高額・悪質な不正計算が見込まれる事案に対して、国税庁が税務調査を行った件数は、平成28年度では4万9千件にのぼっています。税金対策に躍起(やっき)になったあまり、大きなリスクを見逃しては、元も子もありません。そこで本記事では、税金対策、特に「相続税対策」について考える際に重要な「常識」について解説します。

相続税対策は、突飛な方法ほどリスクが高くなる

相続税対策は「常識」で判断すれば、道を誤ることはそうそうありません。

 

しかし常識という言葉の幅は広いものです。人によって基準が異なり、右にぶれている人もいれば左にぶれている人もいます。「常識とは何か」についてつきつめて考えると、なかなかはっきりした答えは出てきません。

 

しかしそこは難しく捉えず、ごく一般的な感覚で考えてみてください。つまり、多くの人々が持つ感覚を大事にするということです。「それはちょっと無理がある」「普通はそんなことしない」と感じる話には、裏があったり、高いリスクがあったりするということです。

 

このような「常識のバランス感覚」が必要な例として、「航空機リース」や「映画フィルムリース」などが挙げられます。これらは航空機や映画に投資することで一時的に財産を減らし、節税につなげる「節税商品」です。

 

航空機は、1機が100億円から200億円にもなります。それに対して業者が出資者を募り、同時に資金を出し合います。これが節税につながる理由は、出資額に対して飛行機の耐用年数は数年程度と短いため、減価償却費を早めにとることができるからです。その一方で、リース期間は10年から30年と長くなります。

 

たとえば、航空機に資金1000万円を出資すると、10年の減価償却なら毎年100万円ずつを損金として計上できます(定額法の場合)。そしてリースが20年契約であれば1000万円を20年かけて、少しずつ返してもらえるのです。映画フィルムリースも同様の仕組みで、これから製作される映画に対し出資して同様のことが可能です。このような節税商品は、課税を繰り延べ、納税時期を遅らせることが特徴です。

 

たとえば事業で「今期、たまたま利益がすごく大きくなってしまった」という状況が訪れた場合、節税商品に出資することで損金を作り出し、長い時間をかけてその分のお金を回収していくことができます。

 

しかし、これらは通常の節税対策からするとやや突飛なもので、税務上、まったく問題がないとは言い切れません。実際、過去にはいくつかの航空機リース訴訟、映画フィルムリース訴訟があり、「本来の事業目的と投資先の事業内容があまりにかけ離れているため、租税回避目的にすぎない」と否認されたケースもあります。

 

ここが、「常識」を判断する難しさの1つであると思います。本来の事業目的と投資先の事業内容がどのくらい関わりを持っていれば認められるかについては、人により意見が異なります。魚屋が航空機リースを行うのは是か非か。定食屋が映画フィルムに投資するのはセーフか、アウトか――。

 

このように、判断が難しいことがあった場合は、常識に立ち戻ることが一番です。自分の中の「常識」で考えた場合、それはどのように感じられるでしょうか。「自分が航空機リースをやるのは、ちょっと強引かもしれないな」と思えば、それを避ければいいのです。

税金を払って、残りのお金を手元に置くという選択肢

ちなみに私は、相続税対策として節税商品を顧客に勧めたことはありません。確かに投資も1つの方法ではありますが、最終的にお金が全部戻るには10年以上かかります。そのあいだ、何が起こるかわかりません。大病をするかもしれないし、相続が発生するかもしれません。顧客の置かれた状況にもよりますが、それなら先に税金として支払って、残りのお金を手元に置いておくほうが得策ではないかと考えます。

 

たとえば5000万円の現金があり、資産や収入の都合で半分の2500万円を納税しなければならないとします。そのまま納税すれば手元に残るのは2500万円です。

 

しかしそのまま納税したくないと1000万円の節税商品に出資したとします。残りの現金は4000万円となり、支払う税金は2000万円に減ります。しかし税金と節税商品を合わせて3000万円が出ていっていますので、手元には2000万円しか残りません。そう考えると、今そのまま税金を支払い手元に残る現金を多くしたほうが、不測の事態のリスクヘッジにもなるので安心できるわけです。

 

「節税できればどんな手段でも使う」というのは、一見顧客のためのようで、まったく逆効果になってしまう危険性をはらんでいます。

 

読者の皆様に知っておいていただきたいのは、俗にいう「相続税の節税ノウハウ」に、「誰も知らない変化球」などはほとんどないという事実です。変化球があったとしても、それは突飛な手段であることが多く、相応のリスクがあるのです。

 

ですから、「業界の裏を知っている」「税務調査をすり抜けるノウハウがある」「何でも経費にできる」などと言ってはばからない「専門家」には注意が必要です。

 

雑誌や週刊誌のあおり文句を鵜呑みにしたり、誰かの勧めるままに流されたりするのではなく、正しく適切な内容がわかる方にアドバイスなどをもらい、最終的な判断を下すべきであることを忘れずにいてください。

 

 

北村 英寿
 

北村税理士事務所 代表

税理士(東京税理士会麻布支部所属)

TKC全国会資産税対策研究会 会員 

 

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