FRBは量的金融緩和第3弾を最後に、15年末から金融政策の正常化を進めてきましたが、再び金融緩和路線に戻ることとなりました。ただ、市場の一部に見られた利下げ幅0.5%の大幅な引き下げは見送られました。パウエル議長は追加利下げに含みを残しており、保険的な追加利下げが続くと見られます。しかし、過度な利下げ期待は後退を迫られる可能性も考えられます。
FOMC:政策金利を0.25ポイント引き下げるも、長期にわたる利下げに否定的
米連邦公開市場委員会(FOMC)は2019年7月30、31両日に開催した定例会合を終え、市場予想通りフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを従来の2.25-2.50%から2.00-2.25%へ、0.25ポイント引き下げました。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は声明発表後の記者会見で今回の利下げについて、長期にわたる金融緩和サイクルの開始を示唆したわけではなく、下振れリスクに対する保険を意図したものだと説明し、長期にわたる利下げの始まりではないと説明しました。その上で、一度きり(の利下げだ)とは言っていないとも述べています。
なお、FOMCは緩やかながら金融引き締め効果を持つバランスシートの縮小を8月1日で終了することを決定しました。
従来、9月末の終了を予定していました。
どこに注目すべきか:利回り、不確実性、期待インフレ率、中立金利
FRBは量的金融緩和第3弾(12年9月~14年10月)を最後に、15年末から金融政策の正常化を進めてきましたが、再び金融緩和路線に戻ることとなりました。ただ、市場の一部に見られた利下げ幅0.5%の大幅な引き下げは見送られました。パウエル議長は追加利下げに含みを残しており、今後も保険的な追加利下げは続くと見られます。しかし、過度な利下げ期待は後退を迫られる可能性も考えられます。
まず、市場の反応を振り返ると、米国債市場では政策金利の動向を反映する傾向が強い2年など短期セクターでは公表後に利回りが上昇しました(図表1参照)。
一方で、長期セクターでは、恐らくバランスシートの縮小停止を好感したことなどを背景に利回りが低下と、短期セクターとは対称的な動きとなりました。
市場の予想を見ると、パウエル議長が一度きりの利下げと言っていないと断ったように、年内追加利下げを見込んでいます。しかし、過度な利下げは、景気のさらなる悪化などが無いと見込みにくいかもしれません。その背景をパウエル議長が利下げの理由とした要因から逆に探ります。
まず、利下げの理由としたのは経済の不確実性です。貿易戦争の影響で設備投資は軟調です。しかし、雇用は堅調で、個人消費も足元回復と述べています。不確実性への不安は残るものの、景気に対し弱気一辺倒ではなさそうです。
資産を「守る」「増やす」「次世代に引き継ぐ」
ために必要な「学び」をご提供 >>カメハメハ倶楽部
次に、インフレ率の低下懸念も利下げの理由としています。市場で測定される期待インフレ率(ブレークイーブンインフレ率)は低下傾向であったことなどが懸念の背景と見られます(図表2参照)。しかし、足元期待インフレ率は底打ちも見られます。声明文でも市場ベースの期待インフレ率に対する表現が、前回から若干上方修正されています。
最後に長期的な政策金利水準の見直しについてです。
前回、6月のFOMCでは、通常安定している長期的な政策金利(景気を加速も冷やしもしない中立金利と見なされる)の水準が、2.8%から2.5%へ0.3%も引き下げられました。この修正分も利下げの要因と説明しています。単純な算数で0.3%を、利下げ1回分の修正と決め付けるべきではないのでしょうが、例えば、合計で1%というような過度な利下げは、経済環境や金利水準からはやや想定しがたいと思われます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『FOMCを解説!「過度な利下げ期待」は後退を迫られる可能性』を参照)。
(2019年8月1日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
カメハメハ倶楽部セミナー・イベント
【12/10開催】
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?
【12/10開催】
不動産「売買」と何が決定的に違うのか?
相続・事業承継対策の新常識「不動産M&A」とは
【12/11開催】
家賃収入はどうなる?節目を迎える不動産投資
“金利上昇局面”におけるアパートローンに
ついて元メガバンカー×不動産鑑定士が徹底検討
【12/12開催】
<富裕層のファミリーガバナンス>
相続対策としての財産管理と遺言書作成
【12/17開催】
中国経済×米中対立×台湾有事は何処へ
―「投資先としての中国」を改めて考える