「米FRBが利下げ、NY株が大幅下落」…と大きく報じられた。これだけ読むと、利下げ自体が株価下落に直結する出来事だと勘違いする人もいるのではないか。利下げ自体は景気を上昇するための施策であり、だからこそトランプ大統領も「利下げしろ」とこだわり続けている。利下げが行われる=FRBが景気後退局面を認めた、との判断から株価が下落するパターンもあるが、今回は利下げの幅が小さかったこと、今後も大幅な利下げがなさそうなことへの市場の失望感によるところが大きい。

トランプ大統領とパウエルFRB議長の関係とは?

「大統領として、FRB議長を解任する権限があると確信している」

 

とはいえ、FRBのパウエル議長は、そもそもトランプ大統領が任命した人物である。

 

FRBとはFederal Reserve Board(連邦準備制度理事会)の略称であり、米国の中央銀行制度のトップに当たる機関である。FRB議長の影響力は絶大だが、最終的にその任にあたる人を決めるのはあくまでも大統領だ。

 

FRB自体はホワイトハウスとは独立した機関であり、任命した大統領と言えども、議長を「正当な事由」なしには解任できない。自身の制止を聞かず利上げを続けるFRBを、トランプ大統領が強烈に批判し続けた昨年には、「とはいえ解任まではできないだろう」という意見が多く見られた。

 

それでもトランプ大統領はあきらめない。

 

ブルームバーグが6月19日に報じたところによると、今年の初め、トランプ大統領はホワイトハウスの法律顧問に「解任の選択肢」を模索するよう指示。結果、パウエル議長を降格させるに値する論拠は考えられるとの結論を得たとのことだ。6月下旬には「FRB議長を解任する権限がある」と堂々と発言するようになった。

「利下げ」への期待からNY株価は上昇していたが…

今回の「利下げ」への転換自体は、市場の予想通りの展開である。利下げへの期待感からNY株式市場は高値圏を推移していたが、利下げ幅が小幅であったこと、今後も大幅な利下げは期待できないことが判断材料となり、大幅に下落した。

 

多くのメディアが報じているとおり、市場もトランプ大統領も、利下げ自体に「がっかり」したのではなく、利下げの幅が小さく、将来も期待できないことに落胆したのである。

 

それでは、パウエル議長が利下げに踏み込むも小幅に留めた理由は何か? 市場やトランプ大統領の圧力に負けつつも「ささやかな抵抗」を見せたのであろうか? 

 

2018年、FRBは年4回の「利上げ」を実施した。しかし、今年3月のFOMCでは、すでに金融緩和への姿勢を見せていた。市場も年内の利下げを織り込み始めたのである。経済成長が鈍化していることへの対応であった。

 

6月のFOMCを経て、さらに利下げへの期待が高まると、NY株式市場は7月に入り、S&P500、ダウ平均、ナスダックなど主要な指数で過去最高値を更新した。昨年、4回も利上げを実施し、インフレのリスクをあれほど警戒していたFRBが、ここでさらに「大幅な利下げ」を匂わせることに抵抗を感じたことは想像に難くない。

 

トランプ大統領は、目的のために使える手段は使う、大衆に伝わりやすい表現を使う、という特徴があるため、つい表面にある「人対人」の対決的な部分がクローズアップされがちだ。

 

こうしたニュアンスでの報道が目立つこと自体、すでにトランプ大統領の得意とする「劇場型」に引きずりこまれており、今回の政策金利決定と今後の見通しが妥当なものなのか、専門家も大衆も冷静に判断できていないとすれば、そちらの方が大問題である。

 

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