トランプ大統領が制裁関税発動の意向を表明したことで、6月の大阪での20ヵ国・地域(G20)首脳会議の際の会談で合意した「休戦」の安堵感は失われました。今回の制裁関税対象の詳細は未公表です。ただ5月の草案通りなら、生活用品も含まれており、経済への影響が懸念されます。それでも制裁関税に向かった要因を述べます。
米中貿易戦争:トランプ大統領が中国製品3000億ドル相当に関税発動の意向を表明
米国トランプ大統領は2019年8月1日、現時点で制裁関税の対象となっていない中国からの輸入品3000億ドル(約32兆2300億円)相当に10%の関税を課すとツイッターで発表しました(図表1参照)。中国との貿易戦争のエスカレートが懸念されます。
トランプ大統領はこの新たな関税は9月1日から賦課されると説明しています。米中は貿易戦争の「休戦」で合意していましたが、休戦合意は反故になると見られます。なお中国製品2500億ドル相当への25%関税は継続する模様です。
どこに注目すべきか:制裁関税、米中首脳会議、北戴河会議
トランプ大統領が制裁関税発動の意向を表明したことで、6月の大阪での20ヵ国・地域(G20)首脳会議の際の会談で合意した「休戦」の安堵感は失われました。今回の制裁関税対象の詳細は未公表です。ただ5月の草案通りなら、生活用品も含まれており、経済への影響が懸念されます。それでも制裁関税に向かった主な要因は次の通りです。
まず、情報の整理をすると、新たな関税は9月1日から10%を賦課、その後の交渉で税率は25%を上回る可能性もあれば、引き下げられる可能性もあると述べています。8月末までの中国側の回答を強く求める交渉姿勢が伺えます。
次に、トランプ大統領は何が不満なのか?ツイッターには中国が農産物(大豆)を期待通り購入しないことと、フェンタニル(合成オピオイド:鎮痛剤目的ながら麻薬ともなっている)の米国への輸出停止が進んでいないことを挙げています。
米国産大豆は年間3000万トン前後中国に輸出されていました(図表2参照)。しかし18年の中国の報復関税後、中国の購入量は急減、19年7月末までの購入ペースも低水準にとどまっています。中国がブラジルなどに購入先を変更したためと見られます。なお、米国の大豆を生産する主な州にはアイオワやオハイオなど選挙に重要な州が含まれます。
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フェンタニルの常用は米国の深刻な社会問題です。
反対に、中国の事情に目を向けると、10月には建国70周年を迎える中国が、米国に容易く妥協する姿勢はとりにくいのかもしれません。公式でないため詳細は不明ですが北戴河会議で長老が習近平主席に圧力をかけているのかもしれません。なお、ツイッターでトランプ大統領は習近平主席を友人と呼ぶなど、米中の交渉が停止したわけではないとも思われます。問題は今回の制裁関税は選挙を意識したものであるなら中国は妥協を遅らせる可能性があることと、中国からの輸入品への制裁関税が米企業もしくは国民への増税となり、景気への悪影響が懸念されることです。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『何がトランプ大統領を制裁関税に向かわせたのか?』を参照)。
(2019年8月2日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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