9日、ジャニーズ事務所株式会社の代表取締役社長であるジャニー喜多川氏が、くも膜下出血のため死去した。享年87歳。1日には、ジャニーズを代表するグループ・嵐の記者会見により、体調不良で都内の病院に入院していることが明らかになっていたが、それからわずか8日でのことだった。葬儀は、一部の親族・所属事務所の男性アイドルを含めた「家族」で行われる予定だ。「アイドル文化」創始者の突然の訃報に、芸能界に悲しみの声が広がるなか、世間では今後の経営体制に注目が集まっている。

非常に優秀な経営者であった故・ジャニー喜多川氏

ジャニーズ事務所株式会社の代表取締役社長であるジャニー喜多川氏が亡くなった。グループ会社を含めた法人での資産は1,000億円、個人資産も300億円に達するとの報道もあり、莫大な相続税が発生することは想像にたやすい。

 

赤坂や六本木の一等地不動産購入など、相続・事業承継対策となりうる資産の動きも見られるが(金融資産の不動産化で資産の評価額を下げられる)、それでも庶民にとっては信じがたい金額が国に吸い上げられることは間違いないだろう。

 

才色兼備な日本男性を価値付けし、世間に夢と希望を与えつつ、大きな金額を国へ納税するのだから、非常に優秀な経営者であったといえるのではないか。

 

ただひとつ、ジャニー喜多川氏に誤算があったとすれば、それは事業承継のなかでももっとも難しいとされる「経営承継」の問題であろう。

 

超少子高齢化の日本において、団塊の世代が引退を間際に控え、事業承継は喫緊の課題となっている。

 

承継にかかる納税資金が捻出できないことが問題と捉えた経済産業省は「事業承継税制」を整え、中小企業の事業承継にかかる贈与税・相続税を時限的にゼロにするという画期的な策を講じたが、それでも多くの企業で事業承継は進まない。単なる「お金」の問題ではなく、「経営」の承継が難問であることが浮き彫りにされた形だ。

 

資産や事業規模の小さい中小企業でさえ、経営の承継は難しいのだから、グループ会社をいくつも抱えるジャニーズ事務所株式会社の経営承継が一筋縄にはいかないことは想像にたやすいだろう。

優秀な経営者でも、自分の命数を読むことは難しい

では、経営承継のどこに難しさがあるのか。多くの経営者、しかも優秀な経営者ほど陥る失敗が、「自分がこんなに早く死ぬとは思わなかった……」ということだ。つまり、自分の命数を読み間違えるのである。

 

「経営」を継ぐには後継者を育てなければならないが、これは思いのほか時間がかかる作業となる。

 

まず、「後継者」の選定だが、これが難しい。ジャニーズ事務所のように家族経営となると、さらにしがらみも大きくなる傾向がある。ほかの役員、社員の理解は不可欠であるし、後継者自身にも納得と自覚を促していく必要がある。会社が大きくなるほど、派閥などが存在し、円滑に進めるには時間がかかる。

 

経営者の力が強いトップダウン組織の場合では、「鶴の一声」で表面上は次期後継者への承継が円滑に進むが、経営者亡きあと、組織が分裂してしまう憂き目にあうこともざらだ。

 

ジャニーズ事務所の場合はどうか。代表取締役社長の肩書きのままこの世を去ったジャニー喜多川氏であるが、姪である藤島ジュリー景子副社長(52)が新社長に就任する見通しが報じられている。昨年末に芸能界を引退し、関連会社ジャニーズアイランドの社長に就任している滝沢秀明氏(37)にも注目が集まる。故・ジャニー氏が築きあげたものを「守っていきたい」という気概は大きい。

 

一方で、芸能事務所という事業の常か、上記新体制と対立する一派の不穏な空気も、まことしやかに報じられてしまう。上場会社ではないので、よからぬウワサが株価に直接影響することはないが、組織の人間関係を悪化させるリスクはある。企業としては、盤石な継承とはいいがたい。

 

所属するタレントたちの未来と可能性を信じて、多くのグループを成功させてきた千里眼をもつジャニー喜多川氏でさえ、「経営承継」は難しいということだ。自身の命数を読みながら、社内外の人間関係を調整する作業となる。

 

人はいつ死ぬかわからない。個人としての命の重さは平等だが、法人の代表者としての責任は別にある。経営者はリスク管理として、早めの事業承継に取り掛かるべきであろう。

 

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