも把握しやすい預貯金でこの割合であるのだから、不動産などが絡んでくると、さらに全体の資産の把握は難しくなることは想像にたやすい。「自身でも把握してない」という人もいるのではないだろうか。だがしかし、いざというときに相続で家族が揉めないためにも、「お盆」という機会に整理してみてはどうだろうか。後述するが、実はお盆は遺言書の作成には都合のいいことが多くある。
遺言書を「書いたつもり」になっていないか?
さて、法的に効力のある遺言書をひとりで作成するのは、案外難しいものだ。自力で作成する「自筆証書遺言」は名前の通り、自筆(手書き)で作成しなければならない。パソコンやワープロで作成したものは無効である。また、正確な日付、名前、押印がないものも無効となる。
また、修正の方法にも規定があり、修正液を使用したものなどは無効となってしまう。簡単に修正できては、改ざんの恐れがあるので、当たり前といえば当たり前かもしれないが、なにしろ手書きで労力をかけて書き上げていくものなので、ついつい「これでいいだろう」と簡単に直してしまうと、効力をなくしてしまうわけだから恐ろしい。
保管場所や検認の問題は、2018年7月6日に成立した(13日交付)「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により、自筆証書遺言に係る遺言書を法務局で保管できるようになったが、こちらの施行期日は2020年7月10日であり、まだ1年弱ほど時間がかかるのが現状だ。
お盆は家族が集まりやすく、市役所も開いている!
今すぐ簡単にできそうな自筆証書遺言は意外と難しく、ハードルが高い。というわけで、近年では公正証書遺言を作成する人が増えている。日本公証連合会が発表している2018年の遺言公正証書発行件数は110,471件と昨年と比べて280件の増加。2009年77,878件からの10年間では、ほぼ右肩上がりに推移している。
公正証書遺言は、必要な書類を集めれば、手数料はかかるが、法的に効力のある遺言をほぼ間違いなく作成できる。ちなみに手数料は財産の大きさによって増え、3億円以内であれば10万円かからない程度だ。これは段階的に細かく定められているが、たとえば500万円超え1,000万円以下ならば17,000円である。
必要な書類は本人確認資料(印鑑登録証明書又は運転免許証、住基カード等顔写真入りの公的機関の発行した証明書のいずれか)、遺言者と相続人の関係性がわかる戸籍謄本、相続人以外の人に遺贈する場合は、その人の住民票。もし財産に不動産がある場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書(または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書)が必要である。
お盆は「家族が集まる」ほかに、「市役所・区役所が開いている」というメリットもある。必要な書類を手に入れるにはちょうどいい。そして、公正役場も開いているところが多い。この機会をぜひ利用してみてはいかがだろうか。