本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『身近なデータで見た経済動向』を転載したものです。

 

8月のトピック

「令和婚で5月の婚姻件数前年比ほぼ倍増に。一方、離婚増は平成最後の月に。「2000万円」報告書なければ現状判断DI悪化は回避できたのに・・。 エルニーニョ終息など景気に明るい話題もある」

 

景気動向指数の基調判断が5月分で「下げ止まり」に上方修正。6月分・7月分でも「下げ止まり」継続に

 

景気動向指数・5月分速報値では、一致CIは前月差+1.1と2カ月連続の上昇となった。一致CIの3カ月後方移動平均が2カ月連続上昇し、4月分・5月分の前月差累計が基準を上回ったので、基調判断は「悪化」から「下げ止まり」に上方修正された。5月分改定値では、一致CIは前月差+1.3と上方修正された(図表1)。景気動向指数の機械的基調判断が3月と4月と景気後退を示す「悪化」となり、昨年10月を山に、景気後退局面に入っているという見方もあったが、そうした見方は否定された。もたつきながらも、戦後最長だった「いざなみ景気」の73カ月を上回る景気回復は途切れていないことを示唆するデータとなった。拡張期間は8月で81カ月目に入っていそうだ。

 

 

 

6月分鉱工業生産指数は前月比▲3.6%と、経済産業省の先行き試算値・下限値を下回る大幅減少になった。但し、これには季節調整をかけるときに休日処理した5月1日と2日に工場を稼働した企業があった影響もある。経済産業省の基調判断は「生産は一進一退」で前月と同じであった。生産の悪化などから、8月6日に公表される6月分景気動向指数一致CI前月差は下降が予測されるものの、基調判断は「下げ止まり」継続になる見込みだ。「悪化」へ下方修正されるためには、3カ月後方移動平均の前期差が3カ月連続下降になることも必要なため、少なくとも7月分までは判断が下方修正されることはない。

 

7月の政府の月例経済報告の基調判断は「景気は、輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している」だった。海外要因による外需の弱さはあっても、「緩やかな回復」は維持されているという判断だ。

 

4~6月期実質GDP第1次速報値・前期比は3四半期連続のプラス成長に。個人消費、設備投資がしっかり

 

7月のESPフォーキャスト調査(回答期間最終日7月2日)では、19年4~6月期実質経済成長率(前期比年率)の予測平均値は▲0.17%と前月の+0.01%のプラス成長からマイナス成長に転じた。8月調査(回答期間最終日8月1日)の結果は8月8日午後3時頃の公表予定で予測平均値がどうなるかが注目される。1~3月期の反動もあり、外需の前期比寄与度は大幅マイナスになろうが、個人消費、設備投資がともにしっかりした前期比になるとみられ、4~6月期実質GDP第1次速報値・前期比は3四半期連続のプラス成長になると予測される。一部報道のように大幅に減速することはないのではないかと思われる。

 

GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の4~5月分平均比対1~3月分平均比は+1.6%の増加である。6月分が仮に前月比▲1.5%減少しても4~6月期の前期比は+1.0%になる。季節調整替えの影響がよほど大きく出なければ、6割弱のウェートがある個人消費が4~6月期実質GDPを牽引する需要項目のひとつになろう。設備投資の関連データである資本財出荷指数の4~6月期前期比は+5.0%の増加になった。資本財(除く輸送機械)は同+2.5%の増加である。また、建設財は同+0.5%の増加になった。改元対応などでソフトウエアなどの設備投資は底堅いとみられる。供給サイドから推計される4~6月期実質設備投資・前期比は底堅いとみられる。

 

昭和から平成になった89年1~3月期やミレニアムの00年1~3月期では個人消費、設備投資の前期比が高い伸び率になった。80年から18年の39年間の、4~6月期の個人消費、設備投資の前期比平均は各々+0.3%、+0.5%であり、19年4~6月期の個人消費、設備投資の前期比はこれらを大きく上回るとみられる(図表2)。

 

 

令和婚で令和元年5月の婚姻件数前年比ほぼ倍増。離婚は改元前の平成31年4月に前年同月比約2割増加

 

景気ウォッチャー調査で改元関連コメント現状判断DIを作ると、平成から令和への改元前後の4月と5月で、それぞれ55人、43人が改元にふれ、DIは58.2、55.2とどちらも景気判断の分岐点の50を上回った。

 

令和元年5月の婚姻件数(実数)は93,128件で、前年同月より45,675件も増えた。前年同月比は+96.3%と、ほぼ倍増である。いわゆる令和婚を挙げたカップルが多かったことになる。1~4月の実数の累計の前年同期比は▲14.4%と2ケタのマイナスで婚姻届を出すのを控えた様子だったが、5月分の大幅増加を加えると、1~5月分累計の前年同期比は+6.1%と増加に転じた(図表3)。

 

 

天皇・皇后両陛下御成婚の93年の前年比+5.1%、ミレニアムの2000年の+4.7%に並び、今年もしっかりしたプラスの伸び率になりそうだ。時代の変わり目は婚姻件数の増加につながりやすいようだ。

 

なお、4月分の離婚件数(実数)は21,061件で、前年同月比+19.7%と2ケタ増加になったが、5月分は16,698件で同▲6.9%の減少である。平成のうちに離婚を済ませ、すっきりして新しい令和の時代を迎えようとした人が多かったようだ。このように改元は人々の生活面に大きな影響を及ぼす出来事だと言うことが再確認された。

 

エルニーニョ現象終息。夏物需要を減少させる冷夏は回避され、8月は暑い夏に

 

エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象だ。気象庁では具体的にエルニーニョ監視海域の海面水基準値(その年の前年までの30年間の各月の平均値)との差の5カ月移動平均値が6カ月以上続けて0.5℃以上になった場合を、エルニーニョ現象と定義している。最近のエルニーニョ現象は2018年秋から発生していた。気象庁が毎月10日に発表している「エルニーニョ監視速報」の6月10日発表分では、「エルニーニョ現象が続いている。今後夏はエルニーニョ現象が続く可能性が高い(70%)。秋にかけては平常の状態になる可能性もあるが(40%)、エルニーニョ現象が続く可能性の方がより高い(60%)」としていた。70%の確率でエルニーニョ現象が今夏も続くという予測だった。エルニーニョ現象が発生していると日本では冷夏・暖冬になりやすいという傾向がある。経済産業省・商業動態統計の百貨店・スーパー販売額(旧、大型小売店販売額)を全国消費者物価指数でデフレートして、実質百貨店・スーパー販売額を求めて81年以降18年までの39年間の7~9月期の前年同期比・平均値を求めると+0.6%になる。全期間平均に比べると、エルニーニョ現象が発生している時期の前年同期比・平均値は+0.3%にとどまる。エルニーニョ現象下では冷夏になりやすいので、ビール、アイスクリームなどの飲食物やエアコンなどの夏物商品の売れ行きが悪くなるからだ。逆に猛暑になりやすい傾向があるラニーニャ現象が発生している7~9月期の実質百貨店・スーパー販売額の前年同期比・平均値は+1.6%になる。夏物商品の売れ行きが良くなる。

 

今年は冷夏になり7~9月期の販売額が芳しくない状況になるのではないかと心配されていた。今年の7月上中旬の20日間で30℃以上の真夏日になったのは、31.4℃になった7月19日の1日だけだ。なお、関東地方の梅雨の期間は長くなった。梅雨入りは平年より1日早い6月7日(頃)、梅雨明けは7月29日(頃)と平年より8日遅く、昨年の6月29日より1カ月遅れた。

 

しかし、6月の基準値偏差が+0.3℃と+0.5℃を下回った(図表4)。7月10日に気象庁から発表されたエルニーニョ監視速報によると、「エルニーニョ現象が終息したとみられる。一方、インド洋熱帯域は海面水温の高い状態が続いている。今後秋にかけてエルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態が続く可能性が高い(60%)。インド洋熱帯域の海面水温の高い状態は今後秋にかけて解消していくと予測される」ということだ。インド洋熱帯域の海面水温の高い状態は北日本の天候不順につながりやすい傾向があるというので、この点には注意が必要だが、エルニーニョ現象の終息により、これからは冷夏になる可能性はかなり小さくなったのではないか。遅ればせながら、夏物商品への需要が出てくることが期待される。

 

 

「2000万円」問題が、景気ウォッチャー調査・現状判断DIの2カ月連続悪化をもたらした

 

6月3日に公表された金融庁の金融審議会・市場ワーキング・グループ報告書、いわゆる「2000万円」の報告書が注目を集めた。世間の批判が年金問題と絡めて噴出した。また、景況感の悪化にもつながった。

 

報告書の記述をみると、「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる」、「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる」とされている。なお、約5万円の根拠は総務省の17年「家計調査年報」のものであるが、6月7日には、総務省から家計簿等の改正が行われ一層正確なデータ把握が出きるようになった18年の「家計調査年報」が公表されている。18年のデータでは毎月約4万円の不足にとどまっている(図表5)。2,000万円は相当幅をもって捉えるべき数字と言えよう。

 

 

6月の景気ウォッチャー調査で現状判断DIは44.0と5月から0.1ポイント低下し、「2カ月連続悪化した」と報道された。現状判断で「2000万円」というキーワードを使ってコメントするウォッチャーが11人出てきた。「2000万円関連現状判断DI」を作成すると、景気判断の分岐点の50.0を大きく下回る31.8となる。「2000万円関連DI」は0.1ポイント、全体の現状判断DIを押し下げたとみられる。「2000万円問題」がなければ、現状判断DIは横這いで、2カ月連続の悪化にはならなかった。

 

良好な雇用環境と整合的な、自殺者数や刑法犯総数(認知件数)の減少傾向継続

 

雇用の関連データでもある身近なデータは、6月分の完全失業率が2.3%の低水準であることなどと引き続き整合的な結果である。

 

警察庁が発表している自殺者数は18年には9年連続減少で2万840人になった。年間3万人と言われていた時代からは様変わりだ。経済生活問題から自殺する人が減っている。月次データでみると18年10月から19年2月まで5カ月連続で前年同月比増加に戻り懸念されたが、19年3月から6月まで4カ月連続で減少傾向に戻った。1~6月累計分で前年比▲3.6%の減少であり、年間で10年連続減少傾向になる可能性が大きいだろう。

 

19年上半期の刑法犯総数(認知件数)は36.4万件で前年比▲8.7%の減少である。刑法犯総数(認知件数)は16年に100万件を割り込み減少傾向が続いてきたが、今年もその基調に変化はない。防犯カメラの増加などの要因とともに、景気面もプラスに寄与してきているものと思われる(図表6)。

 

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『8月のトピック 令和婚で5月の婚姻件数前年比ほぼ倍増に』を参照)。

 

2019年8月1日

 

 

宅森 昭吉

株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 

 

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